マジックには様々なジャンルがあります。
オーソドックスなカード・コイン・ロープを使うマジックから、鳩や花を出すプロダクションマジック、炎を使うファイヤーマジック、大掛かりな脱出系マジックなど。
そのジャンルの中のひとつに、メンタルマジックというものがあります。
メンタルマジックとは、霊能力や超能力などの不思議な力を使っているように演出するマジックで、見せる現象としては主に透視や予言、読心術を行います。
もちろんタネがありますが、観客にとってそれは霊が行っているように見えたり、マジシャンに特殊な能力があるかのように感じたりします。
派手なパフォーマンスで楽しませるマジックとはまた一味違ったミステリアスな魅力があり、それを専門に演じるメンタリストと呼ばれるマジシャンもいるほどです。
このメンタルマジック、マジシャンが演じる分には問題ないのですが、もしも新興宗教の教祖や霊媒師が同じ事をしたらどうなるでしょう。
見ている方はそれが特殊能力によるものだと、いとも簡単に騙されてしまうのではないでしょうか。
世の中には、実際にメンタルマジックを悪用して信者を集める宗教家や霊媒師も多く存在します。
身近な例を挙げると、巷に溢れる占い師のほとんどは〝コールドリーディング〟を使っています。
これは、相手のことをその場の簡単な会話や状況から推理してあたかも言い当てたかのように指摘する心理術で、メンタリストにはお馴染みの手法です。
他にもフォーシングやサトルティなど心理学を応用したマジックのテクニックを使い、人の欲や弱みに漬け込んで儲ける人間がいます。
エンターテイメント文化であるマジックを、人から金を騙し取る目的の為に使うなんて許せません。
でも残念なことに、オカルトビジネスの世界ではこういったことが珍しくないのです。
自称超能力者、霊媒師や占い師、新興宗教の教祖が起こす現象のほとんどがマジックだと書きました。
じゃあ一体、超自然的な力や心霊現象って実在するものなんでしょうか?
俺の答えは『実在する』です。
その根拠として、自分が実際に体験した…ある出来事があります。
前置きが長くなってしまいましたが、これから俺が以前体験した怖い話を書こうと思います。
最初に言っておきますが…
こういう話が苦手な方は、ここで「戻る」ボタンを押した方が身のためかもしれません。
なぜかというと、感受性の強い方…特に必要以上に怖がる方は、霊を引き寄せてしまう可能性があるからです。
怪談は怖くないという方でも、周りからよく相談を持ちかけられたり、「優しいね」とか「人がいいね」と言われる場合は注意して下さい。
霊は何とかしてくれそうな方にすがってくるものです。
怪談を聞く時は、霊に同情したり、話に感情移入してはいけません。
念のために塩を用意したり、部屋にある鏡にカバーをかけるか伏せておくのも良いでしょう。
そしてこれから書く話は、軽く読み流す程度にして下さい。
あれは、俺がちょうどハタチを過ぎたばかり。
それまで霊というものを見たことがなく、この先もきっと見ることはない…そう思っていた頃の出来事です。
当時俺には、まだ付き合って間もない年上の彼女がいました。
彼女はかなり強い霊感の持ち主で、過去に色々な心霊体験をしていました。
中でも驚いたのは、彼女が高校生の頃、実家で家族と一緒にTVを見ていた時の話です。
見ていたのは心霊特番で、ちょうど青木ヶ原樹海に潜入した霊能者が「そこに首を吊って自殺した方の霊がいる」と言っているシーンでした。
彼女は怖いというより『可哀想だな…』という自殺者への同情の気持ちが沸いてきたそうです。
そして霊能者が自殺者の霊の声に耳を傾けた、まさにその時…
なんとTVを見ていた彼女が座ったままの姿勢で金縛りにかかったのです。
全身が固まってTV画面から目をそらすことが出来ず、声も出ません。
となりで一緒に見ている家族に助けを求めようとしても、体がピクリとも動きません。
激しい悲壮感に襲われると同時に、喉が詰まったような息苦しさも覚え始めます。
その時『このまま死ぬのかもしれない…』と命の危険を感じたそうです。
呼吸もままならず涙目になりながら、次第に意識が遠のいていきました。
ふと目を覚ますと、彼女は病院のベッドに寝かされていました。
異変に気付いた家族が、すぐに救急車を呼んで病院に運んだのです。
幸い大事には至らなかった為、翌日には家に帰ることが出来ました。
家族に聞いた話では、TVを見ていた彼女の体が突然痙攣し始め、白目を剥いて倒れてしまったそうです。
この出来事は、果たして心霊現象だったのでしょうか。
実は、それが霊の仕業だという決定的な証拠があったのです。
病院に運ばれた彼女の体に刻まれていた証拠…
それは、はっきりと首に残る縄のような跡でした。
家族から状況を聞いて首のアザを見た医者は、こう言いました。
「私は医師なので、この非科学的な出来事をカルテには書けません。でも、このような現象は確かに存在するのだと初めて実感しました」
そのアザはそれから何日間も消えずに残っていたそうです。
彼女はそれからも数々の心霊体験をします。
彼女の実家は本家なので法事があると親戚が集まるのですが、その法事が終わり親戚一同が会食を始めようとしていた夕暮れ時、それは起こりました。
女性陣が台所に立ち会食の準備に追われている中、まだ学生の彼女の手際の悪さはどうしても邪魔になってしまいます。
手伝いは諦めて台所から離れると、居間で漫画を読みながら会食が始まるのを待ちました。
男性陣は総出で家の外にいた為、居間にいるのは彼女ひとりきり。
漫画を読んで少し経った頃、視界の端で引き戸がスーッと30cmほど開くのが見えました。
居間には出入口が2ヵ所あり、台所へ繋がるガラス戸と仏間へ繋がる襖(ふすま)戸があります。
開いたのは、今は誰もいないはずの仏間側の襖戸でした。
『仏間の出入口は廊下にもあるから、そっちから誰か入ったんだろう』
そう思いながらなんとなく開いた戸を視界に捉えていたのですが、居間には一向に誰も入ってきません。
30cmほど開いた戸の向こうに、薄暗い仏間が少し見えているだけです。
あまり気にもせず再び漫画に集中し始めました。
ふと気付くと、開いた戸の隙間から誰かが顔を覗かせています。
それが視界に入った瞬間、彼女の全身に悪寒が走りました。
その顔は、仏間に掛けられた遺影で笑っているはずの祖母だったのです。
約3m離れた戸の隙間からこちらを覗いている顔に笑みはなく、鬼気迫る表情をしています。
しかも…その顔の位置が尋常ではありません。
床から20~30cmの高さにあるのです。
座って漫画を読む彼女の顔より更に低い位置にある祖母の顔は、居間の中をゆっくりと見渡しています。
まるで誰かを探すかのように…。
その顔がちょうど自分とは逆の方を向いた時、彼女は漫画から祖母へ視線を移します。
すると戸の隙間から覗く顔だけでなく、薄暗い仏間側に体が見えました。
顔の位置から考えて、想像がつくと思いますが…
その体勢は、クモのように四つん這いになり、戸の隙間から首だけ居間に突っ込んだ状態なのです。
そんな異様な体勢で鬼のような形相をしながら居間の中を覗きこむ死者…
絶対に目を合わせちゃいけない!!
彼女はそう直感しました。
と同時に、金縛りにかかってしまったのです。
視線は祖母の方を向いたまま。
誰かを探すように居間を見回すその顔の向きが、ゆっくりと彼女へ…
このままじゃ目が合ってしまう!!
怨念に満ちた視線が彼女を捉えようとした瞬間…
「見るんじゃない!!!」
大きな声と共に彼女の視界がふさがれました。
ハッと金縛りが解けると、親戚の叔母さんが彼女を抱き締めながら襖戸の方を睨み付けています。
大声の主はちょうど台所から居間へ入って来た叔母さんでした。
この叔母さんは親戚の中でも特に霊感が強く、よく近所から相談も受けている方だそうです。
口元で何かブツブツと唱えながら襖戸を睨んでいた叔母さんの表情がふっと弛み、彼女に向かって微笑みました。
「もう大丈夫だよ」
なぜちゃんと供養されているはずの祖母が法事の日に、そんな形で孫の前に姿を現したのか。
叔母さんはなぜ彼女の異変に気付いたのか。
もし目を合わせていたらどうなっていたのか。
結局、叔母さんの口からそのことについて語られることはなかったそうです。
叔母さんの目には、一体何が映っていたのでしょうか…。
そんな数々の心霊体験を持つ彼女と、夜にドライブしていた時です。
川の脇の道路を走行中、助手席に座り楽しそうに話をしていた彼女が、急に窓の外を凝視したまま黙り込みました。
俺が「何か見えるのか?」と聞くと、「川の上におじさんが座ってる…」という返事。
俺も運転しながらその方向を確認しましたが、何も見えませんでした。
それがもし嘘だとしたら彼女にとってどんな得があるかを考えると、見えていると思わざるを得ません。
そして、いよいよ俺自身が不思議な体験をすることになりました。
彼女は室内犬と二階建ての借家に住んでいたのですが、その家で起きた出来事です。
俺はその頃、フィリピンclubで働いていました。
ある日の夜、仕事中に彼女からの電話。
「今すぐ私の家に来れる!?二階に誰かいるの…お願いだから来て!!」
彼女は俺の仕事中に電話を掛けて来ることなどなかったので、よほど切羽詰まっているのでしょう。
すぐに彼女の家へと向かいました。
家に着き中へ入ると、彼女と飼い犬がリビングで寄り添って震えていました。
犬は感覚が鋭いので異変を察知する能力も優れているのでしょうか…
彼女に抱えられ天井を見上げながらブルブル震えています。
話を聞くと、誰もいないはずの二階の部屋から突然『ドン!!ドン!!』という床を踏み鳴らすような大きな音が聞こえてきたそうです。
その音は俺が駆け付けるまでずっと続いていたらしいので、とにかく二階の部屋を確認しに行くことに。
正直怖くて仕方なかったのですが、俺にも男としてのプライドがあります。
何度も折れかける心を何とか奮い立たせながら、ゆっくりと二階への階段を上がっていきました。
何が潜んでいるか分からないので、階段の電気は点けずに忍び足で二階の踊り場まで辿り着きました。
階段の下では彼女と飼い犬が不安そうに俺を見上げています。
耳をすませて部屋の様子を伺いましたが、シーンと静まりかえっています。
ドアが閉まっているので、中はまだ見えません。
ちょうどリビングの真上にあるその部屋は、普段クローゼット代わりに使っているだけで夜は入ることもないそうです。
ドアノブに手を掛け、息を呑み込むと、一気に開け放ちます。
『バンッ!!』
・・・。
誰もいません。
部屋の電気を点けてハンガーラックの陰やカーテンの裏など隅々調べましたが、音の原因になるようなものはありませんでした。
念のため窓もチェックしましたが、カギが掛かっているので外から誰か入ってくることは出来ません。
ホッとして下へ降りると、「大丈夫だよ」と彼女に報告しました。
その日は泊まって欲しいと言われた俺は、階段下の脇にある寝室で彼女と一緒に寝ました。
夜中、何か耳障りな音で目を覚ます俺。
彼女と飼い犬はとなりで静かに眠っている様子。
目は閉じたまま、音の方へ意識を向けました。
その音は…どうやら例の二階の部屋から聞こえてくるようです。
『ドンッ!…ドンッ!』
まるで子供がふざけてベッドから何度も飛び降りるような音。
これは一体・・・。
※心霊とマジック2へ続きます。