あるところに、全く料理ができない婆さんがいた。
婆さんの毎日の食事は爺さんが作っとたが、婆さんだってたまには料理をすることもあった。
といっても、味付けが分からんという婆さんだから、レパートリーは焼きそば(ソースで味付け)か野菜炒め(焼肉のタレ)、それにおにぎりと茹で卵しかなかった。
ある日のこと、婆さんがよせばいいのに野菜炒めを味噌味にしようとした。
味噌汁も作れない婆さんだから、味噌の量が分からん。
結局、うすーい味の味噌炒めが出来上がった。
婆さんはさすがに己がイヤになった。
そういや、爺さんや、婆さんの師匠はスマホにクックパッドのアプリなんかをいれてるが、婆さんは料理してるときにどうしてもその存在が思い出せん。
野菜炒めを目の前に、爺さんは言った。
「味噌の量がわからなかったんですね」
婆さんが頷いた。すると爺さんが教えてくれた。
「これからは、急に思いつきで味噌味にしたくなったら、即席の味噌汁の味噌を思い出してください。あれでお味噌汁一杯分ですから、お味噌ってかなり入れないとダメなんです。そのイメージを持てば、少しは味噌の量も分かるかもしれません」
それなら今後は出来そうだと、婆さんは救われた気持ちになった。
そして爺さんになにかお礼をしたいと思い、よければこれを食べてくれと味噌野菜炒めをすすめた。
爺さんは言った。
「…あ、今お腹いっぱいなんで大丈夫です」