これまで面白そうだなーと思った作品がポランスキー監督だったことはあるが、ポランスキー監督作品だから是が非でも観ようと思ったことはない。
ポランスキーに関しては映画の印象よりも、シャロン・テート事件や少女淫行容疑など、プライベートな部分でのスキャンダルが強烈な人という印象。
ところが先日『テナント/恐怖を借りた男』を観たら、遅ればせながらポランスキー監督の作家性に興味がわいてきた。
と言うことで、ポランスキーが亡命した祖国ポーランドに残した唯一の長篇とも、監督デビュー作とも言われるこの作品の鑑賞である。
この監督の特徴としては、まず綿密な人物描写にある。
『テナント/恐怖を借りた男』では独特の緊張感を生み、『おとなのけんか』では独特の笑いを生むナチュラルで細やかな演出だ。
この物語も三人の男女の淡々とした描写が続く。
特別大きな事件は起きないが、若者のもつナイフ、風に煽られて突如失踪するヨット、存在するだけで緊張感を生むセクシーな妻、その場を仕切りたい夫など、些細な行動、会話などから、何か大きなことに発展するのではないかという緊張感が生まれる。
その綿密な構成は見応えはあるが、同時にちょっと眠気を催す。私の場合、何度か寝入っては前に戻って見直すを繰り返してしまった。
最後にきて若者の存在はまるである種の幻想、過ぎ去りし夫婦の心に去来する若き日の自由でハングリー精神溢れた頃の象徴のようにも見える。
夫は恐れ、妻は憧憬を覚える、水の底に沈んだナイフは誰の心にも潜む、反骨精神かもしれない。
ちなみに若者を演じるジグムント・マラノウッツはイケメンであった。