サインバルタはうつ病(うつ状態)の治療薬として、日本では最も使用頻度の高い抗うつ薬です。2009年に、ミルタザピン(リフレックス、レメロン)、2010年に、サインバルタと、相次いで優秀な(効果が十分あって副作用が少ない)抗うつ薬が発売されました。これによって、うつ病治療のうえで重要な役割をしていた三環系抗うつ薬(効果は十分あっても、副作用が酷い)が、今ではほとんど使われなくなっています。

 ところで、サインバルタは、効き目は抜群でも、値段が高いというのが欠点の一つでしたが、2021年6月に、サインバルタのジェネリック(商品名はデュロキセチン)が発売されることで、クスリ代の負担が軽くなります(半分以下?)。今回のデュロキセチンは、値段が安いというメリットに加えて、カプセルだけでなく、錠剤があるというメリットがあります。カプセルを飲むのが苦手な患者さんには朗報です。また、錠剤なら割って使えるので、最小の20㎎錠を半分に割れば10㎎、4分の1に割れば5㎎になるので、減薬しやすくなります(ただし、割って使うことの弊害が少しはあるため、製薬会社は、それを認めないかもしれませんが、自己責任でやればいいんです)。ちなみに、サインバルタカプセルの薬価は現在、

 

     サインバルタカプセル20㎎  145.2円

     サインバルタカプセル30mg  196.6円

 

 サインバルタは、減薬から中止に持っていく過程で、すんなり副作用なく止められる方もいますが、少なからぬ患者さんには、離脱症状(イライラ、不安、耳鳴り、頭痛など)が出ます。最小単位である20㎎までは、問題なく減らせることが多いのですが、そこからが結構骨が折れます。1日おきに1カプセル服用、としても、離脱症状がでて、元の20㎎に戻すことが多いんです。仕方なく、脱カプセルしたり(カプセルを分解し、顆粒にして取り出す)、離脱症状がなくなるまで他の薬(私はメイラックスが多い)を併用したりと、様々な工夫をするしかありませんでした。

 このブログでは何度も強調してきたことですが、長年服用してきた薬を完全にやめるには、上手くタイミングをつかむことも必要です。日々の生活が充実し、生活の質が向上していて、多少の離脱症状が出ていても気にならないようなタイミングです。仕事もバリバリやれて、生活は規則正しく、趣味も十分楽しめている。当面、環境や生活スタイルの、大きな変化がない、といったことです。生活の質を落としてまで、薬を減量もしくは中止しようとしても、成功することはありません。詳しくは、下の、過去ログを参照ください。

 

 

 さて、ジェネリックが発売され薬価が下がることは良いことなんですが、精神科医の立場から心配していることが一つあります。

 サインバルタは、発売当初の適応は、うつ病、うつ状態だけだったのですが、SNRIが疼痛にも有効なことから次第に身体科の疾患にも適応が拡大されてきました。

 

   うつ病・うつ状態(2010年)

   糖尿病性神経障害に伴う疼痛(2012年)

   線維筋痛症に伴う疼痛(2015年)

   慢性腰痛に伴う疼痛(2016年)

   変形性関節症に伴う疼痛(2016年)

 

 これを受けて、内科や整形外科では、一般に使われる鎮痛薬が効かない場合に、サインバルタを処方することが常套手段になっています。ジェネリックが出れば、さらに頻繁に使われるようになると思います。

 腰痛持ちの患者さんに、お薬手帳を見せてもらうと、いつの間にか、サインバルタ(20)1カプセルを1日3回、処方されていることがあります。しかも、この薬の副作用については全く説明を受けていません。サインバルタが向精神薬であることは考慮されていないようです。

 精神科医としては、うつ病でもないのに、1日当たり60mgもの抗うつ薬を服用させるのはどうしたものか、と疑問を持ってしまいます。血圧上昇や尿閉などの身体上の副作用が全くないわけではありません。また、整形外科の先生が、精神症状(軽躁状態、不眠、焦燥感など)の副作用をチェックしているとも思えません。チェックしないというよりも、チェックできないというのが真相でしょう。私自身、サインバルタは40mgまでで使うことが多く、60mgまで使うことはめったにありません。薬剤情報上では60mgまで使っていいことになっていますが、老人は、20㎎までにしてほしいと私は思っています。軽躁状態になってしまえば、眠れなくとも元気で、痛みも気にならなくなってしまうので、整形外科の先生から見ると、『痛みがとれ、明るくなって、よかった』と思うのかもしれませんが、このツケは後で必ずくると思います。お薬手帳を見て、向精神薬を服用していることがわかれば、『サインバルタ飲んでもいいか、いま通院している精神科の先生に訊いてみてくれる?』とでも言ってくださればいいのですが。

 ちなみに、高血圧と脊柱管狭窄症の治療で、内科と整形外科に通院しているS子さん(現在83歳)。以前にくらべてテンションが高くなっていて、「夜中に目が覚めやすく、ひどく疲れを感じるときがある」というので、お薬手帳を見せてもらうと、整形外科から、1日当たり40mgのサインバルタが処方されていました。サインバルタを1日当たり20㎎に減量したところ、痛みに対する効果は保たれつつ(ちょっとはおちたかも?)、不眠や変にテンションが高い(以前に比べて声が大きく多弁)のも解消されて、ほぼ不満のないバランスのとれた状態に落ち着いています。

 

 先週来院したTさんは、サインバルタ20㎎を脱カプセルして、1日当たり10㎎を服用しているのですが、「めんどくさいです。副作用がないなら、ずっと(毎日)1カプセルでも、僕は構いませんけど」というので、<6月にはジェネリックが出るよ。それには錠剤があるので、半分にしやすくなるよ>と伝えました。すると、「そんなの、大して変わりないですよ」と言われ、<親のこころ子知らずとはこのことか>と、おじいちゃん先生がっかり。

 

サインバルタを私がどのように使ってきたかは、下の、過去ログで書いてます。

 

 

(報告)発売が延期されていた、サインバルタのジェネリック、デュロキセチンが、令和3年9月に発売されました。