「50日齢」 50 days old ブロイラー(国産鶏肉)の最期の一日 | 認定NPO法人アニマルライツセンター

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餌が止められた。

何か雰囲気が違う。

雛たちは不安な夜を迎えた。

真夜中。大勢の人が入ってきて雛たちを捕まえ始めた。あちこちでピーヨピーヨと悲鳴が聞こえる。鶏は30種類くらいの発声を複雑に使い分け、気持ちを表現し、仲間と会話をするが、この声はパニック、恐怖、そして助けを求める声だった。メイは他の雛の恐怖の声を聞いて必死で逃げようとしたけれど、暗い鶏舎の中でどこに逃げればいいのか分からない。出口も分からない。身を隠すところもない。少しでもこの騒ぎから逃れられるよう、メイは隅の壁にぴったりと体をつけ、恐怖が去るのを待った。他の雛たちの悲鳴、人の足音、カゴ同士が当たった時のガチャガチャいう音。カゴがドサっと落とされ、メイは見なくてもその音だけで恐怖に陥った。息をひそめる。しかし人が近づいてきた。もう逃げることはできない。

メイは片羽で持ち上げられた。3kgになった自分の体重が片羽にかかり、メイは悲鳴をあげた。初めて経験する痛みに大きな叫び声をあげながら、狭いかごの中に押し込まれた。

それからトラックに乗せられた。格子のむこうにメイが初めて見る外の景色があった。はじめて見る世界。でもずっと鶏舎に閉じ込められていたメイにとって、道路の騒音、トラックの音はただ恐ろしいだけだった。メイが閉じ込められたカゴは狭く、立ち上がることもできない。一緒に籠の中に入れられた仲間の中にはひっくり返ったまま起き上がれない雛もいた。別の雛は捕鳥作業で足がちぎれてなくなっていた。カゴとカゴを運ぶレールの間に挟まれたのか。

大きな建物にトラックがとまった。建物の中からも雛のピーヨピーヨと叫ぶ声が聞こえる。メイたちにはその意味が分かる。「助けて!」「怖い!」雛たちは助けを求めていた。何が起こるんだろう。不安と恐怖がずっと続いていた。どこかに隠れたかった。でもどこにも隠れるところはなかった。ブロイラーの雛が安全でいられる場所など、この世界にどこにもない。

カゴがトラックから降ろされ、ベルトコンベアで順々に運ばれていった。しばらくするとメイのカゴの蓋が開き、メイは足を持ってつかみだされた。逆さ吊りにされて、メイは泣いた。雛たちはみんな泣いていた。逆さ吊りにされると膨らんだ臓器が圧迫されて苦しく、羽根をばたつかせて起き上がろうとしたが、もうどうにもならない。

もがき続けて数十秒後、メイは殺された。

体重3005g

 

あなたにできること

50日目の鶏舎に嘴の曲がった雛が居ました。体が恐ろしくやせ小さく、飲水器や給餌さらに長い間届かなかっただろうと思います。飢えと脱水に苦しみながら、これまで生き延びてきました。

「アニマルウェルフェア」ではこういう雛は早期に淘汰することが求められます。苦しみが長引くだけだからです。しかし畜産では数万の鶏を一人で管理するというのが一般的です。一羽あたり500円と言う取引価格を考えると人件費に割けるのはせいぜいその程度でしょう。一人で数万羽を管理。苦しんでる雛をすべて見つけ出して殺すという作業さえ出来ないのが現状です。鶏舎の中にはひっくり返ったままの雛がいます。肺が圧迫されそのままでいると苦しんで死んでしまいます。作業者はそういった雛を見つけると起こしますが、見つけてもらえずそのまま死んでしまう雛もたくさんいます。

環境が良くても苦しむ

先日、福祉的な環境を用意して飼育しても、ブロイラー(日本の肉用鶏のほぼ100%を占める、急速に成長する種)は苦しむと言う研究が発表されました。鶏はそれほどまでに過酷な「品種改良」が行われています。かれらは生まれながらに苦しむことを運命づけられています。品種改良で苦しんでいるのは肉用に飼育されるブロイラーだけではありません。採卵鶏はたくさん卵を産まされるようになった結果、自らに必要なカルシウムまで排出し、骨折、生殖器障害に苦しんでいます。

苦しみの根本

これらの苦しみの全ての原因は、動物を経済利用する、と言うことにあります。

畜産動物はあくまで経済動物であって利用する側は利益も考えなければなりません。一方、自ら訴えるすべをもたない動物はいかようにも利用されてしまいます。それが過酷な品種改良、過密飼育、雛たちの過酷な一生につながっています。そこに歯止めをかけることは容易なことではありません。海外で、アニマルウェルフェア認証をとった農場で次々と虐待が発覚しているのは、どのような基準であっても動物の経済利用を肯定する前提であればうまく機能しないことを示しています。畜産動物を経済動物と言うカテゴリーにいれ続ける限り、この苦しみに終わりはありません。

アニマルウェルフェアを高めても苦しみはなくなりません。たとえばベターチキンというアニマルウェルフェア基準は、1平方メートル当たり10羽、メイたちの鶏舎が16羽ですからかなり緩和されます。しかし一般的な常識に照らして考えると酷く過密な虐待飼育です。床が糞だらけになるのも変わりはありません。それでも許されるのは彼らが経済動物と言うカテゴリに入れられているからです。ベターチキンで容認される鶏種も品種改良が続けられたブロイラー種であることには変わりなく、同じように骨格障害で苦しむ鶏が出ます。産まれて間もない子供を殺すという仕組みも変わりありません。捕鳥作業時の声を聞いてみてください。大人の鶏の声ではなく、ヒーヨヒーヨというまだ小さな子供の鳴き声です。

今後畜産がしばらくは続くことを考えると(社会学者のJacy Reeseは培養肉等の代替技術の登場により全ての畜産は2100年に終了すると主張しています)、苦しみを少しでも減らすためにアニマルウェルフェアの取り組みは必要です。

しかしこの問題の解決させたいと思うのであれば、重要なことは、動物を経済利用するという長年続けられてきた搾取のシステムを崩すことです。幸い、今は多くの人がSNSなどを使い、動物の実態を知るようになっています。そしてヴィーガンを選択する人も着実に増えています。代替肉市場は史上空前の勢いで広がっています。この勢いを加速させ、2100年といわず、もっと早く動物を解放させることは可能です。

私たち一人一人が動物の現状を発信し、企業や飲食店に声を届け、周りの人に知らせ、行動をおこせば。

 

ブロイラーの50日間サイト 

一日目から見る

https://50days.jp/