自分の欲望に激しく引きずられて、自分にとって有益なことが何一つ見えないし実行できなくなっている人は、本当のところ奴隷のきわみであり、一心に理性の導きのみに基づいて生きる人だけが自由なのである。
指図に従って行動すれば、つまり服従すれば、たしかにある意味で自由は失われる。しかしだからといって、それで直ちにひとが奴隷になるわけではない。奴隷かどうかは行動の理由で決まるのだ。もし行動の最終目的が行動する人自身の利益ではなく、命令する人の利益に置かれていたら、その場合行動する人は奴隷であり、自分自身に無益な人である。しかし共同体や国家の場合、そこでは命令する人の福祉ではなく、民衆全体の福祉こそが至高の法となっている。したがって、何ごとについても至高の権力に従う人は、自分自身にとって無益な奴隷ではなく、むしろ臣民と呼ばれるべきなのである。
だとすると、理性に基づいてさまざまな法を制定している国こそ、自由のきわみにある国と言える。そこでは望むなら誰もが自由でいられる、つまり一心に理性の導きに基づいて生きられるからだ。 下164ff
もし社会の至高の権力が第二の自然であり、人間理性はその自然の法を認識し自身の欲望と力とを導いて行為することによって創造されず創造しない目的としての神的秩序を表現すると言えるならば、人間の理性（的行為）は第一の自然即ち神の力の媒体として機能するということが言えるのではないだろうか。人間理性は自然の法に正義と平等（公正）の理念を認識するが、それが欲望と力とを導くものとなるのはそれに従うことが欲望と力の衝迫に促される自己自身にとって有利なことだからである。その衝迫に促されている人間は無知であるが、まさに無知であるが故に他者との平等を社会に要求するだろう。つまり社会状態に於いて人間は無知であるが故にその結果として公正な社会を要求するだろう。こうして理性が認識するところと欲望と力とが要求するとこととが一致する。それ故に理性の認識に従う人間は自由である。そしてこの理性的認識は政治社会に於いて働くものであるから人間は政治社会状態に於いて本来的に自由であると言える。だが、公正が政治社会状態に於いて成り立つものであるとすると、逆に不公正も政治社会状態に於いてのみ生じることであろう。力がすべてを決する自然状態に於いて不公正ということは問題となり得ない。公正が社会状態に於いて人間が理性的認識に字違うことによって実現するとすれば、不公正は社会状態に於いて人間が理性的認識に従っていないことによって生じるということになるだろう。言い換えれば不公正は社会状態に於いて人間が自身の欲望と力の衝迫にのみ従うことによって生じる。しかし、自身の欲望と衝迫にのみ促される人間は無知故に結果として公正を求めるのではないだろうか。したがって不公正を生じせしめる人間は欲望と力とにのみ従っているが無知ではない、つまりある種の理性的認識を働かせている。実際、人間は社会状態に於いて生きていくには自分自身にとって有利不利を見極め計算する理性を働かせている。この理性は自然の法を認識している理性ではないだろう。それは欲望と力とにのみ奉仕する理性であると同時に欲望と政治社会状態に於いて欲望と力とを解放する理性であろう。理性は自然の法を認識するが、また欲望と力とを解放し自らが解放したものの奴隷としてそれに奉仕する道具でもある。つまり人間的理性は神の力の媒体として神的秩序を表現するものであると同時に政治社会に野蛮としての自然状態を実現するものでもある。
National Youth Orchestra of Great Britain trumpet player Tian Hsu, 16, takes part in a socially distanced orchestra performance of Beethoven's “Ode to Joy” from a window of her home in southwest London, during the lockdown to try and stop the spread of coronavirus, Friday, April 17, 2020. The members of the National Youth Orchestra, took part in the coordinated Ode to Joy-a-thon on Friday, each giving their own 40-second performance, with photos or videos taken by their families to share on social media. They dedicated the performance to the National Health Service staff, key workers, and people who feel isolated in their homes during the lockdown. (Photo by Matt Dunham/AP Photo)