『アメリカン・スナイパー』『ハート・ロッカー』『ゼロ・ダーク・サーティ』の流れから再見。
中東戦争祭りは続く。今回も公開当時に書いたレビューを転載。

ネタばれあり!

冒頭はまさに「猿でも1分でわかる中東とアメリカの確執の歴史」という感じで、さくっと背景がわかってよかった。
イランアメリカ大使館人質事件はリアルタイムでニュースを目にしていたが、既に記憶は忘却の彼方と化していたし、当時はその背景等があまりよくわかっていなかったので、改めて事情を飲み込めた感じ。
最初のイスラム過激派がアメリカ大使館を占拠するシーンはドキュメントタッチでつかみはOK!
興奮している過激派と「話し合ってくる」と颯爽と飛び出してあっちゅうまに捕まり助けを求めて結局大使館に過激派を招き入れてしまう男がなんだかまぬけ。

大使館から逃げ出した6人の外交官を救出する為に、映画撮影のロケハンに偽装するという奇策に出るというのが見所であるが、このあたりはコメディタッチなのかと思ったらそういう訳でもない。意外に大真面目というか、作品の全体のトーンはかなりシリアス。
個人的にはもっと馬鹿馬鹿しいどたばたでもよかったかなーとちょっと思う。

とはいえベン・アフレック演じるCIA工作本部技術部のトニー・メンデスが単独でイランに乗り込んでからはハラハラの連続。事実を基にと言いながら、ここからは殆どフィクションではないかと憶測するような出来すぎの展開となる。
実際「カナダの策謀」と呼ばれるこの作戦は映画ほどドラマティックなものではなく、割と地味に6人が救出されたようで、トニー・メンデスも単独でイラン入りはしていないし、6人の外交官は全員カナダ大使館に匿われていたわけではないようだ。。
ましてやバザールに撮影の下見には行っていないし、クライマックスの行き詰まる飛行場での逃走劇はほとんどフィクションのようである。
そもそも、作戦中止命令が出ているのに作戦を強行するメンデスは本来無謀過ぎる上に危険過ぎる。実際は中止命令が出たのはイラン入りする前の段階で大統領の許可もすぐおりたと言う話しだし、現実に映画のタイミングで中止命令が出て強行していたら映画のように綱渡りが成功することはなかっただろう。
この映画は事実を知らずに観たほうが、単純に娯楽映画として楽しめるかもしれない。

フィクションとして観るならばエンタメ要素たっぷりのはらはらした演出は見事で、こちらもまんまとアドレナリン大放出で楽しませていただいた。
最後に外交官たちが助かることはわかっていてもはらはらする。
外交官のバザールでの顔写真と復元された顔写真が一致するリミットと、中止命令を撤回し大統領の許可を得て航空券を予約するリミットと、ハリウッド事務所への確認電話など、ハラハラどきどき要素てんこ盛りで、大いに盛り上がる。
最後までこの作戦に懐疑的だった外交官のひとりが見事ロケハンスタッフを演じる様など実に楽しい。
映画としてはこれだけで充分面白い作品だと思う。それはまさしく逃亡劇という単純娯楽的な意味での面白さである。
BGMとして使われる中東の音楽も緊張感を煽り効果的。

エンドロールで映し出される本物の6人の外交官と俳優がそっくりなのも感心する。
よくここまでそっくりな俳優を集めたものだ。
もっとも肝心のベン・アフレックは実際のトニー・メンデスにはあまり似てないのだが。

ところで、この人質事件、444日にして人質は解放された訳だが、結局のところどうして解放されたのか映画の中ではふれていなかったので調べてみたらパフラヴィー国王が亡命先のエジプトのカイロで死亡したからだったのね。彼がもし長生きしていたらもっと泥沼の事件になっていたかもしれない。

この映画がアカデミー賞を受賞したことによって、早速イランから批判が起きている。
個人的にはこの映画を観て単純にアメリカ英雄、イラン悪役とは思わないが、しかしやはりアメリカ視点であることには変わりない。
ということでイランアメリカ大使館人質事件を別の角度で描くという『The General Staff』が製作されるようだがこれも是非観てみたい。