平成23年3月11日、14:46に発生した東日本大震災。あれから10年経ちました。発生時刻まで毎年思い出すのは、うちの患者さん、I君との交流が、今も続いているからだと思います。I君とは、過去ログ、“東日本大震災と『ローマ人の物語』”に登場したI君です。

 

 

 

 先週、仕事帰りに書店に立ち寄ると、平成29年(2017)にノーベル文学賞を受賞した、カズオ・イシグロの最新長編『クララとお日さま』が平積みされていて、帯には「イシグロ。AIロボット。少女。境界を越えた心の交流。読まずにいられるわけがない」、と書かれていた。確かにその通りで、私も読まずにいられなくて、すぐに買い求め、昨日読み終えた。

 

 平成29年(2017)10月~12月、 おじいちゃん先生は、カズオ・イシグロにハマってしまい、彼の長編7作品のすべてを読んだ。最後に読んだ『充たされざる者』は、文庫本にして938ページもある大作で、途中で投げ出したくなった。これが最後と踏ん張って、意地でも読み終えた時には、除夜の鐘が鳴っていた。この作品は、非常に読み辛く、冗談とも取れる会話が延々と続き、<いったいどんな結末があるのだろうか?>と思いつつ読み進めて結末を迎えたが、<いったい何だったんだろ、この小説は>と、まさに夢を見ているような作品でした。

 後日(平成30年1月)、I君にこの話をしたところ、黙って聞いていた。そうしたら、その3か月後になって、I君から

 

「きのう、『充たされざる者』読み終えました」とボソッと一言。

<あの作品骨折れるよねぇ。よく、最後まで読んだね>と。

「はい、しんどかったです。でも、これが最後だと思って」

<Iさんは、たしか、『日の名残り』を、ノーベル文学賞取る以前に読んでたよねぇ。結局、7作品全部読んだんだ>と。

「はい」

<あ、そう。あの、『ローマ人の物語』以来だねぇ(一緒に読みっこしたのは)>と。

「はい」

<でも、『充たされざる者』は、読んでどう思った?>

「(ウーン)・・・よくわかりません」

<そうだよねぇ。よくわからん小説だよねぇ>と言って、二人で大笑いした。いやいや、大笑いしたのは、おじいちゃん先生だけで、I君は、苦笑いしただけでした。

 

 書店で、『クララとお日さま』を手に取ったとき、本体価格2500円を見て、<ちょいと高いな>と、一瞬は思ったけれど、<I君も喜ぶだろうし、うちの細君にも無理矢理読ませれば、それほど高くはない>と思い直した。もっとも、このような解釈はすべて後づけで、本当のところは、自分が読みたかっただけです。I君、細君、出しに使って、ゴメンナサイ。

 

 明日金曜日には、I君がやって来る。もちろん14:45の予約で、いつもの時間です。彼は週2回図書館に通い、その帰りには必ず書店に立ち寄るので、カズオ・イシグロの新作が発売されたことを、知らないはずはない。<これ読んだ?>と、『クララとお日さま』を差し出したとき、どんな顔をするか、それを見るのが楽しみです。「お借りします」ならいいけれど、「買っちゃいました」、なんてことにならなければいいのですが、ちょっと心配です。

 

 いけねえ。このブログ、<『クララとお日さま』については何も書いてないぞ>。それでは、ひとことだけ言わせてもらいます。<『クララとお日さま』は、『充たされざる者』とは違って、とても読みやすい作品です。皆さんも、是非読んでみてください>。