水俣病救済集団訴訟


3月22日、熊本地裁は、水俣病救済めぐる集団訴訟において、2009年の水俣病特別措置法の救済策の対象外となった144人の請求を棄却しました。原告は、水俣病の典型的な症状を訴え、国と熊本県、原因企業であるチッソに損害賠償を求めていました。一部の原告は水俣病と認定されたものの、損害賠償請求権が消滅する除斥期間の20年が経過したと判断されたため、請求権は棄却されました。去年の大阪地裁判決では、原告全員を水俣病と認め、国などに賠償を命じていましたが、今回の熊本地裁判決は異なる結論を導いています。

水俣病は1956年に公式に確認された公害です。原因企業のチッソがメチル水銀を含んだ工場排水を流し続けたことが原因でした。これにより、多数の水俣病患者が発生しました。日本においては、これらの公害事件をきっかけとして、1960年代以降、企業の社会的責任 (CSR) が認識されるようになりました。企業は事業活動を通じて利潤を追求する一方で、倫理的観点から社会に貢献する責任を担っています。CSRは、利潤追求だけでなく、組織活動が社会へ与える影響に責任を持ち、あらゆるステークホルダー(消費者、投資家、社会全体など)に対して適切な意思決定をする責任を負っています。企業のメセナ活動、災害復興のための義援金の寄付も企業のCSR活動の表れです。


  企業の社会的責任は、CSRからSDGsへ    


さらに、いまSDGsが叫ばれるようになりました。これまでのCSRの活動が、企業活動により利害関係者の利益を侵害しないことはもとより、企業活動を通じて得られた利益の一部を社会に還元して社会の健全な発展に寄与することを目的にします。一方、SDGsは、利潤を追求する企業活動の中で社会課題を解決していこうとするところに違いがあります。


SDGsは、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された国際目標です。17のゴールは、持続可能な世界を目指すための指針であり、経済・社会・環境の3つの側面に関連しています。SDGsは、日本も積極的に取り組んでいて、皆さんの勤めている会社でも何らかのSDGsの活動に取り組んでいるのではないでしょうか。


  最終決着をつけるつもりが・・・!


今回の熊本地裁の判決で知ったのですが、2009年の水俣病特別措置法は、政府が水俣病訴訟の最終決着をつけるために制定した法なのです。それにも関わらず、訴訟の終わりが見えていません。昨年の大阪地裁判決のほか今回の熊本地裁の判決以外にも、東京地裁、新潟地裁でも集団訴訟が係属しています。また、熊本地裁と大阪地裁では判断が大きく割れていて、当面この訴訟に決着がつくようには見えません。


60年以上も前に起きたコンプライアンス違反の企業活動が今になっても終わりが見えないことに企業の社会的責任の大きさを感じます。一方、水俣病の原因企業であるチッソという会社は、明治期に創業された名門企業です。にも関わらず、社会的責任に反した活動をし続け、その結果として社会から退場することも出来ず、被害者補償のために今も生かされ続けているのです。


  企業は、事業活動の中で社会課題を解決する存在


SDGsの活動に見られるように、現代において企業は、「事業活動の中で社会課題を解決していく存在」として期待されています。本来なら、企業は社会の課題を解決するために存在すべきなのに、チッソという会社は、被害者補償のためだけに存在し続けなければならないわけです。被害者にとっても悲痛ですが、会社という組織にとっても悲痛な話だと思います。