TDLの理念は「ファミリーエンターテイメント」だそうです。



TDLの生みの親ウォルト・ディズニーは、従来の遊園地で、親が常に子供達が遊ぶのを眺める〝傍観者〟なのが不満でした。

そこで「大人と子供が一緒に楽しめる遊園地」というテーマを掲げてパークを作ったのです。

TDLでは、至るところにその理念を垣間見ることが出来ます。



例えば、TDLの地面には、表面に歩行時の衝撃を吸収する特殊加工(テニスコートと同じ原理)が施されています。

この地面のおかげで、子供に振り回されがちなお父さんもそれほど疲れずに歩けます。

そして閉園後は、キャストがパーク内をホースでくまなく水洗いして、地面の砂を取り除きます。

なぜなら、砂が残っていると子供が転んだ時のケガがひどくなるからです。

このような工夫と努力によって、TDLでは家族連れでも長時間安心して楽しむことが出来ます。



また、水飲み場では高さの違う冷水機がペアになっていて、水の出る方向はいずれも外側を向いています。

その冷水機を親と子が同時に使えば、互いを見つめ合いながら水が飲めるという訳です。



TDLでは、他の遊園地のように親がアトラクションに乗らず、カメラを持って子供達に手を振るという光景をあまり見ません。

従来の遊園地は子供が楽しむ場所だった為、大人から見ると〝子供だまし〟的なものが多く、とても一緒に乗る気にはなれませんでした。

ディズニーは大人もその気にさせる〝大人だましのエンターテイメント〟を目指し、「乗る人」と「見守る人」とを分けていません。

全ての人が「参加する人」になってもらうように出来ているのです。



さらにアトラクションを待つときには、必ず二列以上になって並ぶようになっています。

これには「大切な人や気の合う仲間、家族との会話で、待つ間も楽しんでもらおう」という狙いがあります。

同時に、家族団らんの場としての役割も担っているのです。






ここまでTDLに施された色々な仕掛けを紹介してきましたが、夢の国の魔法は物だけにかけられている訳ではありません。

アトラクションやレストラン、ショップ等はあくまで素材であり、それを生かすのはコミュニケーション=サービスです。

「世界一」と言われるこのサービスにこそ、ディズニーの〝魔法〟の真髄が隠されています。



TDLでは従業員のことを「キャスト」、お客様のことを「ゲスト」と呼びます。

これはパーク全体をステージ(舞台)と考え、そこでパフォーマンスを演じる人はキャスト、そのステージを見に来て下さるお客様はゲストだという考えに基づいています。

そして様々な参加型のイベントを通してキャストがゲストへ提供するのは、「ハピネス(幸福感)」です。

ゲストを夢心地へと誘うTDLの非日常的な世界は、キャストがいなければ成り立ちません。



TDLでは清掃スタッフのことを「カストーディアル」と呼ぶのをご存知ですか?

これは「管理者」という意味で、TDLにとって清潔感の維持管理が何より大切だと考えたウォルトが命名したそうです。

事実、パーク内は食べ物を落としがちな子供が多いというのに、いつも完璧に清掃されています。

人なつこい野生のカモやスズメは沢山いますが、カラスが全くいないのはこの為です。



カストーディアルが純白の衣装を身にまとい、華麗な技を披露しながら掃除するのも理由があります。

腰をかがめもせず、ホウキのスナップをきかせて一瞬のうちにゴミをチリトリに放り込む…

アイスクリームなどが落ちていても、かがまずに足で雑巾を操りながら拭き取ってしまう…

この技には「かがんで掃除していると、ゲストがそれに気づかずぶつかり転倒するかもしれない。だから極力かがまない」という安全性の配慮があります。

さらに、格好良い衣装とパフォーマンスはゲストの目を引き、結果的に清掃スタッフのモチベーションを上げています。

彼らも立派なキャストですから、ゲストに喜んでもらう為に、より洗練されたパフォーマンスを演じます。



ちなみに、〝夢の国にはゴミなるものなど存在しない〟そうです。

その証拠に、カストーディアルに「何をしてるんですか?」と質問してみて下さい。

「星屑(ほしくず)を集めています」という答えが返ってきます☆






キャストは「ハピネスを提供している」と書きましたが、これは言い替えると〝感動を与える〟ということです。

商品やサービスについて、期待していることを満たされただけでは〝満足〟するだけですよね。

予想していた以上のサービスが返ってきたとき、初めて〝感動〟が生まれるのです。



TDLでは、ゲストから寄せられたお礼の手紙をキャスト達に紹介する習慣があります。

ある姉妹から寄せられた手紙の内容はこうでした。



聴覚に障害を持つ姉がTDLに行きたがっていたので、妹が姉を連れてやってきました。

ふとした隙に、二人は離ればなれになってしまいます。

初めての場所で姉はパニック寸前。妹も必死で姉を捜しました。

カストーディアルの1人が、姉に近づいてきて尋ねました。

『どうしました?』

その彼の言葉に、姉はハッとします。なぜなら、彼は手話でそう尋ねてきたからです。

妹とはぐれたことを手話で返すと、カストーディアルはそれを理解して無線で連絡を取り、すぐに妹を見付けてくれました。

そのカストーディアルは、姉からのお礼にも手話で答えて、またパークの中へ消えていったそうです。



実はTDLには、キャスト対象の手話教室があります。

強制されている訳ではありませんが、キャスト達は積極的に参加しているそうです。

1人でも多くのゲストに「ハピネス=幸せ」な気持ちでパークをあとにしてもらう為に…。






ゲストを幸せに出来るのであれば、彼らは例えマニュアルを破ってでも尽くしてくれます。

これは、パーク内にある『イーストサイドカフェ』での出来事です。



イーストサイドカフェに若い夫婦がやってきました。

キャストは二人用の席に案内し、注文を取りました。

二人は自分達の食事以外にもう一品、料理を頼みました。

「お子様ランチを下さい」

応対したキャストは困ってしまいました。

TDLのマニュアルでは、お子様ランチは9歳未満の子供以外には出せないことになっていたからです。

それを聞いて、二人は寂しそうな顔でお互いの顔を見つめ合っています。

キャストは勇気を出して、そのお子様ランチを誰が食べるのか尋ねてみました。

「今日は、去年亡くなった娘の誕生日なんです。
私の体が弱かったせいで、娘は最初の誕生日を迎えることもできませんでした。
おなかの中にいるときには、主人と3人でここのお子様ランチを食べに行こうねって約束していたのに、それも果たせませんでした…。
それで、今日は娘にお子様ランチを頼んであげたくて、ここに来ました」

その話に、キャストは言葉を詰まらせました。

そして次の瞬間、そのキャストは二人を別の席に案内しました。

家族用のテーブルです。

そして、さらにそこに子供用のイスも持って来ました。

もちろん、そのテーブルにお子様ランチが運ばれてきたのは言うまでもありません。

「どうぞ、ご家族でごゆっくりとお楽しみ下さい」

キャストはそう言って、テーブルをあとにしました。



本来、このキャストの行為はマニュアル違反です。

でも、それをとがめたキャストも上司もいませんでした。

それどころか、この話を仲間にしたとき、誰もがそれに協力してこころよくお子様ランチを出してくれました。

このキャストの行為は、その後ほかのキャストにも「こんな良いことをした仲間がいた」と伝えられ、称えられました。

その夫婦からは、感謝の手紙も届けられました。

TDLは、それを社内報でキャスト全員に知らせるだけではなく、掲示板にその手紙を張り出したそうです。



もうひとつ例を挙げます。

TDLの人気スリルライド『ビッグサンダーマウンテン』での出来事です。



ご存じのように、TDLのアトラクションの一部には、安全性を図る為に身長などの規制が設けてあります。

ビッグサンダーマウンテンの場合も、身長規制以外に、足の不自由なゲストの利用を断っています。

でも、車椅子に乗ったゲストが「どうしても乗せてほしい!」と言ったことがありました。

「私はこれに乗りたくてわざわざ来たんだ…
死ぬまでに一度でいいからビッグサンダーマウンテンに乗りたい!
あなたに迷惑はかけない。
何が起きても私の責任だから、どうか乗せてほしい!」

そのゲストは、一生懸命お断りするキャストの言葉にも頑として諦めようとはしませんでした。

やがてキャストは、目に涙をためて訴えるゲストの顔を見てひとつの決断をします。

自分の責任で、このゲストをお乗せしよう──

体験したことのある方なら知っていると思いますが、ビッグサンダーマウンテンの乗り場は長い階段を上ったところにあります。

キャストはそのゲストを背中に背負い、一段ずつ階段を上りました。

そして乗り場に着くと、何度も安全を確認した上で見送り、すぐに出口でそのゲストを待ちかまえます。

足が踏ん張れない為、ゲストは少し擦り傷を負ってしまいました。

キャストは慌てて治療し、平身低頭で自分の浅はかさを詫びました。

「やはり私は、どんなことをしてもお止めするべきでした」

するとその態度を見たゲストは

「何を謝ることがあるんですか!私が無理を言って乗せてもらったんです。
あぁ、楽しかった!これで一生の想い出が出来ました!
本当に…本当にありがとう!」

そう言って感激で涙を流しながら、しばらくキャストの手を離さなかったそうです。



安全性を最重要視するTDLにとって、このキャストの行為は単にマニュアル違反では済まない危険な選択でした。

でも、彼はそれを承知でゲストの想いに賭けたいと思ったのです。

もちろんそのキャストの経験から、ゲストの体の障害がどの程度のものだというチェックはされていました。

結果的にそのゲストが少しケガをしたことを考えると、このキャストはやはり乗せるべきでなかったのかもしれません。

でも、このキャストもまた、誰からも叱責されることはありませんでした。

逆に、彼の勇気も同様に社内報を通じて称えられ、評判となりました。

これが「ハピネスを提供する」というディズニーの考え方なのです。






人は誰でも「認められたい」という想いがあり、ディズニーはその心理を上手く突いています。

TDLに来ると、自分がスターになったような気分になりませんか?

目が合うと、キャストはみな笑顔で「こんにちは」と挨拶してくれます。

こちらが何か尋ねた時には、そのキャストは作業の手を休めて答えてくれます。

さらに、ちょっと困って立ち往生していると、すかさずキャストが近づいて「何かお役に立てることはありますか?」と声をかけてくれます。

この“認められる快感”が、TDLの好感度へと繋がっていきます。

TDLではVIPになれる…その魔法の心地よさに、ゲストはリピーターになるのです。



そして、この魔法はキャストにもかけられています。

自分が語りかけ歩み寄ったことで、そのゲストが喜んでくれたときや「ありがとう!」と言われたとき、自身の存在価値を見出だします。

〝誰かを幸せにする為に私がいる
 この至福感をみんなで共有したい〟

つまりゲストに「ハピネスを提供する」ということは、実はキャスト自身が幸せになることでもあるのです。





TDLは、誰もが一人の人間として認め合える場所。

そこで自分の使命に誇りを持ちながら、ゲストと一生懸命コミュニケーションをとるキャスト。

彼らの勇気と行動は称えられ、その達成感と高揚感は生き甲斐となってゲストへ還元されます。



出逢いの感動、人の温もりが作る大切な想い出…

それが最大の〝ディズニーマジック〟なのかもしれません。