ドラえもんのエピソードの中でも“ポラロイドインスタントミニチュアせいぞうカメラ”で精巧なミニチュアの建物を作り、人間を縮小させる“ガリバートンネル”を通ってミニチュアタウンで遊ぶと言うエピソードが大好きで、この映画もミニチュア、ドールハウス好きとしては、そんなミニチュアの世界に住むという夢のような設定に、掴みはOKだったんですが、Yahoo評価が異常に低いあたりで嫌な予感。
でも、どうしても自分の目で確かめたくて観てしまいました。
いや、そこまでつまらない映画ではないのですよ。
ただ、ダウンサイズというキモの部分の面白さが序盤で終了しちゃうのがね。
残りは別にダウンサイズって設定がなくても全然成り立つお話しだし。
クリストフ・ヴァルツとかね、俳優はいいんですけどね、ダウンサイズって設定から期待したものはこれじゃない感半端なしです。
あと、縮小された人間が使用出来る精巧なミニチュアを作るというのは、かなり高い技術がいるんじゃないかなー。特に電子機器とか…。そういう部分をもっとリアルに描いてくれたら面白かったんだけど、ファンタジーの域を出ていないのが残念な感じ。
監督が『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』のアレクサンダー・ペインなのね。
道理でという感じ。彼はヒューマンドラマが得意な監督という感じだし、縮小された人間の暮らしとかのディテールはさほど興味なかったんでしょうね。
ネタばれ
とにかく主人公が縮小されるまでの描写が面白かった。
有機体しか縮小されないから、体にある貴金属や毛髪などは予め取り除くなどのディテールは面白い。歯の金属を取り除かなかったために頭が爆発する事故なんかも起こっている。
体が縮小される描写を映像で映さないのが残念だった。そこは映像で表現して欲しかった。
夫婦で縮小しようと約束していながらの妻の裏切りがダウンサイズとしての面白さのピークだった。
その後、縮小された世界に住む主人公は他に大きさを比較するものがないので、ただ、別の土地に引っ越して暮らしている人となんら変わらない。巨大なバラを部屋に飾るという描写が唯一面白い。
妻と離婚して孤独な男性が外交的な隣人と関わることで、ベトナム人の女性と知り合いになるというだけのこと。
とにかくこのダウンサイズの世界が完璧過ぎて、通常サイズと殆ど同じレベルで生活出来ることも不思議。
テレビなどの家電も、あんなミニチュアで作るの結構な技術じゃないですか?
このあたりのディテールをもうちょっと見せて欲しかった。例えばミニチュア製造工場の様子を見せるとかさ。
また、コロニーは完璧に守られてた状態にあるとはいえ、まったく脅威が存在しないのも不思議。あと、ここではダウンサイズしたことに対するリスクは全然語られないけど、そもそもダウンサイズした人々は通常サイズの人々の助けなしに成り立たない世界という気がするので、ある意味支配権が通常サイズにあるって言うのは怖いことのように思えるのだが。
ベトナム人の女性はダウンサイズを悪用された結果による被害者であるが、そこも割とさらっとしか描かれない。
おまけに、資産が倍増し富裕層になれるダウン社会で、壁の外側に九龍城砦みたいな貧困層の世界がいつのまにか作られていて、ほぼ外部にさらされるという非常にリスクの高い状況にあるという、「それどういうことやねん?」って言う展開。
所詮ダウン世界も世界の縮図ってことなんだろうけど、にしてもあまりにも夢のない…。そういう世界の縮図的な話しなら、ダウンサイズって設定いるか?って感じ。
そういえば一生遊んで暮らせる資産があるのに、主人公は結局仕事してたしね。
さらにあろうことか、ダウンサイズした人々がノルウェーでは、完全に外部にさらされた状態でなんの危険も存在していないこと。
いやいや、とんぼや蝶々なんてかわいいもんで、ゴキブリとか蜘蛛とか、蚊以外にも危険な昆虫はいくらでもいるだろうし、ねずみだって、鳥だって、蛇などの爬虫類だって、とにかくダウンサイズした人間にとっての脅威の数々が、この無防備なコミュニティではまったく大丈夫っていう違和感。
主人公が最後に雨の中を歩く描写も、水滴ひとつにしたって自分の体とほぼ同じサイズの水が降りかかるようなもんだし、重力とか、これまで平気だったものの比率とか、もっともっと丁寧に描いて欲しかったな。だから、ダウンサイズの世界に入りきれず、見た目はほぼ通常サイズの世界と変わらない印象しかない。
そんな物足りなさ満載の中、唐突に人類が滅ぶなんて話しになって、地下シェルターにダウンサイズした人々がこもるなんて訳のわからない感じになって、「なんか変な宗教映画でも観にきちゃったかなー」なんて不安になったら、ヴァルツがずばりと「あれはカルトだ。避難先でいずれ殺し合いになるよ」って言ってくれたのでほっとした。ちゃんと監督は皮肉で描いていたんだなと。
なんだかんだで、主人公はベトナム人と恋に落ち、これからも貧困層の人々を援助するという自分の居場所探し終了っぽい話しで終わったけど、それ、ダウンサイズすることと物語のテーマがいまいち合致しているように思えないのよね。
やっぱりそこはダウンサイズしたことによるリスクや葛藤、通常サイズとの人間との関係性を描かないとさ。
もうダウンサイズをネタに描けることはいっぱいあるのに、通常設定でも描けそうなドラマが大部分を占めちゃったのは本当に勿体ないですよ。
そうそう、ベトナム人女性は心の優しい女性だけど、まったく相手の事を考えずにふりまわす感じがあんまる好きじゃなかったな。
でもあの主人公の性格を考えると、ベストな相手かもしれない。
なにしろ、最初主人公が母親の介護をしている描写に何の意味があるんだろうと思ったけど、結婚して妻の首をほぐしたり、作業療法士だったりと、割と誰かのために尽くすことが好きな主人公という設定なんですね。彼にとっては居心地のいい関係性だと思います。
清掃員の手伝いをしている主人公を見て大笑いするヴァルツの演技はよかった。この役は悪役以外のヴァルツが演じる役柄の中でもなかなか魅力的だった。
あと、地下避難所への入口を爆破で塞ぐ際に、爆発がしょぼかったのが面白かった。
再三言いますが、ヒューマンドラマだけを切り取ってみるなら、これはこれでつまらなくはないのですよ。
ただ、この設定にこのドラマっていう残念感が先だってしまうんですよねー。