スプラッター・ムービーの元祖とも帝王とも言われるハーシェル・ゴードン・ルイス作品を観るのは『2000人の狂人』に続き2作目。
スプラッターが苦手ということもあって、敬遠していた監督だが、『2000人の狂人』というはったりバリバリのスケール感、笑いながら陽気に人を殺すという、陽気であればあるほど恐怖感が増すという逆説的な恐怖に迫るあたりに興味があって、思い切って観賞してみた。言うほどスプラッターばりばりでもなかったので、じゃあ、もう一本観てみようかと選んだのがこれ。

いや、この作品、アイディアは悪くないというか、面白いと思う。
マジシャンが舞台の上で行う残虐な殺人が、客席には普通のマジックに見える。
マジシャンが嬉々として内臓をこねくりまわしてる姿も観客には見えていない(このあたりの演出のいまいちわかりにくいこと)。
殺人は実際に行われているのか、観客が観ているものはすべてイリュージョンなのか、うっすらサスペンスやミステリーの要素まである。いや、あくまでうっすらね。

で、アイディアは面白いが、映画の出来としてはやはりB級である。
モンターク演じる俳優さんのどこかぎこちない力み上がった演技に(実は急遽代役が決まった若い俳優さんだとか)、どこまでもぬるくて冴えない演出ホンモノの動物の内臓を使用したというゴアシーンの粘土に血糊を塗りたくったようなねとねと感だけがみやみに突出している。
さらにひねりにひねったラストのどんでん返しに、物語は抽象的で形而上学な域にまで達したような達してないような、深いような深くないような、何かひょうたんから駒のような、嘘から出た真みたいな、ただの丸なげのような、ちゃぶ台返しのような、スクリーンに血のイリュージョンを撮り続けたルイスの偶然たどり着いた真理とも集大成とも言える結末である。

これは一見の価値があるかもしれないし、ないかもしれない。
というどこまでもどっちつかずな感想。

ちなみにこちら、2007年にリメイクされているらしい。
なんと、魔術師が クリスピン・グローヴァー! 超はまりすぎ!
さらにブラッド・ドゥーリフが出演しているらしい。灰汁強すぎ! これは観たい!
日本でメディア化されていないのは残念。
『2000人の狂人』もそうだが、ネタは悪くないので、もっとしっかり作れば傑作になるんじゃないかという予感もするが、『2000人の狂人』のリメイク『2001人の狂宴』を観る限り、欠点を直せばよくなるかと言えば案外そうでもないところが難しいところ。