前回のブログ、“おじいちゃん流”うつ病治療(3)では、“不安抑うつ状態”においては、①~⑤は連続線上にあり、(①はうつがメイン、⑤は不安がメイン)それぞれが重なり合っていて、それぞれの間を移行することもある、と考えて治療を行います。と書きましたが、今回は実際の症例をあげて、不安抑うつ状態の変化の様や、不安抑うつ状態の変化に合わせて薬物療法がどのように変わっていったかをお話します。

 

Sさん、昭和○○年生(75歳)、診断名:神経症性うつ病、不安障害、うつ病

 平成29年4月、「初めてなんですが、予約お願いします」とSさんから電話が入った。<当クリニックでは新患の受付はしていません>、と伝えたところ、「ひょっとしたら、そちらを受診したことがあるかもしれません」というので調べてみたところ、平成12年8月まで通院していたことがわかり、17年ぶりの再来初診となった。

 

 平成12年8月の当クリニック終診以降、当時勤めていたビル管理会社を定年まで勤め上げた。その後、平成27年2月までは、「シルバーの仕事などを、のどかに、ゆったりとやっていて、この17年間、精神科を受診したいと思うようなことはなかった」という。

 

 平成27年4月、妻に皮膚がんが見つかったころ、動悸を伴う不安発作で救急病院を受診した。高血圧、逆流性食道炎の治療を受けている内科の主治医には、動悸、胸部圧迫感を頻回に訴えていたので、心療内科受診を勧められていた(分類⑤あたり?)。

 平成29年4月妻の皮膚がんが全身転移していることがわかり、不安感が増大。「歩いていてもフラフラする。動悸が止まらない。不安でたまらない。一人になるのが怖い」という訴えで、当院再来初診となった。妻の病気の悪化に伴う、“不安抑うつ状態”と判断して分類⑤あたり)、メイラックス(1)1錠のみ処方。

 平成29年5月「だいぶ落ち着いて、フラフラしなくなった。どうしよう、どうしようという不安も和らいで、夜も眠れるし、一人でいるのも慣れてきた」と。メイラックスが著効したように見えた。

 平成29年6月、「家内の病気のことを考えると、やっぱりつらい。兄が先月亡くなったのがショックで、またなんかフラフラする。うつ的な気分が嫌で、楽しみがなくなった」と分類⑤~④あたりドグマチール(50)2錠を追加した。

 平成29年7月、ドグマチール投与により、うつ症状は速やかに改善。「楽になりました。家内の状況も良いし。死ぬんじゃないかという恐怖は減っている。趣味も復活している」と。

 平成29年9月、「だいぶ不安も落ち着いて、日々が退屈です。シルバーの仕事を止めちゃったのがいけなかったんですかね」と。このままの状態を維持されることを期待したが。

 平成29年10月~12月、「不安はいいんですけど、憂うつな気分がまた出てきた。何かをやろうという気もなくなってきていて、時間がたつのが息苦しい。心配事もいろいろ出てきちゃって、家の雨漏り、女房が死んだら自分は餓死しちゃうんじゃないかとか、家内のことをずっと考えています」と、不安抑うつ状態が再燃。年末には不安発作で夜間救急を受診したりもした分類③~②あたりジェイゾロフト(25)1錠を追加し、メイラックス(1)1錠から2錠に増量した。

 平成30年1月、「年末から朝おきれなくなった。不安、動悸や圧迫感はないけど、やる気が出ない。興味がわかない」と、エネルギーレベルの低下がさらに顕著になった。ジェイゾロフト(25)1錠からサインバルタ(20)1錠にスイッチしたところ、「声が出るようになった。以前はあっちこっちの痛みを訴えて、リハビリに通っていたけど」と。サインバルタによる鎮痛効果はみられたものの、意欲の低下は改善せず。

 平成30年2月、「妻は良くなったというけど、自分では変わったとは思えない。じっとしているのが耐えられない」と意欲の減退に加えて、焦燥感も出現分類②~①あたりドグマチール(50)2錠をリフレックス(15)1錠にスイッチサインバルタ(20)1錠、リフレックス(15)1錠、メイラックス(1)2錠となる。

 平成30年3月、単独来院(これまでは妻が同伴していたが)。リフレックスが有効で、「食欲も出たし、妻も、良くなったといってる。テレビも見るようになったし、新聞も読める」と意欲の向上がみられ、焦燥感も取れていた。この日からメイラックスを減量。

 平成30年5月、「変わりなかったですね。体重が増えたので、散歩も30分ひとりで行ってる。メイラックスも飲んでいません」と。サインバルタ(20)1錠、リフレックス(15)1錠のみとなる。

 平成30年6~10月、「変わりない。これくらいが普通かな。音楽、本、テレビ、元に戻っている」。うつ状態はほぼ寛解。その後、妻の病状がどんどん悪化していくが、それに反応することはなく、うつ状態の悪化も見られなかった。サインバルタ(20)1錠、リフレックス(15)1錠を服薬していることが下支えとなっていると思われた。

 平成30年11月、「妻が自宅で穏やかに亡くなりました。いろいろやることがあって大変ですね。今月は四十九日もあるし」と、穏やかに話され、顕著な死別反応も見られず。その後、死別反応によるものなのか?やや活動性の低下が見られたが、目立ったうつ状態の再燃は見られず、最低限の家事はこなし、静かに自宅で過ごす日々が続いた。

 令和1年5月、「良くも悪くもありません。ラジオが面白くてハマってる。睡眠も食欲もまあまあ」と。けっこう、多弁で笑顔も見られ、軽い死別反応も治まりつつあるように思われた。現在は、サインバルタ(20)1錠、リフレックス(15)1錠を維持療法として、そのまま継続している。

 

 Sさんの、今回のエピソードは、妻の皮膚がんの発症を機に、動悸、胸部圧迫感、不安発作などを主症状とする、不安障害の様相で始まった(分類⑤あたり)。抗不安薬のメイラックスにより、不安症状は軽快したが、それに代わって、抑うつ気分、意欲の減退などを主症状とする、軽うつ状態が前面に出てきた(分類④~③あたり)。それに対しては、ドグマチールが有効であったが、その効果は長続きせず、うつ状態が再燃(分類③~②あたり)。さらに、内因性うつ病の様相(エネルギーレベルの低下を主とする)を呈するにいたって(分類②~①あたり)、サインバルタ(20)1錠、リフレックス(15)1錠を投与して、寛解導入に至った。メイラックス⇒ドグマチール⇒ジェイゾロフト⇒サインバルタ⇒リフレックスと、“おじいちゃん流”では、不安障害寄りの薬剤から、内因性うつ病寄りの薬剤へと移っていったことになる。再来初診当初の見立ては、妻の病気の進行を機に発症した不安障害だったものの、葛藤を続けるうちに、次第に疲弊していって、最終的には内因性うつ病寄りの病態に至ったといえるのかもしれない。このことは、薬に対する反応からもうかがわれる。

 それならば、「最初からリフレックスを処方すればいいじゃないか」と言えるかもしれないが、残念ながら、おじいちゃん先生には、そこまでの“眼力?”はありません。時々刻々変化する状態像に合わせて、試行錯誤を繰り返しながらついていくしかないんです。

 さて、かつて約5年間(平成7年~12年)、 Sさん(51歳~56歳)を治療していたのですが、今回の“不安抑うつ状態”とは様相がいささか違っていました。それでは、20数年前、当時のSさんはどんな様子だったのか、次回のブログでお話ししたいと思います。