「社会規範」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?社会における規範(ルール)のことですが、職場にも規範があります。いわば、「職場のルール」と言われるもので、明示的・黙示的に存在します。「職場のルール」がわかっていないために、適切な行動を取れない社員が意外に多くいます。その結果、「目に見えない制裁」を受けることになります。

  社会規範と企業内の規範(「職場のルール」)


社会規範は、社会生活を営む上で守らなければならないとされている規準を指します。これには法律、道徳、慣習などが含まれます。社会規範は、社会や集団の中で、成員たちに期待されている考え、態度、行動の型を指します。慣習、伝統、法などが含まれます。また、社会規範は、成員の遵守行為によって顕在化しますが、逸脱した言動を示す成員に対しては、勧告や罰などの社会的な制裁が加えられます。

社会規範の例としては以下のようなものがあります。これは職場内の規範と共通するものです。

⑴ 礼儀正しさ
他人に対して敬意を払い、礼儀正しく接することが求められます。「挨拶」や「お礼」の言葉を言うこと、公共の場での「マナー」を守ることなどです。

⑵ 交通ルールの遵守
「交通ルール」は、安全な運転や歩行を実現するために存在します。信号を守る、速度制限を守る、駐車場所を守るなどが一例です。

⑶ 環境への配慮
環境への配慮は、ごみの適切な分別やリサイクル、エネルギーの節約、自然保護などを指します。社会全体で環境に対する意識を高めることが求められています。近年では、SDGsの高まりで環境への配慮する意識は、社会全体に浸透してきました。

⑷ プライバシーの尊重
他人のプライバシーを尊重することは重要です。個人情報を漏洩しないようにし、他人のプライバシーを侵害しないように心掛けることが求められます。

⑸ 助け合いと協力
社会では「助け合い」と「協力」が求められます。最近は、地域社会の絆が薄くなってきたと言われますが、隣人や仲間と協力して問題を解決し、共同体を支えることが大切です。

これらの社会規範と職場の規範は、文化や習慣によって異なる場合がありますが、共通の基本原則として社会あるいは職場内に広く受け入れられています。

  社会規範や職場内の規範を守らない場合の影響


社会規範や職場内の規範を守らない場合、さまざまな影響が生じる可能性があります。

⑴ 職場やチームへの影響
職場では、社会規範を守らない人が周囲に与える影響は深刻です。チームの士気が低下し、生産性が損なわれることがあります。また、信頼関係が崩れることもあります。社会的には、ルールを守らない行動が広がることで、公共の安全や秩序が脅かされる可能性もあります。

⑵ 企業における影響
企業が社会規範を守らない場合、不祥事が発生するリスクが高まります。これは企業の評判や信頼に影響を及ぼす可能性があります。コンプライアンス違反は、法的な制裁や罰金を伴うこともあります。また、社会的な非難や顧客からの信用喪失も考慮すべきです。

⑶ 個人的な影響
個人が社会規範を守らない場合、周囲の人々との関係が悪化する可能性があります。友人や家族との信頼関係が揺らぐこともあります。

社会規範や職場内の規範を守ることは、社会全体や職場の健全な運営に資する重要な行動です。

  社会的制裁と職場内の規範


社会規範は、人々が社会生活を送るうえでの行動基準で、人々が守らなければならないルールやマナーを示し、社会の秩序を維持する役割を果たしています。これらのうち、道徳や長い期間をかけて定着していった慣習で、条文という明確な形をとり、強制力を持つものが法律です。これに違反した場合には罰則が課せられます。法は国家によって設けられる社会規範で、強制力を伴いますが、これより適法な行為を促し、違法・不当な行為を抑止する役割を果たしています。

法律以外の社会規範に違反した場合は、「法によらない制裁行為」があります。具体的には、非難、嘲笑、侮蔑のような形で社会的制裁が行われます。これにより、規範から逸脱した者に対する心理的な圧力を与えます。

社会的制裁は、社会集団が自己の生存を維持するための仕組みとして存在しています。特定の行動が他の集団メンバーの共有する価値観やルールに抵触した場合、非難や嘲笑、侮辱などが行われ、社会的規範への遵守を促します。古い例では「村八分」が典型的な社会的制裁の一例です。

社会的制裁は、社会的結束に必要であると考えられており、適切な行動を促すために重要な役割を果たしています。

上記は社会規範の一例ですが、職場でも、構成員共通の基本原則として組織内に受けいれられている規範があります。企業が社会的存在である以上、当然のことです。

職場内の規範は、組織の構成員が守らなければならないルールやマナーとして明示的・黙示的に存在します。これらのうち、組織の構成員が職場で仕事をする上の行動基準が示されているのが「就業規則」です。これらは、強制力を持ち、これに違反した場合に何らかの制裁が課せられます。制裁は、「上司による注意・叱責」、重いものは「会社による懲戒処分」で「解雇」などの形をとります。

職場の規範は、企業目的達成のために役職員に対して適正な行為を促し、業務遂行上の違法・不当な行為及び不適切な行為を抑止する役割を果たしています。

  黙示の規範に違反した場合の制裁⁉︎


例えば、朝出社して、部下が上司に対して「おはようございます。」と挨拶するのは社会的規範です。しかし、挨拶をしなかったからと言って社会的な制裁を受けるでしょうか?

全く挨拶しない人はそう多くはないでしょうが、「正しく挨拶が出来ていない」人は意外と多いものです。「正しい挨拶」は、朝、執務室に入って来て、「既に出社している不特定の誰かに対してする挨拶」とは違います。挨拶をしなければならない「特定の対象」に対する挨拶が出来ていない人が多いのです。

職場内の規範に照らしてみると、「おはようございます。」には、「ただいま出社しました。業務を開始する準備はできています。」という報告が言外に含まれています。すなわち、部下は「おはようございます。」と上司に挨拶することで、出社したこと(会社の支配下に入ったこと)、これから上司の指揮命令下、業務を開始する準備が整っている旨を「上司に」報告する必要があります。

また、勤務を終了して帰宅する時も同様です。部下が「お先に失礼します。」と言って帰るのは、「(本日予定していた業務は全て終了しました。特にご指示がなければ、)お先に失礼します。」という報告をしているのです。上司が「ご苦労様。」と返すのは、「(命じた仕事は終わったんですね。)ご苦労様。(処理状況を確認したところ今日はこれで大丈夫ですので、帰宅してください。)」という指示をしているのです。

部下は、その日一日の「業務の遂行状況を報告する義務」があります。上司は、報告を受けて、「業務処理状況を確認する義務」があります。時間外勤務を命じる必要がなければ、業務終了を指示して部下を帰宅させることになります。この場合、部下が挨拶もしないで帰ってしまうことは、報告を怠っていること(報告義務違反)に等しいわけで、職場の規範や規律に違反していることになります。

したがって、上司が「黙って帰るな。」と繰り返し注意されたにもかかわらず、部下が従わない場合は、制裁の重さはともかく、服務規律違反として制裁の対象となるでしょう。服務規律違反でないにしても、部下は「上司の信頼を失う結果」を引き起こします。これは、上司が部下に対して「信頼しない」という制裁をしているのと同じです。信頼関係が破綻しては部下にとって得るものはありません。業務遂行に支障をきたすことになります。

また、社員が、職場の周囲の人から協力を求められているのに協力をしない場合、その同僚との関係が悪化し、信頼関係が揺らぎます。その結果、本人が周囲の人の協力を得たいときに協力が得られないという結果を招きます。これは「同僚がその社員に対して制裁をしている」のと同じです。

  自己中心の人は知らずに制裁を受けている


「挨拶」を一例としてとりあげましたが、ちょっと注意してみると、もっとたくさんの「違反」事例に気がつくと思います。こういうことに無頓着な人は、知らないうちに上司や同僚の信頼を失って、「暗黙の制裁」を受けているのです。服務規律違反のようにはっきり見えるものはいいのですが、「挨拶をする」、「お礼を言う」などのように暗黙のうちに社会規範として存在しているものは、これをしなかったからと言って制裁があるなどとは意識していないと思います。しかし、上述のように、こういった社会的な規範を守らないと、上司が部下を信頼しない、同僚が協力してくれないなどの「暗黙の制裁」を受ける結果になるのです。

個人主義の考えを持ち権利意識が強い人は、「自己中心主義」に堕ち入って、他人のことに注意が届きません。知らず知らずのうちに「暗黙の制裁」を受けていることがありますので、注意しましょう!