抑えた演出で、リアルに死刑執行までの流れが描かれている。死刑に携わる刑務官、死刑になる若者どちらの心情も繊細に伝わってくる。

公務とはいえ、怨恨のない者の死を執行せねばならぬ痛み。
罪を犯したとはいえいつ来るかわからぬ死を待つ死刑囚の恐怖。

通常死刑がどのように行われているのか知る機会のない一般には死刑の現実を知るある意味良い教材と言えるのかも。

 

この映画はひとりの死刑囚の死が、新しい家庭を築く上で刑務官に休暇をもたらすという皮肉を描きつつ、決して押しつけがましくなく死刑制度の問題をつきつけてくる。

また、お見合い、結婚、新婚旅行の描写のぎこちなさがリアルで、私だったらその空気だけで嫌になりそうなところを乗り越えて、打ち解けていく様が、お見合い結婚ってこんな感じなのかなーと思ったり。

実際のところ、絞首刑の受け止め役というのはかなりきついという感じで(この映画では描かれていないが、場合によってはかなり汚いことになるようだし)、日本もアメリカの一部の州のように薬品による死刑の方が執行者の負担にならないのではという感じがするのだが。いや、やり方だけの問題ではないとはわかっているのだけど。

死刑囚がどんな罪を犯したのかはわからないが、亡霊のように立ち尽くす老年の男女の姿、そして面会に訪れるのが妹であることを考えれば、両親を殺したということなのだろうか? ただ肉親の殺害の場合、極刑になるというのは珍しいのではという気もする。

犯した罪がよくわからないという点では、この映画では死刑囚の悲壮感が強まるのだが、この点『デッドマン・ウォーキング』では死刑が執行される主人公の悲壮感に伴い、彼が犯した犯罪の残酷性が同時に再現され、安易な同情を感じさせない作りになっている。

正直私は未だに死刑制度の是非については答えが出ない。

 

とりあえず淡々と静かな映画であるが、非常に心に強く残る一本だ。