7/23「マジック界の神」の後のお話です。
20世紀最高のイリュージョニスト、デビッドカッパーフィールドのショーに啓発を受け、俺が目指したもの。
それはマジック(手品)を演じるマジシャン(手品師)ではなく、マジック(魔法)を演じるマジシャン(魔法使い)です。
今のスタイルは、その頃から何年もかけて築き上げてきました。
それまでは、俺のマジックを観ると驚きで酔いが覚めてしまったり、不思議さに頭を抱え考え込んでしまうお客様もいました。
これは、俺が主張していたものが〝トリック〟だったからです。
マジックを始めたきっかけがMr.マリックへの憧れだったこともあり、俺のマジックは超魔術的なものばかりでした。
念動、貫通、瞬間移動、浮遊などのビジュアルな現象を、特に何の説明もなしに見せていたのです。
これは例えるならビックリ箱と同じで、一過性の刺激はありますが後々まで影響を与えるものではありません。
俺のように不思議なことが大好きな方ばかりなら問題ないのですが、興味がない方だっています。
不思議な現象を見せただけでは全てのお客様に満足してもらえませんし、俺自身を印象付けることも出来ません。
キャラが立っていないのに視覚効果の大きいマジックをすれば、その現象(トリック)がメインとなるのは当然です。
主張するものがトリックだけなのですから、観客の興味が種明かしに向いてしまうのも仕方ないでしょう。
デビッドのショーを観て気付いたのは、彼のマジックは主張するものが〝ストーリー〟だということ。
あくまで夢のあるストーリーがメインであり、マジックはそれを伝える手段に過ぎません。
ストーリーに魅力があれば、観客はトリックだけに興味を奪われることもなくなります。
フィクションは承知で、錯覚に酔いしれながら「ウソの世界」にだまされる快感に溺れていく…
虚構の世界で遊びながら、現実世界ではけっして味わえない感動や感激を味わうことが出来る…。
こんな演出を可能にするマジシャンは、お客様の心にいつまでも印象深く残るに違いありません。
現に俺も、デビッドの表現するストーリーに心を打たれたのですから。
そこにはまさに、俺の理想の世界がありました。
ストーリーに魅力を持たせる為には、アクト(演技)が必要不可欠です。
左手に隠して右手に持っているフリをする…それも演技ですが、それだけでは足りません。
自分自身がアクター(俳優)となって物語を演じることで、お客様を夢と魔法の世界へ引き込み「感動」を生み出すのです。
日常では絶対に起きないような現象が、ごく当たり前に起こる世界。
デビッドのイリュージョンはこの〝非日常的な世界〟をつくり出す為に、様々なセットや衣装、光や音楽を使います。
そしてお客様もマジックに協力してもらうことで、インタラクティブな空間を演出して感動を共有しています。
俺には大掛かりな舞台や多彩な衣装、照明や音響を駆使したショーは出来ません。
「観る・聴く」+「参加する」=「感動」
この仕組みは理解した
問題は、参加したくなるような〝非日常的な世界〟をどうやってつくり出すかだ…
「非日常的な世界」を具現化して成功した例といえば、何を思い浮かべますか?
俺が真っ先に思い浮かべたのは〝夢と魔法の国〟…そう、『ディズニーランド』です。
サービス発展途上国だと言われる日本のサービス業界において、毎年2500万人を超える入園者数を誇り、その9割がリピーターという東京ディズニーリゾート。
ディズニーの心理戦略を知ることで、何か掴めるかもしれない…。
俺は休日を利用して、当時住んでいた秋田から遠路はるばる千葉へと車を走らせました。
まだ一度も訪れたことのない東京ディズニーランド(以下TDL)へ向かって。
TDLの魔法は、パークに入る前から始まっていました。
駅や駐車場のあちこちに埋め込まれたスピーカーから「くまのプーさん」などゆったりしたBGMが流れているのですが、ゲートに近づくにつれ「ミッキーマウスマーチ」などアップテンポな曲へと変わっていきます。
TDLが近づきワクワクし始めるゲストの心理を、音楽を使って上手く煽(あお)っているのです。
ちなみに帰り客が増える夕方以降は「星に願いを」や「ベラノッテ」など、しっとりとしたロマンチックな旋律に変わります。
余韻をかみしめているゲストの心に追い打ちをかけるように「また来ようね」と囁(ささや)く訳です。
パークに一歩足を踏み入れると、俺は目の前に広がる夢の国の光景に心を奪われてしまいました。
建物の外観はもちろん、目にするもの全てがまるで本物であるかのように作り込まれています。
小道具ひとつにしても、とても作り物とは思えないほどリアリティあふれるものばかり。
皆さんご存じの『ビッグサンダーマウンテン』という人気アトラクション。
アメリカのゴールドラッシュ時代の鉱山を再現していて、細部に至るまでリアルに作られています。
実はこのビッグサンダーマウンテンで使われている小道具は、半年間の月日をかけ実際にアメリカ中をまわって集めたものだそうです。
つまり、作り物ではなくて「本物」なのです。
また『スプラッシュマウンテン』というアトラクションでは本物の芝が使われているのですが、これもわざわざアメリカから持ってきた芝を使っているそうです。
TDLでは、ゲストを興ざめさせてしまわないように「日常的なもの」を徹底的に排除しています。
例えばパーク内のショップやレストランにある会計用のレジ。
非現実的な世界の中に、現実的な…しかも会計をするレジがあると幻滅しますよね。
TDLではそうした違和感を無くす為に、その場のレイアウトに合わせてデザインしたレジを使っています。
もうひとつ例を挙げると、『クリスタルパレス』というレストラン。
ここはカフェテリア方式なのでカウンターの後ろにステンレスの冷蔵庫があるはずなのですが…どこにも見あたりません。
非日常の世界をつくる為に冷蔵庫を無くしてしまったのでしょうか?
いいえ、冷蔵庫はちゃんとあります。
ゲストから見える部分に室内と同じ装飾が施されているため、分からないようになっているのです。
“TDLには地上と同じ広さの地下施設がある”という噂を聞いたことはありませんか?
これは本場アメリカのディズニーワールドのことで、埋立て地につくられたTDLの場合、そのような地下施設はありません。
その代わり各施設の周囲を木々やセットなどで遮蔽(しゃへい)して、そこに通用口を設けてあります。
キャストが休憩などで担当セクションを離れる場合や、業者がレストランやショップに荷物を搬入する場合は、その通用口を使います。
こうしてパーク内では、現実的な光景を一切排除しているのです。
目に見えないディズニーの本物志向、テーマへのこだわりと情熱によって、この魔法の国が作られています。
そして目に見える建物やアトラクション、小道具などを通して、彼らのゲストに対する気持ちが伝わってきます。
この見事に具現化された非日常的な世界が訪れる人達を魅了して、何度も足を運ばせる理由のひとつとなっているのでしょう。
※ディズニーマジック2へ続きます☆