レニングラード・フィルハーモニー交響楽団
エフゲニ・ムラヴィンスキー(指揮)
1973年5月26日、東京文化会館ライヴ(ステレオ)。
爆発的に激烈な打楽器と管楽器の咆哮、それにもまして強烈な弦楽器のリアリティ、心の底から魂をえぐられるような深い悲しみ、慟哭、そして祈りの音楽。
私にはこの演奏から、『革命』のイメージは浮かびません。ましてや、最終楽章が『勝利の歓喜』とはとても聴き取れません。
ムラヴィンスキーの第5番は、体制讃歌の演奏のように誤解されていた時期も長かったように思います。
この徹底的に暗く陰鬱な表現の彼方にはか細く繊細で真っ直ぐな精神が弱々しくはありますが、しかし決して諦めない魂のドラマが見えて来ます。理由もなく虐げられ、生き方を強制され、弾圧され、抑圧からの鬱屈した心、病んだ精神、しかし、必ず出口はあります。光は必ず射して来ます。
このムラヴィンスキー盤で聴く最終楽章、アップテンポの前半は、何か少し違和感を感じますが、スローテンポに変わる中間部から、
終結部は、人智を超えた大きな力による魂の解放感に心が震えます。まるで奇跡のような荘厳な体験です。
本来ならば、ロジェストヴェンスキー盤の速さ位に最終楽章の前半のテンポを設定すれば完璧なのでしょうが、そうすれば、楽天的に力強い前半に、あのように悲劇的な後半はアンバランスになることでしょう。『勝利の歓喜』ではなく『救済の勝利』の為にはあのように疾走する必要があるのでは?と勝手に想像してしまいます。
誠に最後は、神々しい迄の『人間の尊厳』を歌いあげる讃歌に私には聴こえます。
ヘッドホンは、MDR-Z7バランス接続及びSW-HP300バランス接続両方で聴きました。