どこかで よぶ声が しました

でも 見まわしても だれもいません

すると また よぶ声が しました

こんどは ずっと すぐ近く です

でも やっぱり だれもいません

 

木のうえに ひろがる 青い空

風がはこんでくる 日の光

 

「 ここだよ 」その声は いいました

小さな声なのに とても 澄んだ声でした

 

でも 声のほか すがたは見えません

「 ここだよ 」 その声は いいました

どもにも すがたが 見えないのに

氣もちのいい とても はっきりした声でした

 

「 いっしょに ゆこう 」

すがたの見えない 声が いいました

「 いっしょに さがしにゆこう 」

「 きみの だいじなものを さがしにゆこう 」

すがたの見えない 声は いいました

「 きみの たいせつなものを さがしにゆこう 」

 

「 ほら あの 木のかがやき 」と 

その声は いいました

声のむこうを きらきら光る

大きな川が ゆっくりと ながれてゆきます

「 だいじなものは あの 木のかがやき 」

 

「 ほら あの 花々のいろ 」

と その声は いいました

たくさんの花々が 咲きみだれています

そっと季節が ほほえんだみたいに

「 たいせつなものは あの たくさんの花々のいろ 」

 

「 ほら あの わらいごえ 」

その声は いいました

公園の 木だちのあいだから

子どもたちの はじけるようなわらいごえが きこえてきます

「 あの 明るい わらいごえを わすれてはいけない 」

 

「 ほら この におい 」 

その声は いいました

とても おいしそうな においが ひろがってきます

どこかで だれかが クッキーを やいています

いい におい なつかしい あまい におい

「 クッキーの すてきな においを わすれてはいけない 」

 

「 ほら この本 」 と その声は いいました

その本は 子どものきみが とてもすきだった本

なんべんも なんべんも くりかえして 読んでもらった本

「 その本のなかには きみの だいじなものが ある

  ぜったいに なくしてはいけない きみの思い出が  」

 

「 ほら あの窓 」 と その声は いいました

その窓から 夜 きみは 空を見あげて

星々のかずを かぞえます

希望のかずを かぞえるように

「 あの窓からは きみの たいせつなものが 見える

  せったいに なくしてはいけない きみの夢が 」

 

― きみにとって だいじなものは 何 ?

「 すきなひとの 手を にぎると わかる 」

その声は いいました

「 ほら こんなに あたたかい

  だいじなものは その あたたかさ 」

 

― きみにとって たいせつなものは 何 ?

「 すきなひとの 目を 見れば わかる 」

その声は いいました

「 ほら そのひとの 目のなかに きみがいる 」

 

「 森へ ゆこう 」

その声は いいました

「 いちばん だいじなものが 森のなかに ある

  きみの いちばん たいせつなものが そこに ある 」

 

しずかな 森のなか

森の しずけさを つくっている

天までとどく たくさんの おおきな木

おおきな木は じぶんよりおおきな影を つくります

 

しずかな 森のなか

森の 大きな木のいろには 天使がいます

風の音 ではありません

耳をすますと きこえるのは 天使の はねおと です

 

森が息しているのは ゆたかな沈黙 です

 

森が生きているのは ゆたかな時間 です

 

朝がきて 正午がきて 午後がきて

夕べがきて そして 夜がきて

ものみな 眠り ふたたび 朝がきて

 

夏がきて 秋がきて 冬がきて 春がきて

そして 百年が すぎて

きょうも しずかな 森のなか

 

どこかで よぶ声が します

 

― だいじなものは 何ですか ?

― たいせつなものは 何ですか ?

 

 

 

 

長田弘さんの 紡ぐ言葉が好きです

それが 織りなす世界が好きです

ゆっくり 音魂にのせて 発していくと

あたちは 凪いでいくのです

 

そのとき はっとします

あぁ 急いとったんやってことに氣づかせてもらうのです

 

あえて 挿絵無しで 言の葉のみ

紡ぎ 織りなされた世界を 夢想するのが 好きです

 

 

 

 

 

あーちゃん ありがとう (❁ᴗ͈ˬᴗ͈)))) ぺこりん