患者さんからよく受ける質問に、「先生、性格は変えられませんかね」というのがあります。以前は、<確かに、性格を変えるのは難しいよね。でも、少しずつでも変えていきましょうよ>と、曖昧に答えていました。でも、最近のおじいちゃん先生は、<簡単ではないけど、変えられますよ>と、いささかの自信をもって答えられるようになっています。その自信というのは、精神医学や心理学の性格理論を学んだからではなく、脳科学や仏教(心理学)を学んだことによるものです。そして、さらに自信を深めたのは、手動瞑想を治療に取り入れたことで、患者さんの“*性格変化のスピードアップ*”が起こることを目の当たりにしたからではないかと思います。
解剖学者、養老孟司さんの著作からの抜き書きをいくつか紹介します。
「皆さんは、私は私、どれだけ時間がたっても一貫して同じ私と思っていませんか? とんでもないですよ。現代医学では、7年たったら分子は全部入れ替わっています。同じ細胞をつくっている分子が全部入れ替わるんです。7年に1回、100%替わる。私なんか、もう11回全部とっかえしているんですよ(笑)。7年に1回、部品を全部取り換えて11回たった車と同じなんですよ。」
「・・・今の若い人で一番ないのが、そういう自分が変わるという感覚ではないでしょうか。だからどこかに確固とした自分があるように思って、“自分探し”などという変なことを言うのです。」「よく心は脳にあるといいますが、心は働きです。働きには決まった場所がありません。・・・ものには位置のあるものとないものがあるのですよ。」「・・・記憶というのは今の自分の脳にあるものです。年とともに脳も変形していきます。すると記憶も変わっていきます。自分は生まれてから変わらないと思っている人は多いけれど、それは錯覚なんです。」
「方丈記」の作者、鴨長明はこれを言っていましたね。「ゆく川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」。そこまではいい。そのあと何と言っているか。「世の中にある人とすみかと、またかくのごとし」。人も町も鴨川と同じ。あっという間に変わる鴨川の水と人間が同じだと言っています。物質とか知らないのに言っている。わかる人はわかっていたんだなと思います。
意識の世界にいたら「同じ」自分なんですよ。意識って「同じ」を作る働きですから。だけどもとの自分ではない。ピンとこないと思いますけれど、暇な時にじっくり考えてみてください。
養老孟司さんは、解剖学・脳科学の見地に立って、見事に仏教の三相、無常・苦・無我を語ってくれています。
現在の私も、<人は常に変わり続けている>という“無常”、<変わらない自分なんてありえない>という“無我”を念頭に置いて、日々の診療にあたっています。そのせいか、以前にも増して、患者さんの性格の変化に気づくようになったような気がします。