思い出すこと


4月3日に起きた台湾の花蓮市沖を震源とする地震で、昨年2月に起きたトルコ・シリア大地震のことを思い出しました。この地震への義援金は日本が一番多かったと言われています。なぜなのか?この理由はトルコと日本との間の絆にあります。恐らく、ほとんどの人は知らないと思いますが、1890年に起きたエルトゥールル号海難事故と1985年のテヘラン在留邦人救出事件で起きたことに象徴されます。

 

イラン・イラク戦争のさなかの1985317日、48時間経過後、イラン上空を飛ぶすべての航空機を無差別に撃墜する。外国人は48時間以内に退去せよ。」、イラクのサダム・フセインは、突如、そう宣言しました。各国の駐在員は、蜂の巣を突いたようにイラン国外へ退避を開始し、テヘランの街は大混乱となりました。各国の航空会社は、すぐさま自国民の救出を開始しました。


しかし、当時、日本の航空会社は、イランへ乗り入れていませんでした。在留邦人は、自国民優先を理由に、各国の航空会社からは搭乗を拒否されました。ところが、日本政府は、乗務員組合の反対で、日本航空の救援機を派遣することが出来ませんでした。邦人215人がテヘランに取り残され孤立しました。当時、日本は自衛隊機の海外派遣も出来ませんでした。なんとこの危機に際し、日本政府は救援機機さえも飛ばすことが出来なかったのでした。


  イラン在留邦人救出とエルトゥールル号事件


日本政府が進退窮まったこの時、テヘランに取り残された日本人を救ったのはトルコでした。トルコ政府は救援機2機を派遣し、孤立無縁の在留邦人215人を自国の救援機に乗せ救出しました。一方、救援機に乗れなかった在留トルコ人500人あまりは、陸路イランを脱出しました。驚くべきことは、この時、日本政府の要請を受けたトルコ政府は、自国民に優先して、日本人を救出する決断をしました。そして、トルコ国民はそれを支持しました。また、500人余りの在留トルコ人は、日本人に救援機を譲って陸路退避することを選択しました。


奇跡」、そうとしか言えないことが、なぜ起きたのか。その理由は100年近く遡ります。1890年オスマントルコの軍艦エルトゥールル号は、公式親善のため来日しました。しかし、帰国時、和歌山県串本沖で台風に遭い沈没しました。乗組員のうち581名が命を落とす大惨事となりました。串本の村人は一縷の望みをかけ荒れ狂う海からトルコ兵を救出しました。助けられた兵士は、低体温で瀕死となっていました。


貧村に十分な医療品はありません。村の男たちは裸になり、必死に兵士の体を温めました。次々と兵士が運び込まれてきました。村にはもう男手はいない。村の女も瀕死の兵士を温めました。一夜明け、69人が命を繋ぎとめました。村人たちは、命を繋ぎ止めた兵士たちに、自分たちの食糧と非常用備蓄まで与え介抱しました。村の大人をはじめ子供も空腹を我慢しました。


数ヶ月が経ち、傷の癒えた兵士たちは帰還しました。兵士たちは、串本の人々から受けた献身的で無償の善意を故国の人々に伝えました。トルコの人々は、日本人の善意に感謝し、この時の恩を忘れぬよう、学校の教科書に載せて、語り継いだと言うことです。トルコの人たちは、実に100年近くを経たこの時に、テヘランで串本の村人から受けた恩を私たち日本人に返してくれたのでした。

 

  トルコ・シリア大地震と台湾東部沖大地震


テヘラン在留邦人救出事件から38年経った2023年2月6日、トルコ南部及びシリア北部にマグニチュード7.8の大地震が起きました。死者の数は、東日本大震災を遙かに超えるものでした。私の職場でも募金を募りトルコ大使館に義援金を贈りました。この地震へ最も多くの義援金が日本から寄せられたのは、日本とトルコのこうした歴史の絆があるからなのかもしれません。台湾では、1999年にも台湾中部を震源とする大地震があり、死者は2000人以上、負傷者は1万人以上を超える大災害がありました。


この地震発生からなんと十数時間後、最も速く現地に到着していたのが日本の救助隊でした。日本の救助隊は困難な救助活動を手作業で行い、昼夜を問わず、献身的に救助を進めました。多くの台湾人が救われました。救助活動が終了し救助隊が帰国の途につくとき、空港で台湾の市民が救助隊に立ちふさがりました。感謝の気持ちを伝えるために人々が集まっていたのです。その後、2011年に東日本大震災がありました。その時、最も多くの義援金が寄せられたのは台湾だったのです。


当時の台湾の総統だった馬英九氏が、台湾のテレビ局のチャリティ番組に出て「我々の友人が困ってる。どうぞ義援金を」と番組放映中ずっと国民に呼びかけていました。台湾やトルコとの友好関係は、災害時の相互の支援によって絆が深まっています。今回の台湾花蓮市沖を震源とする大地震について、日本からSNSで被害のことを心配するメッセージや被災した人たちを励ますメッセージが多数発信されていると蔡英文総統が感謝しています。


  災害支援を通じた国際協力と連帯


国際紛争を解決する手段として交戦権を放棄した日本にとっては、このような国際的な協力と連帯が、非常に重要なことなんだと思います。台湾では、救助活動が現在も続いています。多くの人の命が救われますよう祈念いたします。また、日本では、正月に能登半島の大地震もありました。東北もまだ復興作業が続いています。トルコもシリアも石川も、こらから長い年月、復興の道のりが続きます。1日も早い復興を祈念しております。