「・・・・・・っ・・・・」
涙はもう乾いてきて・・・・、私は部活に出直そうと思って、鞄とリュックを持ち上げた。
その前にトイレに行こうと、渡り廊下前を通ったとき。
「・・・・・・・・・・・・・・・は、速水?」
その低めの声には、なんだかあたたかい感じを覚えていて。
・・・・・・・なんだか、安心するなって思った声で。
・・・・・・・・・・大好きな、ひとの声で――――――・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「な・・・・にお前、泣いて・・・んの?」
「・・・・・・な、泣いて・・・・ないしっ・・・!」
必死にごしごしと涙をぬぐって、鼻をすすったら、ずびっ。
・・・・完全に、涙声に泣き顔。
「・・・・・な、何あったんだよ・・・・」
「・・・・・ううん、何でもないよ」
「いや、何でもねーだろ!」
腕を掴まれて、がっと引っ張られた。
抗っても、抗えなかった。
「・・・・・・・・・・や、・・・・・・そ・・・の」
「喧嘩?」
「・・・・・ん・・・・・喧嘩・・・では・・・ないと思うけど」
「・・・・・・じゃあなんだよ」
「・・・・・・・・さ、さあ??!」
「・・・・・・・・・・・いや、俺のほうが分かんないんだけど」
「・・・・・い、やだからっ・・・な、何でもないですっ!」
私はなんか嬉しくて、ふにゃっと下手に笑った。
すると、輝も笑って、
「・・・ま、お前なんか心配するガラでもねーか」
といった。
いつもならかちんとくるこの言葉も、あんな声聴かされたあとなら、全然嫌じゃなくて。
「ん、へーき!」
と、今度は上手に笑いながら言えた。
***
「あ、綾・・・」
「・・・・・・・・・ありがと、二人とも」
「「・・・え?」」
「応援してくんなくていいよ」
「・・・・は?!」
「・・・・ん、私が大好きなら、それでいいんだって思えたから」
・・・・これ以上、追及されたくないな。
私は、鞄やらを乱暴に投げ捨てて、体育館に向かって走った。
「・・・・・・・・・え、もう終わり?」
「そーですよ?だってもう5時半」
・・・・・・・・・・な、なる・・・・・ほど。
だから、輝が・・・・部長の輝が、あそこにいたのか。
・・・・・なるほど、・・・うん。
「・・そ、っかぁ!ごめんなさい、練習してなくて・・・・」
「いいよ、綾ちゃんいっつもまじめにやってるし!今日は大目に見るよ」
「あ、ありがとうございます・・!」
・・・先輩が優しくてよかった・・・。
皆が、バチやら練習台やらを、ミュート箱に投げ入れていく。
少々どころじゃなく乱暴な片づけ方だが、私たち3年や2年がやっていてはどうしようもない。
「・・・・・・・・・・・・さ、てと」
「部長さんに報告してきます」
「ん、ごくろうさま」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は・・・・あ、・・・・なんか・・・疲れたなあ・・・」
「綾ちゃん、帰るよー?」
「あ、大丈夫ですっ・・・!ちょっと疲れちゃって・・・」
「ははは(笑)じゃあ、気をつけて帰ってね?あとで部長来ると思うけど」
「はい・・・!すみません・・・」
ぺたん、と座り込んでしまった。
「・・・・うっわああああ!?」
「・・・・・・・・ひゃあ!?だだ誰!?」
「・・・・・・・・・・・・え、お前・・・・・・・・って速水かよ」
「・・・・ん?・・・あっ、輝かあ!」
「お前がそんな背ちっちゃいとはなー」
「・・・・ちっちゃくないし!」
悔しくていきなり立ったら、めまいが襲ってきた。
「・・・・・・・は、っと・・・・お・・・」
あれ、予想以上に・・・ひどいな、これ・・・
・・・・・・・・・・・・・・・やばいかも・・・・・
そう思ったときには、もう遅過ぎたようで。
「・・・・・・」
「速水?」
「・・・・あ、大丈夫大丈夫・・・・・・・・」
座れば、なんとかなるから。
・・・・・・・・でも、よくなんない・・・
立つにも、立てない・・・
「・・・・っ、・・・・もー・・・」
「速水?!」
「・・・・・・・・・・・・・・・っ・・・」
次の瞬間、私はもう、輝の腕の中にいたようだ。
***
・・・・・・・・・・・・・・?
・・・・・ここ、どこ?
・・・・・保健室じゃない・・・・な。うん。
やけに冷たい布が腕に当たってる。
「・・・・・・・あ、綾起きた!?」
「今日ねー、保健の先生いなかったからさっ、ごめんね、ソファで!」
・・・・・・、あ、練習部屋のソファか・・・!
「・・・・・・・・・・私、どーやってここに?」
「・・・・・・ん、輝が切羽詰まってここにきてね」
「なんか、綾が倒れたとか気絶したとかなんか言ってて」
「で、私と亜衣と輝で・・・おもに輝だけど、運んできたってわけさ!」
「・・・・・ほ、かのみんなは・・・?」
「もう6時だし。帰ったよ?」
「え?!ふたりは・・・!?」
「ちょっとねー、隠れたの!ま、そこは追及しないで♪」
「こ、輝は・・・?!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん、そこだよ」
「え!?」
「・・・・・・・・・・」
無反応?
「・・・・・・こ、輝?」
「・・・・・・・・・寝ちゃったんじゃない?安心してさ!」
「・・・・・・・輝・・・・!」
「ま、私らはもう帰んなきゃだし!じゃねー!」
「え、あ!?ちょ、亜衣!!寿々・・・!!?」
「・・・・・・ん」
「・・・・・あ、輝・・・!」
「・・・・え、・・・・あ、速水?!」
「な、帰ってよかったのに!!」
「俺だって帰りたかったけどな、あいつらが、もし運ぶことになったらって言って――――――
・・・あいつらは?」
「・・・・帰った・・・?」
「は!?」
「・・・・・・・ん、帰ったよ」
「・・・・マジかよ・・・!!一発殴ってやろうと思ったのに・・・」
「・・・・そ、それより、輝、・・・・ありがとうございますっ・・・。」
「・・・・・は?何いきなり」
「いや、なんか・・・輝がみんな呼んで、運んでくれたって・・・重かったでしょ」
「いや別に。そこまでやわじゃねーし・・・てかもう6時過ぎてんぞ?帰ろうぜ」
「・・・あ、うん」
「・・・・大丈夫なのかよ」
「・・・・ん、まあへいきかな」
「まあって・・・・なんか頼りねーな」
「そりゃあ男子ほどの頼りがいはありませんよ」
「・・・・あ!鍵!!ごめんね輝、待たせておいて悪いんだけど、さき帰ってもらっていい!?返さなきゃ・・・!!」
「・・・・あ、おう。じゃあ、気をつけろよ・・・?どっかでぶっ倒れてもしらねーぞ?」
「・・・あ、あぁ大丈夫!・・・本当にありがとう!」
「だからいいっつーの!!」
輝は、くるりと私に背を向けて帰って行った。
・・・・・・・
何だろう、・・・・・
好きだって自覚したとたん、もうどうすればいいか分かんないよ。
・・・・・
・・・・好き、
・・・・か・・・・。
***
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