今回は、SSRI、SNRIの減量や中止の過程で見られる離脱症候群について簡単に説明し、その減量や中止に対して、私の考えをお話します。

 

 うつ病や不安障害の治療において、使われる抗うつ薬の代表格が、SSRIとSNRIです。

 

 SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)には

  ①フルボキサミン(デプロメール、ルボックス)

  ②パロキセチン(パキシル)

  ③セルトラリン(ジェイゾロフト)

  ④エスシタロプラム(レクサプロ)

 SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)には

  ①ミルナシプラン(トレドミン)

  ②デュロキセチン(サインバルタ)

  ③ベンラファキシン(イフェクサーSR

 

 ネットで調べれば、それぞれのクスリの効果や副作用について詳しく知ることが出来ますが、その微妙な違いについて、一般の方はそれほど気にする必要はありません。

 

 SSRIやSNRIの離脱症候群とは、薬の量を減らしたり、服用を中止したりする過程で見られる、身体的な不調のことです。具体的には、「めまい・頭痛・吐き気・だるさ・しびれ・耳鳴り」といったものですが、「イライラ・不安・不眠・ソワソワ感」といった精神症状がみられることもあります。コンスタントに飲んでいたのを急に中断すると、だいたい1~3日ほど(48時間前後)で認められることが多い。1日1回だけ服用している人であれば、1回忘れただけでも出現することになります。しかしこれは、うつ病や不安障害の症状が再発したのとは違いますし、もともと飲んでいたクスリを再び服用すればすぐに治まります。

 かつては、SSRIやSNRIの離脱症候群は、離脱症状という用語を使わないで、中断症状という用語が使われていました。抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)を中断するときに見られる、身体依存による離脱症状とは性質が違うからです。SSRIやSNRIは、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬に比べれば、薬を減らしていくことは容易です。詳しくは、以前のブログ“SSRIと抗不安薬の大きな違い”で書いたので参照してください。

 

 

 離脱症状の出方には、個人差があって、急にやめてもまったく出ない人もいれば、ゆっくりやめても出る人もいます。また、同じ人でも出る時と出ない時があります。一度出たら2回目も必ず出るとも限りません。このような個人差には、飲んでいる薬の種類、飲んでいる薬の量や服用期間、病気の性質、病気の回復程度、もともとの性格傾向、止めるときの生活環境、現在の生活のQOL・・・など、様々な要素が複雑に関与しています。そのような条件をすべて考慮して薬を減らすことは現実的に不可能なので、時間をかけてゆっくり(年単位)、タイミングを見計らいながら、行ったり来たりしながら減らしていくのがコツです。とにかく焦らないことです。減らしたことでQOLが低下すると、減らすことがかえって困難になってしまいます。

 

 ◎減量や中止に向けて、私が行っている具体的な工夫をいくつか挙げると

 

(1)パロキセチンは中断症状が出やすいので、現在パロキセチンを飲んでいる患者さんは、作用時間が長い(半減期が長い)セルトラリンに置き換えてから減量しています。将来的に薬を止めることを考慮したら、パロキセチンは新たに処方しない(私の場合は、10年以上前からパキシルは処方していません)。

 

(2)フルボキサミンは作用時間が短いので、離脱症状がでやすいともいわれていますが、時間をかけて漸減すれば、<減量に困った>という経験が私にはありません。もし出るようであれば、セルトラリンに置き換えてから減量するのがよいと思います(フルボキサミンはその作用も効果も穏やかなSSRIです)。

 

(3)デュロキセチン(サインバルタ)は離脱症状が出やすい(1日のみ忘れると、48時間後くらい)。最小のカプセルが20mgなので(10㎎や5㎎がない)、そこからさらに減らすのが難しい。先ずは1カプセルを、2日に1回服用、3日に1回服用としていきます。うまくいかない場合は、カプセルをはさみで半分や三分の一に切るか、脱カプセル(解体し粉にして)して毎日少しずつ減らすしかありません。

 

(4)離脱症状の緩和を目的として(離脱症状が消えるまで)短期間に限って、メイラックスを併用することもあります。

 

(5)離脱症状の程度が軽ければ(日常生活に支障がなければ)、<2週間くらいかけて、離脱症状は徐々に消えていきます>、と伝えて我慢してもらいます。

 

(6)漢方薬(抑肝散や加味逍遥散など)を処方してみる。薬がゼロではない、という心理効果(安心効果)もあります。

 

(7)認知行動療法として、マインドフルネス認知療法行動活性化療法過去ログ参照を併行して行う。これらの精神療法を併行して行うと、再発予防と同時に、薬を減らしやすくなります

 

(8)減量に1回失敗して再チャレンジする場合は、より時間をかけて、減量ペースを落とす。量を小刻みにしていくか、少しずつ服薬間隔をあけていく。

 

(9)QOLが高いタイミングを見計らって、減量ないしは中止する。「薬を減らしても、今なら大丈夫そうだ」、と医師も患者もそう思えるタイミングです。

 

なお、レクサプロやイフェクサーSRを長期連用していた患者さんに対して、断薬にチャレンジした経験が私にはありません。ただ、半減期(作用時間の長さ)や力価(薬の強さ)などから考えると、離脱症状の出方はセルトラリン(ジェイゾロフト)とそれほど変わりないのではないかと思います。セルトラリンは半減期が比較的長く、作用も副作用も穏やかでバランスの取れたSSRIだと思って、おじいちゃん先生は長らく愛用してきました。

 

 SSRIやSNRIの長期連用に対しては、いろいろな考え方があると思いますが、20年余の私の経験からは、<止められれば止めればいいし、少量であれば長期に連用していたっていいじゃない>、と極めて楽観的です。働き盛りの世代にとっては、無理に薬を減らそうとすることで、現在の生活を維持できなくなったり、もともとの病気の再発につながってしまうことが多々あります。(“SSRIの下支えがなかったら”参照)

 

 

 また、高齢者にとっては、うつや不安障害の発症と再発を予防することがとても大切で、うつ状態になるとQOLが低下して認知症の進行を早めてしまうので、これといった副作用がなければ、あえて中止しようとは思いません。SSRIやSNRIがなかった時代(20年前)は、副作用が強い三環系抗うつ薬を、恐る恐る使っていました。SSRIやSNRIの出現によって、老人のうつ病や不安障害の治療が大きく進歩したと思います。ちなみに、過去ログ、“薬を飲み続けるという判断”で紹介したYさん(現在87歳)は、その後、脊柱管狭窄症の痛みが出現したため、デプロメールを止めて、サインバルタ(いろいろな痛みにも効いてくれる)に変更しました。もちろん元気に独り暮らしを続けておられます。