いやー、かなりやな感じの映画でした。褒め言葉ですけどね。 
ここ近年のホラー映画としてはかなり面白い部類に入ると思います。 
でも怖いと言うより辛い。まったく前知識なかったので、前半の展開には驚かされたし、俳優のリアルな演技に、なんだかもうホント地獄というか、観ていてしんどくて溜まらなかった。 
オチの付け方は好みの別れる所だけど、少なくとも中盤までは最高でした。 
若干最初からずっとむやみに緊張感を煽る演出に疲れるかなーと言う気もします。 
ミニチュアハウスの小道具がよかったです。 
エンドロールのスタッフ名の表示がオシャレでした。 

 

そうそう、あのトニ・コレットの強烈な顔立ちと顔芸はシェリー・デュヴァルに匹敵しますよ。 
あと兄ちゃん役の俳優さんのほくろがすごく印象的でした。

ネタばれ
この映画は父親と息子の視点から観ると『シャイニング』的恐怖。 
母親の視点から観ると『ローズマリーの赤ちゃん』『オーメン』的恐怖なんですね。 
しかし、娘の視点で観ると途端に中二病というか、雑に言っちゃうと『スターウォーズ』かって勢いあります。 
個人的には今自分にとって旬な恐怖が狂って家族を皆殺しにするような輩なんで、『シャイニング』的展開に一番ぞくぞくさせられました。

 

正直オカルト的な要素というのはあまり怖くないのですよ。悪魔復活的な話しになると途端に神話っぽいというか、ファンタジーっぽいというか。

ただ、オカルトは怖くないけど、オカルトを信じる精神状態が怖いというか、この物語の怖さはすべて人間の狂気なんですよ。この一家に綿々と継承されているのは悪魔と言う名の狂気。それがもたらす悲劇。

 

のっけから、どこか少女と呼ぶにはかわいげのない、違和感を覚える容貌の妹の不穏さ。男とも女ともとれるチャーリーという名前。祖母に溺愛されていたようで、それでいて体が弱く、男に生まれれば良かったと言われ、密かに鳥の首を切るというどこか病んだ娘。

 

母親も母親でどこか病んでいて、夢遊病とはいえ、シンナーとマッチを持って子供部屋に訪れるという怖さ。過去に息子を堕胎しようとさえ考えていて、息子に対する複雑な感情が見え隠れしている。これらはあたかも潜在的に子供を殺したいという意識があったかのように感じられる。

そもそも彼女の母親をはじめ彼女の家族が皆精神疾患を患って早死にという、非常に機能不全な家庭で育ってきたと思えば、彼女が病むのもむべなるかなという感じ。

 

父親は一見まともだが、いささか鈍感とも思える。鈍感だったからこの状況を維持出来たのかもしれないが、私だったら妻が事故現場をミニチュアで作っている時点でかなりやばいと思うね。このあたりの鈍感さは『シャイニング』の妻に匹敵する。

ガブリエル・バーンはもうおじいちゃんの年齢だが、結構年配で結婚したって設定なのか?

 

最初は、不穏ながら先の見えない展開にうとうとしかけたが、娘が事故死してからが一変する。

まず、妹の首が飛んだ後の兄の反応がものすごくリアルというか、ショックのあまり一筋の涙を流すものの、警察にも親にも何も言えずに茫然自失になるあたり、受け止めきれない重罪を背負った姿が本当に痛々しい。

 

翌朝、車に首無し死体を発見する母親の悲鳴だけが聞こえる演出も痛々しさが際立つ。

さらに、「耐えられない。殺して」と泣き叫ぶ母親の苦しみが本当にリアルに伝わって、とにかく見ていて辛い。自分も母親の立場だったらきっとこの苦しみに耐えきれないという気がする。

実際時に人生というのはとてつもなく残酷だ。

 

ホラー映画では簡単に人が死ぬことはあるが、ここまで一人の死が重く感じられる演出はなかなかない。

 

さらに、息子の辛さもわかりつつ、現実と向き合おうとしない態度にどこか息子を責める気持ちも捨てられない母親の葛藤が、食卓で爆発するシーンもすごくわかるというか、その上で息子もまたその責任を受け止めきれずに母親を責めるという、本来誰も責められるべきものではないのに、苦しいが故の鬱積した感情が実に見事に描かれていた。

 

オカルト抜きにしても、この家族が崩壊していくのは逃れられない気がしてくる。

もともと問題を抱えた家族である上に、娘の悲劇的な死がさらに崩壊に拍車をかける。

まさに、選択肢のない運命である。

 

意外に外部からの救い手が一切ない映画で、唯一救い手と思われた女性も逆に家族を追い詰める存在だし、閉塞された家族の息苦しさを覚える。まるで小さなドールハウスの中の出来事のように。

そういえば、シャイニングでも閉塞されたホテル、ミニチュアの迷路の中に家族の姿を見るジャックという構図があったが、狂気というのは閉塞と縮んだ世界にあるということなのだろうか。

 

なんとか家族を維持しようと務める父親でさえ、息子が顔面を打ち付けるという事態に、心が折れ、思わず泣き出してしまうあたりも胸が痛い。もはや崩壊を食い止める事が出来ない絶望を感じさせる。

 

怖いのは、オカルト的味付けはともかく時折こうした救いのない家族崩壊が現実に起こるってことだ。
時に家族のものが家族をすべて殺すという事件が起こるが、この映画はそうした事件の狂気を感じさせるものであり、やはりこれはオカルト現象はすべて母親の狂気を具象化したメタファーとして描いているだけで、母親が遺体を持ち出し、母親が父親を燃やし、最後は己の首を切り落として自殺したのではないかと思える。それでいて彼女の中ではそれらはすべて、父親の死は息子を救おうとして本を燃やした結果であるという認識のすり替えが行われている。それは彼女の母親の代から続く(いや、それよりもっと以前から?)狂気であり、案外家族を皆殺しにしてしまうような人の頭の中というのはこんな感じなのではないかと、まさに彼女の狂った精神世界を見せられている気分になる。

このような狂気を前に辛うじて生き残った兄もまた完全なる精神崩壊を起こす。

彼は悪魔に自分の体を乗っ取られたという妄想の中で生きていくこととなり、これはこれで非常に悲しい結末ではないのだろうか。彼が妹の霊に終始怯えたのは罪悪感の表れだし、妹と融合することでその罪悪感から解放されたと言えるのかもしれないが、しかしだからと言っておよそハッピーエンドとは言いがたい。

何と言っても彼は地獄の王になってしまうほど暗黒にいるのだから。

 

この映画が優れている点は、このように人間の感情を生々しくリアルに描いた点であり、人間の底知れぬ狂気と怖さを感じさせる点にある。ありきたりなまとめをさせていただくとやっぱり怖いのは人間なのである。