2月の春節の時期、中国から人が多く入国することを、ただ漠然と「怖いなあ、止めて欲しいなあ」と思っていた。3月になって日本でもコロナウィルスの感染者が出始めて、まだ気持ち的には「他人事」だった。3月後半からいよいよ緊迫した空気になり、4月の緊急事態宣言が出て、裁判所及び執行官の動きも急速に変化した。

 

訴訟の現場では

今までは通常通り訴訟は動いていたが、4月7日以降、裁判所は今ある4月の裁判の期日を延期とした。うちの事務所でも、4月にはかなりの訴訟期日が入っていたが、そのすべてが延期。しかも次の期日の時期は未定。

そもそも3月は裁判所の職員の異動の時期でもあり、2月、3月に申し立てた訴訟の期日は、通常より遅めに取られるのが一般的だ。それに加えて期日未定で延期されてしまうと、そこで数ヶ月のロスとなる。

私がいつも声高に訴えている「100万円の貸金は何か月経っても100万円だけれど、賃料滞納案件は1ヶ月ズレるとまた回収しにくい滞納賃料が加算されてしまう」が、まさに当然のように起こってしまっている。

仮に延期した期日が入るようになったとしても、まだコロナは完全に収束はしていないはずなので、1期日に何件も入っていた審理は、3密を避ける意味でも相当数減らされてしまう。おのずと裁判の期日は、かなり先になると思って間違いない。

さらにやっとの思いで裁判の日となったとしても、賃借人側がすでに退去しているようなケースを除いて、今までのように明け渡しの判決は簡単には言い渡されない。

国交省や各県の知事が「滞納者に対して寛容な対応を」と声を上げてしまったので、裁判官もさっくりと判決を出せないだろう。まして賃借人側が「コロナで……」と答弁書でも出そうものなら、まず続行期日が取られる(それも数ヶ月以上先)ことが想定される。

「滞納者に出て行って欲しければ、家主側が費用出すくらいできないの?」

以前に裁判官に言われた言葉である。その時は私の頭に「?」マークが100個くらい飛び交った。

相手は滞納していて、家主は自分の所有物を無料で使われて、その上なぜ費用を払わなければならない? 建物建替えの立ち退き交渉じゃあるまいし。その時は何とか明け渡しの判決を取得できたが、今回に至ってはまたこの言葉を耳にせざるを得ない。

執行の現場では

何とか明け渡しの判決が得られたとしても、そこから仮執行宣言(すぐに執行していいよ)はつかず、判決書が相手方に届いてそこから2週間、控訴されずに確定して、初めて強制執行を申し立てることができる。

ただすでに執行の現場も、コロナウィルス対応になっている。つまりすでに申し立てられたものに関しては手続きはするが、今現在住んでいる人の断行(荷物を運び出して強制的に明け渡す)はしない方向だ。断行してくれるケースは、転居先が確保されている、もしくは夜逃げ等で既に住んでいない場合。これら以外は、強制執行を申し立てても、今までのようにはいかないことを意味する。

今後も執行申し立ては受け付けるが、今までのような執行法に基づく

① 申し立てから2週間以内に催告(断行日を伝えに行く)
② 催告から1ヶ月以内に断行(完全に明け渡しをする)

このスケジュールではやらない、という特別扱いだ。今までなら申し立てから断行までが最長でも1ヶ月半程度だったものが、今後は数ヶ月かかることも想定される。

これから家賃保証会社も交渉力がないところは、かなり経営が苦しくなってくるはずだ。もともと力ではなく、きちんとした対応力でやってきた保証会社だけが生き残れるのではないだろうか。そうなると家主も「家賃保証会社がいるから損失はない」と安心していたら、ひどい目に合う。

まずは最悪を想定して、今のうちから賃借人の情報を得て、いざとなったときに何か月滞納までなら大丈夫なのか、一定期間が過ぎればまた払える見込みがあるのかないのか。自分で判断できる材料を少しでも多く得ておくことが、コロナ不況に打ち勝てる要因となる。

さらには確実に相談ができる法的ブレーンを得ておくことも、必須条件だ。無料で情報を得ようとするのではなく、きちんと費用払ってでも的確なアドバイスをくれる専門家との繋がりが、賃貸経営受難な時代を生き抜く道しるべになるはずだ。

 

2020.4.16 健美家 様より引用