※感想はネタばれありです。
アカデミー賞の発表の前日に観ました。
実にロマンティックなお話しでした。
にしても、ヒロインのオールドミス感が半端ないけど何歳の設定なのだろう。
演じたサリー・ホーキンスは41歳だけど、もっと年配に見えた。
ヒロインが若くて美しい女性じゃないあたりにリアル感。
wikiの記載よるとギレルモ・デル・トロ監督は【『大アマゾンの半魚人』の「ギルマンとジュリー・アダムスが結ばれていたら」という考えが基になっている。】らしいが、ジュリー・アダムスは若くてべっぴんさんなのに、ギレルモはあえて若く美しくない女性をヒロインに添えている。
結果的にはそういうヒロインだからこそ、怪物を許容することに説得力があるのだけど。
ギレルモの作風とか色調はジャン=ピエール・ジュネ監督を彷彿とさせるところがあって、ヒロインが独特の生真面目さで自分の生活スタイルを築いている描写などはどこか『アメリ』を彷彿とさせ、アメリがそのまま年老いたようなイメージさえあった。
主人公が発話障害であり、独特の世界観の中で、ある種の孤独を抱えながら暮らしている。こうした女性が、人間ではなく未知なる存在によって開放(観ようによっては逃避)するというストーリーラインは新しいものではなく、ポスターや予告編から察するストーリーから逸脱することもない。感覚的には『スプラッシュ』の男女が入れ替わったバージョンと言っていいだろう。オチ的にも現世を捨てて異世界に旅立つあたりは一緒だし。
この映画はストーリーの斬新性よりも、映像美術だったり、世界観だったり、ちょっとした描写の面白さにあるのだろう。だから観ていてそれなりに楽しかったが、どこかのめり込むほどではない感じ。
人の手を食いちぎるようなモンスターに、ヒロインが恐れもなく近寄っていく心理は理解しがたく、もう少し彼らが親密になる前に互いにシンパシーが伝わる描写があってもよかったかなーという気はする。そのあたりがちょっと唐突に卵で仲良くなった感がある。
そんな中、印象深いキャラクターが、マイケル・シャノン演じるストリックランド。彼の存在はインパクトあったし、彼がアカデミー賞の助演候補にならなかったのは不思議なくらい。
ストリックランドは言葉を話せないいかにもか弱く従順そうなヒロインに惹かれるが、最終的に彼女との関係性を描ききることがないので、そのふりはなんだったんだろうという宙ぶらりん感はある。
彼がヒロインをくどくエピソードは、彼の潜在的な支配欲を象徴しているが、それは奥さんとの行為の中で妻のおしゃべりを止めて口を塞ぐという行為で描いているし、ヒロインくどきは別になくても話しとしては成り立つように思うので。
ここに登場するはゼルダという女性は若干マジカル・ニグロ的立ち位置。
どんなリスクを犯しても主人公を助けてくれるありがたい存在だ。
また、ヒロインを助けるロシア人のスパイである博士も、あっけなく半漁人をさらった人物を明かすだけの役どころに終わり、途中から「いてもいなくてもいい存在」と化していたような。
と言うわけで、少し各キャラクターの扱いが雑に思える部分もある。
半魚人も怪我を治癒したり、毛根を活性化させたり、結構なミュータントっぷりで、最後には女性の喉にえらを作るという、いささか万能過ぎな感じ。モンスターというよりはこのままアメコミヒーローになりそうな勢いあった。そういう意味ではギルマンと言うより同監督の映画『ヘルボーイ』に出てくる半漁人エイブに近いような。
もうひとり、ヒロインをフォローするのが、ちょっとノーマンロックウェル風の絵を描くイラストレーターで実はゲイなのだが、恋する男の為に不味いパイをせっせと買う一途さを見せる。だが、「脈ありかも」と思ってアクションすると激しく拒否られるあたりは気の毒。FBなんかでは恋愛対象が異性愛者か同性愛者か記載する部分もあるが、見た目では異性愛者か同性愛者か見分けがつかないってホント厄介よねーなんて思う。双方にとっての悲劇だ。
おまけに彼は仕事が写真に奪われつつある現状と、追い詰められた孤独を抱えており、そういう意味では最終的にはヒロインとモンスターの恋愛は彼が考えた夢だったようにも思える。最初と最後が彼のナレーションであることからも余計にそう思える。
これを怪獣映画と言う人もいるが、私は怪獣は出てくるけど怪獣映画というより孤独な魂が観たダークファンタジーに思える。
ちなみにモノクロのミュージカル映画のように愛を歌う描写など、あざといまでの描写が「上手いな」と思うと同時に「ちょっと鼻につく」感もあって、やっぱりこの作品を好きになりきれない感じはある。
ラストカットなど美しい描写も多くて、素敵な映画だとは思うけど、アカデミー作品賞をとるほどかなーという気持ちは個人的にはあるかなー。