捉えた。王祥はそう確信した。一万騎を三つに分け、三千騎で孟遷を追っている。逃げる孟遷が左右どちらに旋回しても、あらかじめ迂回させていた騎馬隊で頭を押さえることができる。動きが止まった孟遷を背後から襲い討ち、そのまま敵の歩兵へ突っ込む。これでこの戦は終わりだ。
王祥がそう思った瞬間、前を走る孟遷の騎馬隊が突然反転した。目を瞠るほど鮮やかな動きだった。そして、そのままこちらに突っ込んでくる。後続の兵が明らかに動揺しているのが分かった。
「狼狽えるな。このまま突っ切れ」
王祥はそう叫ぶと剣を抜いた。敵兵がすぐ目の前に迫っている。
敵の斬撃を躱しながら、二騎、三騎と落としていく。横を次々と敵兵が駆け抜けていく。
前から異様な気を放ちながら駆けて来る一騎。孟遷。目が合った。王祥は雄叫びを上げ、馳せ違う。剣。手ごたえはあったが、浅い。
そのまま駆け抜けた。振り返ると、着いてきている兵は、千にも満たなかった。
凄まじい斬撃だった。
虚を突き、壊滅させるつもりで王祥の騎馬隊に突っ込んだが、千騎程は討ち漏らした。それに王祥の一撃は、体中の気が弾け飛んだと思うような、凄まじいものだった。
咄嗟に身を翻したが、具足の一部が斬り飛ばされていた。喰らえばひとたまりもなかっただろう。
岳飛と共に数多の戦場を駆け抜けたが、これほどの将や騎馬隊に出会ったことはない。ここで止めねば、南宋は危険極まりない状態になる。
「兵をまとめろ」
そう叫んだ瞬間、横からとてつもない圧力がぶつかってきた。
孟遷が剣を抜き、振り返ったときには馬ごと弾き飛ばされ地に落ちた。その時、かろうじて目の端に『阿』の旗を捉えた。
孟遷が跳ね起きて馬に飛び乗った時には『阿』の旗は駆け去っていた。その遥か先には『岳』の旗。
そして王祥は隊をまとめて、東の葦原に向かって駆けている。
「よし、第三、第四隊は王祥を追う。第二隊は歩兵の援護。いけ」
伝令が駆け去る。
「ここで止める」
孟遷はそう呟いて、馬腹を蹴った。
王祥は葦原に向かって駆けた。伏兵。隠しきれない気配が立ち上っている。
後ろから、孟遷が追ってきているのが見えたが、そのまま葦原に突っ込んだ。草に隠れて蠢く兵、王祥は馬を跳躍させ、兵を踏みつぶしながら進んだ。
不意に馬が前足を折った。馬の脚が斬られたようだ。王祥は跳躍し、着地した。
伏せていた兵がわらわらと立ちあがり、一人が長刀で斬りかかってきた。王祥はそれを剣で弾き飛ばし、袈裟懸けに斬った。兵が頽れる。
「そんなちんけな刀で、俺は倒せん」
刀が長い分、太刀筋を読むのは容易い。王祥が敵兵を薙ぎ倒していく。
部下達も次々と馬を飛び降り、三千ほどが王祥のもとに集まってきた。あとの騎馬隊は、阿列の指揮下に入るよう、葦原に入る前に離脱させた。
伏兵は二千といったところか。一刻ほどで片が着ついた。部下の犠牲も少なかった。
ただ、孟遷の兵に取り囲まれていた。その数、およそ一万騎以上。王祥の視界全てに、騎馬がずらりと並んでいた。