人々の心を高揚させるイメージ戦略で、独裁政権を倒すというコンセプトは面白い。
独裁政権がもたらした恐怖を批判するのではなく、独裁政権を倒した際の喜びに溢れた未来を提示する、それこそが、経済が困窮していた過去に逆行することを恐れる中流や、出来レースと諦めモードの若者、恐怖に萎縮した投票棄権者たちを取り込む有効手段となることは、今の日本の投票率を上げる上で取り入れるべきものはあるかもしれない。
CMマンが手がけるのは、80年代のポップカルチャーを反映したある種のエンタメなのだが、映画はそれに反するように、エンタメ要素を廃したドキュメントタッチだったりする。
クリストファー・リーヴやジェーン・フォンダ、リチャード・ドレイファスの実際の映像も流れ、1988年当時のチリのリアルを感じる。
ただ、主人公と元妻のもどかしい関係、淡々と繰り広げられるYES陣営とNO陣営の広告合戦。多少の妨害や困難もあるにはあるが、全体的に平坦で大きく盛り上がることもなく淡々と物語が進む。
なので、お話は興味深いのだが、少々退屈な面も否めない。
主演のガエル・ガルシア・ベルナルが結構イケメンだったのが救い。
劇中「これは今の時代にマッチしたものです。人々はこういう表現を待ち望んでる。実際、今やチリは未来思考」と主人公はプレゼンの前に必ず繰り返すが、時代の空気を取り入れ大衆の心をつかむという意味では大企業のCMも、国の政治も結果は同じ。
勿論それを受け入れるバックグラウンドあってのこととは思うが、国際社会の圧力と、メディアの発達が成し遂げた血を流さぬ革命こそがチリのみならずこれからの世界の未来思考と言えるかもしれない。
特にYES陣営のCMが旧態依然としたプロパガンダ的で、相手の陣営の揚げ足をとる内容であることも注目すべき点だ。
wikiによると今もチリは世界腐敗国家ランキングでは22位、比較的しっかりした法治国家という認識になっているようだ。
※内容にはあまり関係ないが、主人公が息子を足で蹴るシーンがちょっと嫌だった。
