『カスハラ対策、従業員の保護を企業に義務化へ 厚労省が法改正を検討』

2024年5月12日配信(朝日新聞デジタル)

『顧客が理不尽な要求をするカスタマーハラスメント(カスハラ)が社会問題化する中、厚生労働省は、労働施策総合推進法を改正し、従業員を守る対策を企業に義務づける検討に入った。政府が6月にも取りまとめる「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に対策の方向性が盛り込まれる見通しだ。』

  「カスハラ」とは?顧客クレームとの違いは?


5月12日の朝日新聞の配信ですが、「カスハラ」という言葉をご存知でしょうか?

「カスハラ」は、顧客が店舗や企業に対して行うハラスメント行為(嫌がらせ・いじめ)を指します。具体的には、顧客からの言動に、暴言、脅迫、侮辱、攻撃的な態度などが含まれる行為です。「カスハラ」はしばしば感情的な要素を含み、相手を傷つけることを意図しています。

それに対して、「顧客からのクレーム」は、顧客が商品やサービスに対して不満や問題を報告することを指します。改善のためのフィードバックとして顧客が具体的な問題や不具合を指摘し、改善を求める場合がクレームです。クレームは感情的な要素よりも、具体的な事実や問題に焦点を当て、顧客の商品やサービスに対する期待と実際とのギャップが原因となります。

簡潔に言えば、カスハラは「攻撃的で感情的な言動を伴うハラスメント行為(嫌がらせ・いじめ)」で、クレームは「具体的な問題を指摘するフィードバック」と言えるでしょう。

  何が「カスハラ」の原因?


日本のサービスは高品質で、海外からも賞賛されています。しかし、企業間競争でサービスの質が高まるにつれ、価格を上回る過剰なサービスが増えました。そのため、消費者のサービスに対する期待値が高まり、少しでも期待値以下の対応をされると、騒ぎ立てたり、過度な要求をする「カスハラ」行為が増加する結果を招きました。

また、SNSの普及により、苦情や不満を伝えるハードルが低くなったことが、「カスハラ」増加の背景にあるとも言われています。SNSによるネガティブな口コミが瞬く間に広まり、企業に批判が殺到し、誤った認識を広めてしまうこともあります。

また、退職期を迎えた高齢者にクレーマーが多いとも言われています。高齢者は老いにより自制心が衰えることがあり、小さなことでも怒りやすくなります。その結果、無自覚な「カスハラ」行為をしてしまうこともあります。退職後、持て余した時間とエネルギーを「カスハラ」行為に向けてしまっているとも言います。

それに加え、現代は「ストレス社会」と言われており、多くの人がストレスを抱えています。怒りやすくなる社会的背景も、「カスハラ」が増える原因になっています。

  お客様は神様⁉︎


日本では、長らく「お客様は神様」という価値観が根付いていて、顧客至上主義が強調されています。この文化的背景から、一部の身勝手な顧客は「店員を下の立場とみなし、何を言っても、どんな態度で接しても良い」と考えます。消費者保護法の改正や消費者庁の設立により、消費者の権利意識が高まった結果、過剰な要求や暴言などの「カスハラ」を行う人が増えたとも言われています。

海外旅行したことがある人は経験したことがあると思いますが、海外のレストランなどでの接客スタイルは、日本よりカジュアルでフレンドリーなものが多いのではないでしょうか?それに対し、日本では真摯で誠実な接客対応が多いと思いませんか?

  イギリスは寛容!


だいぶ前のことにはなりますが、私は、1990年〜1992年にロンドンにいました。その頃、経済的に台頭した日本は諸外国から働きすぎを批判され、週休2日制の導入が喫緊の課題となっていました。当時、イギリスでは金融機関の週休2日は既に実施されていました。日本の金融機関の場合、1983年8月から毎月第二土曜日を休業日とし、完全週休2日制は1989年2月になり、ようやく実施されました。週休2日制の実施にあたっては、ATMの休日稼働が大きな問題でした。途中で紙幣が不足したらどうするかなど顧客対応を必要とされる準備を完璧にしての実施でした。

ロンドンで驚いたことがありました。私が休日に現金を下ろそうとして、近くの銀行の店舗に行ったところ、そこのATMは、どのATMも、”Sorry, out of cash.”と表示され、週末の間、現金も補充されることはありませんでした。これは、この銀行の支店だけではありませんでした。休日にはよく見かける風景であることに気づきました。

日本でこんなことがあったら、月曜日には苦情と批判の嵐でしょう。しかし、驚いたことにイギリスでは特に問題とならないのでした。パーソナル・チェックも一部に普及していたと言う事情もあったと思いますが、総じてイギリスの消費者は、日本と比べると寛容でした。日本の場合は、わずかなミスでも批判にさらされるため、完璧に準備しなければ、なかなか物事を実行に移せません。一方、完璧を求めないイギリスでは、日本より何年も前にATMの休日稼働を実施して金融機関の週休2日を実現していたのでした。

日本には、もともと完璧を求める風土があります。だから、世界に冠たるサービスの品質を誇るのだと思います。しかし、一方では勘違いした権利意識を持つ一部の消費者による「カスハラ」が、深刻な社会問題となっています。「お客様は神様」ではなく、本来、お客様と物やサービスを供給する側とは「対等な立場」にあるはずです。

  少しだけ寛容になれば⁉︎


厚労省は、「カスハラ」への対応として、労働施策総合推進法に「カスハラ」防止策を追加する改正を検討しているようです。具体的には、企業に対応マニュアルの策定や相談窓口の設置などを義務付けることが想定されいます。

しかし、企業だけにこの問題への対処を押し付けるような対応で「カスハラ」がなくなるでしょうか?

最近、郵便局の土曜日配送がなくなりました。どうでしょうか?土曜日に配送されていたものが月曜日に配送されるようになって、不都合を感じますか?おそらく、社会が求めた結果として土曜日配送が行われていたのでしょう。それが労働力不足をきっかけとして郵便局は土曜日配送をやれなくなった。でも、社会は大きな不都合を感じていない。消費者の無意識な要求が、土曜日配送を求め、長時間労働を助長する要因にもなっていたのではないでしょうか?

もしかしたら、日本という社会は、少しだけ寛容になることが必要なのかもしれません。みんなが少しづつ不便を受けれる寛容さを持つことで、労働力不足や「カスハラ」の原因となっている社会のストレスを緩和することができるのではないでしょうか?