こんにちは。アニメ視聴と円盤収集が趣味の一般人です。今回は、2021年に公開された劇場アニメ「サイダーのように言葉が湧き上がる」を視聴しました。

 上映時間は87分。コミュニケーションが苦手な俳句少年と、見た目のコンプレックスを隠すマスク少女が、ひと夏の出来事を通して距離を縮めていく青春アニメです。



言葉にできない気持ちを俳句に乗せて! 色彩と音楽が弾けるひと夏の青春物語

 主人公は、人とのコミュニケーションが苦手な少年「チェリー」。

 人から話しかけられるのを避けるため、いつもヘッドホンをしていて、思ったことを口に出すのも苦手。そんな彼が唯一自分の気持ちを表現できるのが「俳句」。

 一方、ヒロインの「スマイル」は、動画配信をしている人気者。

 いつもマスクをしているのは、矯正中の大きな前歯を隠すため。見た目を気にしている彼女もまた、自分のコンプレックスを抱えています。

 正反対にも見える二人がショッピングモールで出会い、SNSを通して少しずつ距離を縮めていく。

 そして、アルバイト先で出会った老人「フジヤマ」が探している思い出のレコードを二人で探すことになり、そこから二人のひと夏の物語が始まります。

 まず、見始めて最初に思ったのが……

 色がめちゃくちゃ綺麗!

 青、黄色、ピンク、緑などの色がかなり大胆に使われていて、全体的にポップで明るい。

 特に夏の風景との相性が良くて、ショッピングモールや住宅街、夕方の空など、どこを切り取っても「夏のアニメ映画」という感じがします。

 この作品はストーリーだけではなく、映像そのものから夏を感じる作品だと思いました。

 蝉の声が聞こえてきそうな暑さ、夕方になって少し涼しくなってきた空気。

 実際にその場所にいるわけではないのに、どこか懐かしい気持ちになる。

 こういう雰囲気作りが凄く上手いです。

 また、この作品で面白いのが、主人公とヒロインのコンプレックスが対照的なところ。

 チェリーは「自分の気持ちを言葉にして人に伝えること」が苦手。

 スマイルは、人前では明るく振る舞って動画まで配信しているが、「歯」という自分の見た目に対するコンプレックスを抱えている。

 二人とも「自分の本当の気持ちを他人に見せること」が苦手なんですよね。

 チェリーは俳句という形なら言葉にできる。

 スマイルは動画という形なら自分を表現できる。

 直接言葉にするのは難しい二人が、それぞれ別の方法を使って少しずつ相手に近づいていく。

 タイトルの「言葉が湧き上がる」に繋がっているように感じます。

 そして、チェリーの俳句が良い!

 自分は正直、俳句に詳しいわけではありません(笑)。

 学校の授業で「五・七・五」と習ったくらい。

 それでも、チェリーが俳句を使って自分の気持ちを表現しているのを見ると、「言葉ってこういう使い方もあるんだな」と思わされました。

 普通に「好き」と言うのではなく、五・七・五の限られた言葉の中に感情を詰め込む。

 言いたいことを全部言えるわけではないからこそ、一つ一つの言葉が重要になる。

 チェリー自身は「俳句なんて人に見せるものじゃない」という感じで考えていますが、本人が思っている以上に、その俳句にはちゃんと彼の気持ちが表れている。

 むしろ、直接話すよりも俳句の方がチェリーのことを理解できるんじゃないかと思うくらい。

 スマイルも良いキャラ!

 「カワイイ」を発信する側なのに、自分自身の「カワイイ」には自信がない。

 このギャップが良いですね。

 動画の中での「スマイル」と、チェリーの前にいる「スマイル」。

 同じ女の子なのに少し違って見える。

 人前で作っている自分と、本当の自分。

 この二つを自然に描いているキャラクターだと思います。

 そして、二人が探すことになる「レコード」。

 これが単なる青春イベントではなく、物語のもう一つの軸になっているのも良かったです。

 フジヤマが昔大切にしていたレコードを探す。

 その過程で、チェリーとスマイルが一緒に行動する。

 そして、そのレコードにはフジヤマ自身の過去や思い出が関わっている。

 つまり、チェリーとスマイルの「これから」と、フジヤマの「過去」が同時に描かれているんですよね。

 17歳の二人と、人生の終盤にいるフジヤマ。

 年齢は全然違うけれど、どちらも「大切な誰かに、自分の気持ちを伝える」という部分では繋がっている。

 この構造が個人的には好きでした。

 そして何より、この映画は「言葉」をテーマにしているのに、音楽の使い方も凄く良い。

 主題歌はnever young beachの「サイダーのように言葉が湧き上がる」。劇中歌には大貫さんの「YAMAZAKURA」が使用されています。

 俳句という「言葉」と、音楽。

 この二つが合わさって、作品全体の爽やかさを作っているように感じました。

 特にタイトルにもなっている「サイダー」という言葉。

 サイダーの泡がシュワシュワと湧き上がるように、心の中に溜めていた言葉や感情が一気に外へ飛び出していく。

 そう考えると、タイトルがかなり作品に合っている。

 ただ、個人的には87分という短さが少しもったいなく感じる部分もありました。

 もちろん短いからこそ見やすいし、青春映画として綺麗にまとまっている。

 「この二人、もっと一緒にいるところを見たかったな」という気持ちは少し残りました。

 それだけ二人のことをもっと見ていたくなったということでもあるので、個人的には好意的な意味での物足りなさです。

 そして、終盤。

 ここからはネタバレになりますが……

 最後のチェリーが凄く良い。

 今まで俳句という形でしか自分の気持ちを表現できなかったチェリーが、最後には自分の言葉でスマイルに気持ちを伝えようとする。

 それまでずっと「言葉にできない」ことが描かれていたからこそ、最後に自分の声で伝えようとすることに大きな意味がある。

 しかも、それがこの作品のタイトルにも繋がっていく。

 「サイダーのように言葉が湧き上がる」というタイトル通り、今まで内側に溜めていたものが最後に一気に弾ける。

 このラストはかなり好きでした。

  後書き

 派手なバトルがあるわけでもない。

 もの凄い事件が起きるわけでもない。

 郊外のショッピングモールで、二人の高校生が出会って、少しずつ距離を縮めていく。

 ただ、それだけなのに妙に心に残る。

 特に「言いたいことがあるのに、うまく言えない」という部分は、程度の差こそあれ誰にでも経験があるんじゃないでしょうか。

 自分も「これ言えばいいだけなのに、なんで言えないんだろう」みたいな経験は普通にあるので、チェリーの気持ちは結構分かる気がしました。

 そういう言葉にできなかった気持ちを、俳句や動画、音楽を通して少しずつ相手に伝えていく。

 青春っていいなぁ……。

 自分もこんな青春を送りたかった(笑)。

 夏の暑さ、夕方の空気、好きな人に言葉を伝える緊張感。

 87分という短い時間の中に、そんな「ひと夏」がぎゅっと詰まった作品でした。

 見終わった後に、少しだけ外に出て夏の空気を吸いたくなるようなアニメ。

 こういう爽やかでちょっと切ない青春映画、やっぱり良き!