賃貸住宅での根強い不満のひとつが収納不足。とはいえ、築年数の古い物件では押入れという、新しい物件に多いクロゼットに比べれば収納面積としては大きな空間が存在する。天袋があるタイプであれば、さらに収納できる面積は広がる。

だが、元々が布団や座布団を入れるために作られた押入れは奥行きが深すぎる。平均的なものでみると800mmから900mmというところだろうか。1間(1650~1800mmが多く、平均で1700mm)の押入れがあれば6畳一間分くらいの品は入ると言うが、問題は入れたら出せない、どこに入っているかが分からなくなってしまうことだ。

 

その問題を解決するのがご存じ、住まいのカリスマ・近藤典子氏が生み出した可動式、パネル型の収納システム・ヴィータス パネル(リクシル)。

高さが変えられる可動式の棚であれば、これまでもあった。棚板の位置を変えることで高さがあるもの、ないものを入れ分けられるわけだが、それでは押入れの奥行問題には太刀打ちできない。

そこで近藤氏が考案したのは高さは350mmとその倍数に固定、その代わりに奥行きを可動式にするというもの。高さについては長年、家庭内にあるものを衣類や家電、家具類はもちろん、生活雑貨に至るまでを計測、ほぼすべてのものが350mmとのその倍数の高さに収まることが分かっていたのだ。

たとえば賃貸住宅でよく使われている収納ボックスは深いタイプで300mm、キャスターを付けても350mmあれば十分。350mm×2の高さがあればスーツケースやデスク、ハンガーにかけたスラックス類が入り、350mm×3ならばハンガーにかけたワイシャツやジャケット、スティックタイプの掃除機が、×4になれば長いコート類にも対応できるという具合。350mm間隔で高さが選べれば、モノは問わないわけだ。

また、棚板の高さを変えるためには棚板を外して棚受けを移動、棚板を設置し直すという作業が必要だったが、ヴィータス パネルではレールを使用。容易に移動ができるようになっている。

棚板の奥行は200mm、300mm、400mmの3タイプがあり、さらに画期的なのはL字型の棚板。これがあれば収納内部に踏み込め、一目で収納してあるすべての品が見えるようになるのである。押入れがウォークインクロゼットのように使えるわけだ。

レールには各種のフック、パイプもセットできるので、そこに吊るして収納することもでき、空間はフルに使える。L字型にした分、棚としては使えなくなる空間もできるが、そこには高さのある掃除機やキャスターのついたワゴンを入れておけば無駄は生まれない。

 

これを導入したのが以前、サポート付きDIY可物件として紹介した練馬区春日町の本多マンションだ。40年近い築年でもあり、DIY可物件として話題になる以前は総戸数18戸のうち、半数が空室という状態に。しかも、入居者の高齢化、独居化も進展していた。オーナーとしては将来に不安を感じていたはずだ。

だが、それをサポート付きDIY可物件とすることで話題になり、続々と20代中心の入居希望者が集まり始めており、もうひとつ、ダメ押しの一手としてヴィータス パネルが導入されたのである。

 

 

「これまで賃貸住宅でよく行われてきた押入れ改修は中棚を外し、枕棚の下にボールを設置してクローゼットにするというもの。これでコートなどは入るようになりますが、それ以外のモノは入れにくい。特に普段は閉まっておきたい掃除機やアイロンなどの家電、バッグやアクセサリー、ネクタイなどはどうしたら良いか。築古物件の空間をできるだけ無駄なく使うためにはヴィータス パネルだろうと判断、導入しました」(ハウスメイトマネジメント・伊部尚子氏)。

 

 

導入したのは和室6畳2室にDK6畳の2DKを12畳のリビングに洋室6畳の1LDKにした部屋。収納はリビング、洋室の間に背中合わせにそれぞれ0.75間という変則な押入れ。そこにヴィータスを導入、リビングは掃除機、アイロンなどの家電類や書類その他の小物が入る万能な収納に、洋室は衣類、小物類までが収まるクローゼットに改造している。見るからに使いやすそうな空間になっており、特に女性であればこれを選ぶはず。

 

 

実際、本多マンションではDIY、収納の二つの手で現在は満室に。しかも、入居者の中心は20代に。建物全体として若返りが図られており、しかも、DIYを通じて入居者間にコミュニケーションが生まれている。気に入って長く住んでもらえる兆候である。オーナーとしてはこの変貌に胸を撫でおろしていることだろう。

 

 

気になるのは改造にかかる経費だ。これには2種類ある。ひとつはヴィータス パネルそのもので、もうひとつはこれを施工する費用。

どちらの場合についても金額は一律ではない。生産から実際の現場までの間に様々な事業者が入っているとどこから仕入れるか、これまでの仕入れの実績がどうだったかで同じ商品でも定価の何%で仕入れられるかが変わることがある。

棚板やパイプ、フックなどは組み合わせ自由だが、近藤典子氏のお勧めの組み合わせで1間をクローゼットにすると7~9万円程度(税別、以下同)、半間を押入れにすると4~5万円程度で仕入れできるそうだが、実際、いくらになるかは付き合いのある工務店などに聞いてみていただきたい。

施工も同様。押入れ内部を解体、床、両側の壁にベニヤ板を貼り、パネルを施工などが具体的な内容により、慣れているかどうかで作業日程も変わる。

やはり、ある程度の付き合いのある場合で1間10万円前後、半間5万円前後というところだろうか。工賃には補強のベニヤ板、ビスやボンドなどの雑材料、解体費、残材処分費、諸経費などを含んでいる。また、1室だけでなく、数室まとめての場合にも当然金額は変わってこよう。その辺りは付き合い次第、やり方次第である。

ひとつ、このパネルでお得なのは一度設置した後で外して他の部屋に移動できるということ。また、フックやポールも追加で購入できる。空室に不安を抱える築古物件なら画期的な仕組みとして、売り物にできるのではなかろうか。

 

2020.04.20 健美家 様より引用