千本桜を歌い終えたばかりのサヤカがハァハァと息切れしながらワタシを見てこう言った。

 

「ねぇ!ハルカも今から一緒に行こうよ!面白い人いっぱいいるし、絶対に楽しいから!」

 

返事に困り、ワタシは黙りこんでしまった。

 

隣の部屋から演歌のような歌が聞こえてくる。

 

学校帰りにカラオケに行くと高確率で隣の部屋から聞こえるのはこういう感じの歌だ。

 

ワタシはすでに答えは出ているのにウ~ンとしばらく考えるふりをしたあと、

 

「今日はやめておく。帰ってテレビも見たいし。」

と言った。

 

もちろんそれは、ボカロ好き達のオフ会なんて怪しい場所にわざわざ興味もないのに行くか、と唯一の友達と呼べる存在に言えるはずもないために出てきた言い訳にすぎなかった。

 

「ふーん。」

とサヤカはこれといった感情も込めずに言った。

 

サヤカは意外とアクティブだった。

 

クラスで一番地味で一番じんちくむがい(ってどんな漢字?)な顔だちをしているということがもともとワタシがサヤカに話しかけた理由だったのに。

 

「そっか残念だね。じゃあまた今度誘うから。いつか気が変わったら一緒に行こうね!」

サヤカはクリクリした瞳でワタシに言った。

 

カラオケを終え、自宅への帰り道である商店街をワタシは一人で歩いていた。

 

野菜が安いということや魚の活きが良いということや2時間2千円であるということを伝える声が至る所で飛び交っていた。

 

小さな頃から見慣れた景色ではあるけれど、その景色がワタシにどのように関わるのかはこの歳になっても何の実感も及ばないままだった。

 

まるで水の中の光景のようにそれは現実感のない出来事だった。

 

もしかしたら、例えば一人暮らしなんかをすれば関わりが実感できる日が来るのかもしれない。

 

でももしそうなったら、うまく言葉にできないけれど、そのワタシは今のワタシではないということだ。

 

このように全ての事柄はワタシと無関係に過ぎていった。

 

歩きながらいままで何度も漠然と思ってきたことをまたフト思った。

 

不毛で愚かな質問。

 

それは言葉にするとこうなるのだった。

 

「こうやって誰とも繋がっていないのに、繋がっているような気分と錯覚だけを味わいながら、ワタシはずっと歳をとるのかな?」