ある馬の物語・記事

 

 

世田谷パブリックシアター公式HP

 

白井さん演出で成河君、小西君、別所さんが出演!

これは見なくては!

と、思ってあらすじを探すためネット界隈をウロウロ・・

 

 

見つけましたよ!あらすじを。

よく読むととても心につまされるお話で・・・

えーん

泣いちゃう!これ。

心が疲れているときに見たらきっとダメージはんぱないやつだわ!これ!

もう!トルストイめ!!

ガーン

 

 

以下、お話の内容です。

知りたくない人はスルーしてくださいね。

 

 

ホルストメールは、天性の俊足を持つ名馬だったが、
人間の嫌う「まだら模様」が体中にあったため、
幼少時から価値のない馬と見なされて、ろくな扱いを受けなかった。
将軍家の厩で生まれた彼は、初めのうちは「まだら」の意味を知らず、
ほかの子馬たちとたわむれて無邪気に成長したが、
年頃になって雌馬に恋をしたとき、馬主によって去勢されてしまった。

青春を一気に失ったホルストメールは、以来、いななくことをやめ、
考えることに多くの時間を費やすようになり、
生来が聡明な彼は、周囲の人間を観察することで、
人生というものに対して自分なりの洞察を得るようになる。

例えば、人間は自分がこの世で何をなしえたか、ということよりも、
自分が何をどれだけ持っているかで、幸せの度合いを計っている、と。
「私の」という所有格の代名詞を、
より多くの名詞に対してつけることのできる人物が、より幸福だ、
と人間は考える。
「私の家」、「私の土地」、「私の女」!
それでいて、その家に住んだこともなければ、
その土地を見に行ったこともなく、
自分のものだと思い込んでいた女が、ほかの男と通じていたりする!

そんなことを考えながら、日々、黙々と、
人間の作業に使われて暮らしていた若いホルストメールの前に、
ある日のこと、目の覚めるように美しく凛々しい公爵が現れる。
公爵は将軍のところに乗用馬を買いに来たのだったが、
将軍のすすめる血筋の良い処女馬や、見事な白馬の少年に目もくれず、
作業馬だったホルストメールの、素質の素晴らしさを一目で見抜き、
「私は、あの、きれいなまだらを買おう」
と言い放つ。馬主は呆れるが、公爵は意に介さず、それどころか、
「こんなきれいなまだらは誰も持っていない」
とホルストメールを賞賛する。そして公爵は言う、「私の馬!」と。

それからの二年が、ホルストメールの最も輝かしい日々だった。
公爵には美貌の愛人マチエと、美男の御者頭フェオファーンがいて、
ホルストメールは公爵邸の厩舎で馬として最高の扱いを受け、
その俊足を存分に発揮して、颯爽と真冬のモスクワを走るようになる。
つやつやした毛並み、見事に広い背中、矢のようにすらりとした脚!
公爵の乗った、籐作りの素晴らしい馬橇を引いて、
クズネーツキィ通りを行くホルストメールは、街中の注目を集め、
風のように駆け抜ける雄姿が、皆の羨望の的となる。

そんな二年目の冬の終わり、一行は公爵の趣味で競馬観戦に出かけ、
公爵の気まぐれから、ホルストメールが競馬に急遽出場することになる。
競走馬でないホルストメールと、騎手でないフェオファーンが組んで、
ホルストメールは居並ぶ名馬を鮮やかに抜き去り、見事な一等賞を獲得する。
人々は公爵を取り囲んで惜しみなくホルストメールを絶賛するが、公爵は
どれほど高値を申し出られても「私の友人ホルストメールは譲れない」
と皆の前で公言し、ホルストメールを抱きしめる。
これが、ホルストメールにとって、生涯最良の日だった。

最良の日は、続いて、最悪の日となった。
公爵の愛人マチエが、この競馬観戦の間に新しい男と逃げたのだった。
競馬のあとホルストメールは、すぐさま馬橇に繋がれ、
正気を失った公爵によって続けざまにむち打たれ、
愛人と情夫に27キロメートル先でようやく追いつくまで走りに走らされる。
そして、更に夜中までかかってどうにか公爵邸に彼らを乗せて帰ったあと、
ホルストメールは力尽き、病に倒れてしまう。

治療と称する行為で繰り返し痛めつけられ、
とうとう、もとのようには走れなくなったホルストメールは、
公爵家から出され、仲買人に売られ、まず、老婆によって買い取られた。
この家の御者が、老婆に折檻され打ち据えられては、厩に来て泣くので、
ホルストメールは、涙が塩辛くて良い味のものだと、このとき知った。
老婆が死ぬと、彼は呉服商人の家に、次いで百姓家へと売られ、
更に何かと交換でジプシーのもとへとやられ、
巡り巡って最後に、年老いて、もといた将軍家の土地に戻ってきた。
将軍家も代替わりして、既に若い伯爵が当主になっていた。

病み、老いたホルストメールは、若い力強い馬たちから小突かれ、
たびたび打擲を受けるが、抗議もせずに過ごしていた。
そこにある晩、当主と厩頭に介抱されるようにしてやってきた客人、
それが、あの、かつてホルストメールを見いだした公爵だった。
彼に絶頂のような幸福を与え、同時に、彼の破滅の原因ともなった、
美しく残酷だった公爵は、今や、足下もおぼつかない老人に見えた。

ホルストメールが惨めな日々を送ってきたのと同様、
公爵もまた、あれから凋落の人生を歩んでいた。
酒浸りで、無一文どころか死んでも返せないほどの借金がかさみ、
それでも公爵としての自尊心と、昔の栄光にすがって、
ただ自慢話を繰り返すことしかできなくなった彼は、
老いさらばえたホルストメールを見ても、気づかなかった。

ホルストメールは、自分同様に痛ましい姿となった、かつての主人に、
心からの慈愛と敬愛を込めてゆっくりと頬を寄せるが、彼は酔眼をあげ、
「私も、昔、こんな、まだらを、持っていた」
「乗り心地も力も素晴らしさも、あれに勝るものは知らない」
というだけで、ついに最後まで、
目の前のやせこけた馬がホルストメールだとは理解しなかった。

ホルストメールは静かに、哀れな公爵の後ろ姿を見送った。

その晩、ホルストメールは、疥癬が悪化して体中が痒くなり、
その様子を見た若い当主は、厩頭に「もう処分しろ」と命じる。
「また治療するんだろう・・・・」
とおとなしく従うホルストメールにナイフの一撃が加えられた。


ホルストメールが死んだあと、そのむくろはオオカミや犬が食い尽くし、
一週間後には、納屋の外に、頭骨と大腿骨が転がっていただけだった。
やがて季節が変わり、骨を集めている一人の百姓がやって来て、
この、大きな頭骨と二本の大腿骨を拾って持って帰り、
それを、彼の農作業の道具にして役立てた。

長らく皆の厄介者でしかなかった公爵が亡くなったのは、
それよりずっとあとのことだった。
その身分に相応しく、ぶくぶくの遺体は上等の軍服で覆われ、
真新しい高価な棺に納められ、しかるべく埋葬された。
しかし、彼の皮も肉も骨も、決して、誰の役にも立たなかった・・・