「私、新潟に行く」
家の中が、静まり返った。
「・・・綾ちゃん、いいの?
お友達とも、皆離れることになるのよ・・・?」
「そうだよ、本当は綾ちゃんにそんなこと言わせたくなかったのに・・・・」
「・・・・いいの。東京よりは、新潟に行きたいから!
ほら、冬なんて寒いしおばあちゃん大変でしょ?
手伝いながら居候させてもらうよ」
「・・・・・そんな、私のことは・・・」
「おばあちゃん、叔母さん。
本当にいいの。
たった今だけど、決めたの。
・・・・これで、いいの」
「・・・・・・」
「手ぇ、洗ってくるね」
私は鞄を部屋に置いて、2階の洗面所に向かった。
「・・・・・」
冷たい水が、ひやりと手に伝う。
・・・・・・このことは、
輝には絶対に言わない。
・・・・・亜衣と寿々には・・・・
言っておくべきなんだろう・・・。
お父さん、お母さん。
私、間違ってないよね・・・・?
***
部屋で勉強をしていると、突然机の上の携帯が鳴った。
バイブ音が伝わってかなり驚きながら画面を見ると、輝から着信が入っていた。
「はいっ」
「もしもし、綾?・・・大丈夫か?」
「・・・・うん、大丈夫!
あ、お通夜とお葬式なんだけど、お通夜が今日の夜で、お葬式が明日に決まったから・・・
皆に伝えておいて貰っていいかな?」
「・・・・ああ」
「・・・ごめんね、輝はどうしたの?」
「あ、ああ・・・・
寿々と拓に伝えておいたけど良かったか?」
「・・・うん。ありがとう。
言うの辛いから・・・・
ごめんね、言わせちゃって」
「・・・・いいんだよ、俺のことは・・・・
それと、旅行行かねえか?」
・・・・旅行?
「・・・・・え、旅行・・・?
・・・えっ?いつ・・・?え・・・・っ?え・・・?」
「こんなときにどうかと思ったんだけど、
亜衣がどうしてもって・・・・。
そしたら寿々もそうしたいって言ったから。
皆親が許可してくれたらしい。
・・・ま、渋々だけどな」
「・・・・・で・・・でも、中学2年生のあたしたちが泊まれるとこなんて・・・」
「親が必死に手配してくれてる。今」
「・・・・・え、でも・・・」
「18歳に見える格好すれば、ま・・・平気だろ」
「・・・・でも、無理だよそんなの・・・・!」
「無理じゃねえ!てか俺たちが行きたいだけだから・・・
お前に、付き合ってくれたらうれしいって・・・・
誘ってるようなもんだからさ」
「・・・・・・・・・・だって・・・・」
分かっていた。
皆が、私のことを必死に慰めようとしてくれていることも。
私の悲しみを、少しの時間でも紛らわそうとしてくれていることも。
「・・・・・・・いいか?
来てくれるか・・・?
電車と新幹線乗り継ぐから、かなり大変で金もかかる。
・・・・・いいか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
私の頬に涙が伝った。
声にならない悲しみが、私の喉を詰まらせる。
「・・・・・・・・・うん」
「・・・・え、いいのか?」
「・・・・・・ありがとう、・・・・輝。
みんな、ありがと・・・・・っ」
見えない画面の向こうの輝に、
会いたい気持ちが重なる。
「・・・・・・・ああ。
皆、喜ぶよ・・・」
「・・・・・・・・・・・本当に・・・・」
ありがとう。
君と、一緒にいれて・・・・
良かったよ・・・・
***
このことを叔母さんとおばあちゃんに伝えなければと思い、
私は1階に降りた。
「叔母さん、おばあちゃん」
ふたりが振り向いた。
「あのね、お葬式が終わったら、・・・10月1日くらいに、みんなで旅行に行くことになったの。
行かせてもらっても・・・いいかな」
「・・・・・旅行?」
「誰とかね?」
「・・・・輝と、亜衣と、優斗と、寿々と、拓」
「・・・・男の子もいるの?」
「うん。
・・・みんな、私を元気づけようとしてくれてるの・・・。
お願い、最後に行かせてください。
お願いします・・・!!!!!」
私は精一杯頭を下げた。
分かっていた。
男の子と一緒に旅行なんて、先が知れている。
すると、叔母さんが口を開いた。
「・・・うん。行きなさい。
行っていいよ」
「・・・・・・うん。
行っといで」
「・・・・・・・えっ・・・・・
い、いいんですか・・?!?」
「・・・・そのかわり、荷物はちゃんとまとめておくこと」
「・・・・・帰ってきたら、すぐ出発になるけど・・・
いいかね?」
「・・・・・・はい」
「・・・・学校は?」
「休むことになると思う」
「・・・そう。しょうがないわね」
「・・・・いいわよ・・・
最後なんだから、思う存分楽しんできなさい」
「・・・はい!」
***
「もしもし、輝?
叔母さんもおばあちゃんも、旅行の許可出してくれたよ!!」
「マジか!!良かった~!!
それとな、旅館泊まれるとこあったぞ!!!」
「・・・えっ、うそ!?」
「親のコネでな!
拓の父さんが、旅館経営してたんだよ(笑)
あいつ、そんなことも秘密にしてたんだな・・・」
「そっか・・・・!!!
本当にありがとう、輝・・・!」
「他の奴にも礼言えよ(笑)」
「分かってるよ~(笑)」
「じゃ、9月30日・・・明日か!明日の朝7時に駅で待ち合わせ。
箱根に行くからな」
「は、箱根・・・!」
「スバラシーだろ?(笑)
じゃ、また明日な!」
「・・・・うん。」
ぴっ。
・・・・・また明日、か・・・
また明日まで、・・・・・・
***
次回、旅行編です!
綾と輝の絆は深まるのか?
必見です!(笑)