*以前のブログで紹介*したMさんが、先週来院して以下のような気づきを披露してくれた。
「閉店間際の店に入ってみた。他に3~4人いて、慌てないで品物を見ていた。僕と同じ立場だし、僕も慌てなくていいのかなと思えた・・・前は僕と店員二人だけの関係だった(二人だけしか見えていなかった)。なんで今までそれに気づかなかったのか、不思議な気持ちだった。店の中でも落ち着いていられた。先生が言う注意の分散(分割)ができたのかな?」という気づきである。
これまで10年以上にわたって、閉店間際のお店に恐怖突入することを促してきた(従来型の認知療法で)が、どうしても自分から突入することができなかった。ところが、今回はなんと自分から突入し、その場で平静でいられたのです。1年間にわたって手動瞑想を続け、注意の転換・分割能力を向上させた成果だと思う。
社交不安障害では、「転換的注意」と「分割的注意」の弱さが指摘されています。注意が“ネガティブな刺激”だけに向いてしまい、“ネガティブでない刺激”に注意を向けられない(転換できない)のです。Mさんにとって、“ネガティブな刺激”は「もうすぐ閉店時間であり、店員に見られているという意識があって、自分が緊張して心臓がドキドキしていると感じる」ことであり、“ネガティブでない刺激”は「他にお客が3~4人いて、慌てないで品物を見ていて、僕も同じ立場にいる。店員はこっちを見てはいない」である。Mさんは、この二つの刺激に対し、転換・分割能力を見事に機能させたのです。
メタ認知療法では、“注意訓練技法”(ATT)による訓練によって、社交不安障害の治療を行います。以前のブログ、*メタ認知療法と手動瞑想*の中で、<手動瞑想には、注意訓練課題(集中・転換・分割)に相当するものがすべて含まれている>ということを指摘しましたが、Mさんは、手動瞑想が“注意訓練技法”(ATT)の代わりになることを実際に証明してくれたのではないかと思う。
社交不安障害ではない一般の人は、注意の転換と分割が自然にやれるので、Mさんがやり遂げたことを、たいしたことじゃない、と思うかもしれない。しかし、Mさんにとっては、20年越しの課題をクリアしたという、画期的な出来事なのです。
神経症の患者さんは、手動瞑想による成果がよくわかります。変化の振れ幅が大きいからです。同じ量の注意転換・分割トレーニング(手動瞑想やATT)をやったとして、一般の人では転換・分割能力が、せいぜい6から7程度の向上にとどまり、その変化には気づかれない。しかし、神経症の患者さんは、1から5などとおおきく変化するので、それがわかるのです。私が日々の診療で、手動瞑想の効果に驚かされるのは、この変化を見ているからなのです。一般の人よりも短期間で効果が現れるのです。
付記:「ヴィパッサナー瞑想は、認識のプロセスを極めて精密に観察する方法です。静かな無執着の心で思考や認識が起こってくるのを観察し、落ち着いた明晰な心で刺激に対する自分の反応を観察することを身につけます。感情の反応に囚われることなく、反応しているということを観察し始めるのです。観察するなら、妄想は徐々になくなっていくでしょう」
(バンテ・H・グナラタナ著、“Mindfulness in Plain English”より抜粋)