大谷選手とマンダラチャート


今の日本の若い世代を見ると本当にすごいと思います。スポーツ界をはじめとして、音楽・芸術などグローバルに活躍する人がたくさんいます。私たちの昭和の世代は、ベビーブーム世代を除き1年間に170万人くらいの子供が生まれていました。しかもベビーブーム世代だと出生数は1年間に200万人を超えていました。今活躍している若い世代は、平成生まれの人たちです。平成は、1年間の出生数が100万人を下回る年もあるくらい少子化が進んでいるのに、私たちの世代などより数えきれない若者が世界で活躍しているのです。例えば、大リーグで大活躍している大谷翔平選手は典型的な例です。大谷翔平選手の今年のメジャーリーグでの活躍は目を見張るものがります。ナショナルリーグのMVPを満票で受賞し、これで3度目のMVP受賞となりました。本塁打 54本(ナ・リーグ1位)、打点130打点(ナ・リーグ1位)、盗塁59盗塁(MLB史上初の「50本塁打-50盗塁」達成)、打率.310(ナ・リーグ2位)、OPS1.036(ナ・リーグ1位)。今年の大谷選手は、「打者」としてだけでなく「走者」としても大きな成果をあげ、大きな話題となりました。

このような大谷選手の活躍の礎となったものは何か。大谷翔平選手は高校時代に「マンダラチャート」というものを活用したと言われています。マンダラチャートは目標達成のための具体的な行動計画を視覚化するツールです。高校時代の大谷選手のチャートの中心には「ドラフト1位、8球団指名」という目標がありました。この目標を達成するために、大谷選手は8つの下位目標を設定しました。それは、①強い精神力と集中力を養う(メンタル強化)、②投球や打撃のスキルを向上させる(技術向上)、③筋力や持久力を強化する(体力づくり)、④チームワークや礼儀を重んじる(人間力)、⑤怪我の予防と体調維持(健康管理)、⑥戦略的な思考と瞬時の判断力(思考力)、⑦苦しいときでも粘り強く続ける(忍耐力)、⑧生活習慣や自己コントロールを徹底する(自己管理)の8つです。これらの8つの下位目標を具体的な行動に落とし込み、日々の努力を積み重ねることで、大谷選手は目標に向かって着実に進んでいき目標を達成しました。大谷選手は、早くから明確な目標を持ち、その目標に向かって努力を積み重ねる礎があって、今年のメジャーリーグでの活躍となったのです。

  今と昔、何が違うのか?


大谷選手の自分のキャリアに対する取り組み姿勢は、本当に素晴らしいと思います。野球に限らず、世界で活躍する日本人は、音楽やその他の芸術の世界でも数多くいます。私たちの昭和の世代は、世界で活躍するなんて想像もしなかったことでした。なぜ、昔と違って世界で活躍する日本人が多いのか。昭和の昔、私は大学の法学部で学びました。自分が就職する時のことを考えてみると、自分の周りには「自分は外交官になるんだ」とか「弁護士になるんだ」とか明確な目標を持っている人はいましたが、それはかなり少数派でした。そういう人は当然、外交官試験に受かる、司法試験に受かるという目前の目標があり、試験勉強に没頭していました。一方、その他の大多数の学生は、明確な目標がないまま企業に就職していきました。

当時、企業の採用活動はリクルーター制が主流でした。リクルーター制とは、人事部の採用担当者以外の社員が学生と直接コミュニケーションを取り、自社の魅力を伝えたり、採用選考の一部を担ったりする採用方法です。特に新卒採用でよく活用されました。多くの場合は同じ大学を卒業した若い先輩たちがリクルーターでした。就活が始まる時期になるとキャンパスにやってきて、「どうだ、うちの会社に来ないか」と手当たり次第後輩たちに声をかけていきます。何人かはお誘いに乗って先輩の会社に就職していくわけです。私たちはそういうリクルーターの先輩たちを「人狩り」と呼んでいました。新卒一括採用が主流の時代は、企業の側も専門知識・スキルのない人材を社内で育てていく余裕がありました。入社してから自分たちで教育して会社の方針・やり方を叩き込めばよかったので、大学で学んだ専門知識やスキルなどはあまり関係なく、採用計画の採用人員数を充足させることが最優先に考えられていました。変に特定の価値観に染まっている人材より、専門知識もスキルもない真っさらな学生に入社してもらった方が教育しやすかったのだと思います。

  可能性に挑戦する若者たち


しかし、現在の労働市場は急速に変化して、企業は即戦力となる人材を求める傾向が強まっています。企業が即戦力の人材を求めるようになった理由には、いくつかの重要な背景があります。即戦力の人材は、入社後すぐに業務を担当できるため、研修やOJTにかかる時間や費用を大幅に削減できます。これにより、企業は業務効率を上げて、人材を育成するコストを削減することができます。また、少子高齢化に伴い、労働人口が減少しているため、多くの企業が人手不足に直面しています。企業は、即戦力の人材を採用し、すぐに業務に貢献できる人材を確保することで人手不足を解消しようとしてます。グローバルな市場競争が激化する中で、企業はすぐに業務に対応できる人材を求めているのです。既に業務経験やスキルを持っている即戦力の人材は、短期間で成果を上げてくれることが期待できます。さらには、働き方改革やリモートワークの普及により、柔軟な働き方が求められるようになっています。即戦力の人材は、こうした新しい働き方にも適応できるため、企業にとって貴重な存在となっているのです。

労働市場に限らず、今の日本社会は大きく変化して価値観が多様化しました。そういう環境の中で、大谷選手のように自分の可能性を信じて日々努力する若者が増えてきたのではないかと思います。逆説的に言えば、日本経済が成長している時代は、そのような努力をしなくても、世の中の流れに乗っかってしまえば大過なく人生を過ごせたのです。人口が増える社会では、社会の需要が自然に増えていく訳ですから、従来と同じことをしていても経済は成長していきます。しかし、今の日本の社会は少子高齢化で、従来と同じことをしていても成長することはありません。また、社会一般に広く受け入れられていた価値観や常識が変化して、チャレンジすることに対する障壁が低くなったということもあるでしょう。例えば、昔であれば、スポーツ選手になろうとしても親から現実的なキャリアを選ぶように強く反対され、夢を諦めることことは少なからずありました。世の中の流れに乗っかれば、リスクを冒してチャレンジしなくても人生を大過なく生きていけたからです。しかし、今は、子供の夢の実現を応援する親が増えたように思います。日本社会は、何もしないで、どうにかなる社会では既にありません。一人ひとりがチャレンンジして何かを掴み取っていかなければならない社会になっているのです。一方で、世界にはチャレンジできる可能性が無限に広がっています。今の日本には、自分の可能性を信じて何かに挑戦する若者が増えており、今私たちが見ているのは、停滞する日本ではなく、無限の可能性の広がる世界で挑戦し続ける若者たちの姿なのではないでしょうか。