引っ越しと旅行の準備を兼ねて、箪笥の服やら物やらを一気に出していく。
「・・・・・はー」
机のものまで出し終えると、足の踏み場がないほど部屋はごちゃごちゃになった。
まず箪笥から大きなリュックとショルダーバッグとエナメルバッグを出して、服を詰め始める。
時折小さなかごや手提げに分けながら。
良い機会なので、着れなくなった小さな服はベッドの上に置いておくことにした。
思い切って冬服も出して、冬服は全てバッグに入れた。
そんなこんなで、エナメルバッグとリュック丸丸ふたつを使って、服は詰め終わった。
次に、勉強道具やら暇つぶしの道具やら・・・・
物。
物はがちゃがちゃしている上に収納力がないので、私としては一番嫌いだ。
まずドリルなどの紙物、それにどうしても持っていきたい本などをショルダーバッグに詰めた。
紙物なので、気をつけて整理しながら入れていけば、かなり収まるものだった。
次に、アクセサリーなどの雑貨。
折りたたみ式の大きめのミラーと、すこし高めの箱を用意して、棚などに化粧台が作れるようにした。
勿論箱は有効活用して、中に小さなアクセサリーなどを入れたりした。
バスタオルなどは結構多く入れた。
そして、3つめのバッグも埋まってしまった。
最後に、かなり大きい手提げを引っ張り出してきた。
この中に、余ったバッグや生活用品を放り込んでいく。
鉛筆削りは中身を捨ててビニール袋に入れて放り込んだ。
充電器、ミニゲーム機・・・・
・・・・そして、準備が終わった。
旅行にもっていくものだけは、残してある。
「・・・・・・はー・・・」
妙に寂しさが増したこの寂しい部屋が、私の鼻をつんとさせた。
***
朝。
旅行の朝・・・・。
今日と明日で、皆には会えなくなる。
・・・・・・寂しすぎて、泣けるけど・・・・
不思議と、悔いはないんだ・・・・
ピンポーン。
・・・?
誰だろう?
「綾ちゃん、輝・・・くん・・・?よ!」
「・・・・えっ、輝!?」
「うん。荷物持って降りてきなさい」
「はい!」
急いで荷物を全部持って下に降りた。
まだ6時半なのに・・・
がちゃっとドアを開けると、輝がいた。
「よ」
「おはよっ・・・・」
「一緒にいこーぜ、駅」
「・・・・・え、でも・・・」
「何迷ってんだよ。なんかおかしくね?お前」
「・・・・や、そういうわけじゃ・・・」
「じゃ、決まり。行こうぜ」
ぐいっと手を引っ張られる。
「あっ、あ・・・行ってきます!」
輝に手を引かれて、
君と最初で最後の旅行に旅立つ。
***
「・・・・ふう、一応バス停だな」
「荷物重いね~」
「1つ持ってやるよ(笑)お前見かけによらず貧弱だからな」
「しっつれー!いいよ(笑)大丈夫ですー」
「・・・・やっぱお前、なんか今日おかしくないか?」
「・・・・へっ?!」
・・・・やばっ。
危ない反応しちゃった・・・
だって、君の笑顔を見るたびに・・・
これが最後なんだって、思い出しちゃうから・・・
「・・・・・・・・・お通夜と葬式、今日なんじゃねえのか」
「・・・・うん」
「うん、って・・・・・良いのか、行かなくて・・・ってか、行かなくていいわけないだろ」
「実はね・・、もう先にお通夜・・・っていうか、済ませたの。私だけ」
「え?」
「お葬式は、明日帰ってきてからちゃんと出る。
でもお通夜だけは出れないから、朝会ってきた・・・」
「・・・・・・そうか。ごめんな」
「う、ううん・・・・輝は悪くないよ」
「・・・ま、忘れろなんて無理な話だけど、今日は楽しもうぜ」
「・・・・うん!」
***
駅到着。
「あ、皆来てるーっ!」
私がはしゃいだ。
「(笑)はしゃいでるお前、普通でもレアなのに珍しーな(笑)」
「へへへっ、超楽しみっっ!!!!」
本当に、これは素で楽しみだった。
ここが駅だってことも忘れて、はしゃぎまわりたかった。
バスの中で揺られながら、思ったんだ。
今日は思う存分楽しもうって。
輝だって、きっとそれを望んでくれてるって。
「輝、行こうよっ!」
私が輝の手を引いた。
「ちょ、おま・・・・(笑)」
輝がくすっと笑ってついてくる。
本格的に秋が始まった、9月下旬の朝7時。
君と、最初で最後で最高の笑顔を、ともに。
***