ネットニュースでは、「ダイヤモンド・プリンセス号」への対応で、日本政府がアメリカを中心とする海外メディアから非難を受けています。日本政府は、コロナ感染者の発生したダイヤモンド・プリンセス号を横浜に足止めにして、乗客と乗務員を合わせて約3500人に対して感染検査を実施しています。感染者は医療機関に順次搬送され、非感染者や結果待ちの人々には客室での待機を求めています。


しかし、船内での感染拡大が止まらず、海外メディアからは批判の声が上がっています。高齢者や持病のある人は、ウイルス検査で陰性だった場合、政府が用意した宿泊施設に移ることが求められていますが、他の陰性の乗客は客室で待機して外との接触を極力取らないようにしています。にもかかわらず、乗員と乗客が接触する局面があり、感染拡大を防ぐのは難しい状況なのです。ダイヤモンド・プリンス号は、大型客船内で新型コロナウイルス感染が確認されたおそらく初めてのケースとして日本政府の対応が国際的な注目を浴びたのです。

 

しかしながら、海外メディアの指摘は的を射ていないと思います。ダイヤモンド・プリンセス号は、イギリスの会社が所有し、日本の会社に運航委託をしているイギリス船籍の大型客船です。国際法上、公海上を航行する船舶は所属国(旗国)の排他的管轄権に服します。ダイヤモンド・プリンセス号は、イギリス船籍なので、イギリス政府が排他的管轄権を持ちます。したがって、ダイヤモンド・プリンセス号内の新型肺炎の集団感染への対応は、イギリス政府が、本来行わなければならなかったものなのです。国際ルール上は、日本政府が口を挟む筋合いではないのです。

 

しかし、乗客約3,700人のうち、日本1,280人、香港470人、アメリカ425人、イギリスはカナダ人とあわせて225人とイギリス人は相対的に少数になります。イギリス政府にとっては、遠い極東で起こっているこの問題を優先的に解決するインセンティブに乏しいし、有効かつ迅速な対応をとれないのも事実だと思います。一方、日本政府は、乗客の過半数が日本人ですので、逆に無視することはできません。


したがって、イギリス政府に代わって、日本政府がこの問題に対応したというのが実情だろうと思います。そういった意味では、日本政府の対応を感謝すべきもので、批判すべきものではないと思います。長時間、顧客を客室内に止めることは、感染症を防止するため、やむをない措置かと思います。したがって、海外のメディアの日本政府に対する批判は、国際ルールの理解不足からきたものと思われます。

 

もし、日本の会社が保有し、日本の会社が運航する貨物船内で集団感染が起こったらどうなるのでしょうか?船はパナマ船籍で、船員はフィリピン人船員のみとしましょう。貨物船なので乗客はいません。感染しているのはフィリピン人船員のみとなります。日本の会社が保有し運航する船ですが、自国民救済の必要がないのであれば、本来的には日本政府に責任はないのです。


また、管轄権は、船籍のあるパナマ政府ですが、自国民のいない船に対して責任のある対応をするインセンティブは働かないと思います。対応する可能性はあるがあるとすれば、フィリピン船員救済の必要があるフィリピン政府ですが、船がフィリピンから遠く離れていれば、有効な手も打てません。今回の事件の本質は、国際ルールが、今回のようなケースに対応できていないのが問題だったのです。