NORIKUMAです。

 

 

さて、先日第一報をお伝えした下記の裁決の地裁判決が、TAINSに収録されたので、早速ご紹介する。

 

 

 

 

こういう事例特有なのだが、納税者敗訴の裁決と納税者勝訴の地裁判決とは、なぜか文章が雲泥の差。これはなぜなのだろうか。

文は人なり。

 

 

 

 

早速、地裁判決の事案の概要から。

パチンコ店を営む原告は、平成31年1月1日から令和元年12月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税に係る確定申告をする際、B社から受け取った2億円は、原告がC社との賃貸借契約を解除し、目的不動産から退去撤退することに伴い支払われた損失補償金であるとして、本件金銭を課税標準額に含めなかった。これに対し、処分行政庁は、本件金銭は、原告の賃借人としての地位をB社に譲渡したことへの対価であり、消費税法2条1項9号の「課税資産の譲渡等」の対価の額に該当するとして更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行った事案である。

 

 

 

 

 

まずは、登場人物をご紹介しよう。

原告は、C社から土地及び建物を借り受けてパチンコ店を営んでいた法人。

B社は、中古自動車販売業を営む法人。C社は、店舗の賃貸等を目的とする法人だ。

 

 

 

 

中古自動車販売業のB社。もしかして、あのB社か。・・・いや、ここは租税訴訟を紹介するブログだ。関係ないものは、深追いせず。キョロキョロ

 

 

 

 

時間は遡り、C社は、かねてより、地権者ら(各地権者の一部はC社の株主である。)から土地を借り受けていたところ、昭和62年7月7日、C社は、原告に対し本件土地及び土地上に新築する建物をパチンコ店として賃貸する旨の契約を原告との間で締結し、同年11月2日に建物を建築した。この原契約は平成14年7月29日及び平成24年7月30日に更新され、同日の更新では、賃貸借の期間を同日から起算して10年間、賃料を1か月275万円(税込288万7500円)とすることとされた。

 

 

 

 

ところが、原告は、B社が本件土地の利用を希望したことから、原契約を解除した上で、建物を撤去し本件土地から退去することとなった。そこで、原告及びB社は、平成31年4月19日付け「物件移転等に関する協定書」及び同日付け「覚書」(これらの文書を「本件協定書」という。)を作成し、記載内容について協定した。本件協定書には、原告が原契約の合意解除を行い、B社と各地権者及びC社との間で新たな賃貸借契約を締結すること、B社から原告に対し、原契約解約日の確定に伴い通常生じる損失に対する補償として、協定締結時に2000万円、不動産の引渡し時に1億8000万円を支払うこと等が記載されている。

 

 

 

 

うん、なんか、欲しいものがあると金にものをいわせてブイブイ言ってるところをみると、中古自動車販売業のB社って、やっぱり、あそこじゃないの。えー

 

 

 

平成31年4月19日、B社から、原告名義の預金口座に2000万円が振り込まれた。

原告、B社及びC社は、令和元年8月28日付け「契約上の地位承継に関する覚書」を作成し、その記載内容について合意した。この覚書には、原告、B社及びC社は、原契約に基づく原告の契約上の地位の一切を、同年9月1日をもって、原告がB社に承継することに合意すること、原契約をB社の営業開始日をもって合意解約すること、B社とC社は、同営業開始日を始期とする事業用定期借地権(30年)を設定することを約し、同年12月27日までに事業用定期借地権設定契約を締結すること等が記載されている。

そして、B社は、令和元年8月29日、原告名義の預金口座に1億8000万円を振り込んだ(合計2億円が本件金銭である。)。

 

 

 

 

合計2億もの金だ。消費税を誤るとこれは痛い。

 

 

 

協定書には

「第2条(補償金額について)

 B社は、原告に対し、前条の規定により、本件原契約解約日の確定に伴い通常生じる損失に対する補償として、2億円を次のとおり支払うものとする。

(ア) 本件協定締結時 2000万円

(イ) 本件不動産の引渡し時 1億8000万円」との記載がある。

 

 

 

つまり、「補償金」ということ。

 

 

 

 

また、原告の申告状況は、事案の概要のとおりだが、相手側の処理も気になるところだ。つまり、支払ったB社側はどういう処理をしたのか。

判決文では、次のように記載されている。

「原告とB社は、D社の立会いの下、平成31年4月19日付けで本件協定書を作成し、協定を締結した。なお、B社は、本件協定に先立ち、同社が原告に対し本件協定に基づき2億円を支払うことの可否について社内稟議を行っているところ、同社内稟議の申請データには、「標題」として「広島市物件立ち退き料」、購入品目(非課税)として「立ち退き料」、「非課税合計」として「200,000,000」と記載されている。」

 

 

 

相手側も、非課税との認識。

 

 

 

ただ、消費税は、本人の認識が正しいとはいえない。

現に、B社は、本件金銭を「補償金」として、消費税の課税仕入れに計上しなかったが、令和2年6月の税務調査の際には、調査担当者に対し、本件金銭が賃借人としての地位の移転の対価である旨説明したため、国税局から、同金銭を課税仕入れとして計上することについて承認を受け、消費税の仕入れ税額控除を受けていた。

 

 

 

 

え、調査で認めたの。えー

 

 

 

そうか、それで時系列的に納得する。原告が更正処分を受けたのは、令和3年6月29日付けだ。B社で認めたので、課税庁側は、「賃借人としての地位の移転の対価」と思い込み、原告に更正処分をしたのかもしれない。

 

 

 

 

 

さて、広島地裁さんが、どのように解釈して、処分をすべて取り消したのか、早速みてみよう(R6.1.10 TAINS:Z888-2557)。

 

 

① 法令解釈

「消費税法2条1項8号は、消費税が課されることになる「資産の譲渡等」とは、「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供」をいうとし、通達においては、「資産の譲渡」にいう「資産」とは、有形資産から無形資産までおよそ取引の対象となる全ての資産を含むとされ〔5-1-3(資産の意義)〕、「資産の譲渡」とは、資産の同一性を保持しつつ、それを他人に移転することをいうとされ〔5-2-1(資産の譲渡の意義)〕、「建物等の賃借人が賃貸借契約の解除に伴い賃貸人から授受する立退料は、賃貸借の権利が消滅することに対する補償、営業上の損失又は移転等に要する実質補償などに伴い収受されるものであり、資産の譲渡等の対価に該当しない。」とされる一方、「建物等の賃借人たる地位を賃貸人以外の第三者に譲渡し、その対価を立退料等として収受したとしても、これらは建物等の賃借権の譲渡に係る対価として受領されるものであり、資産の譲渡等の対価に該当することになる」〔5-2-7(建物賃貸借契約の解除等に伴う立退料の取扱い)〕とされている。」

 

 

 

② 本件への当てはめ

「原告は、本件不動産からの撤退に当たり、中古自動車販売業者のB社と協議をせざるを得なくなったが、その結果、パチンコ店の営業に係る権利等の喪失、パチンコ店舗用各種施設の撤去の費用等の損失などが生じることになったことから、その補償をB社に求めたこと、B社がこれに応じることになったため、原告とB社は、「原告は、原契約を解除する。B社は、C社との間で新たな賃貸借契約を締結するとともに、原告に対して原契約を解除して店舗の撤退をすることに伴い生じる損失補償金として2億円を支払う。」ことを内容とする協定を締結したこと、B社は協定に基づいて平成31年4月19日に2000万円を、令和元年8月29日には「本件協定に基づく損失補償金の支払いを求める」旨記載された請求書に応じる形で残金1億8000万円を支払ったことが認められる。したがって、本件金銭は、原契約上の解約により同契約上の地位が消滅することに対する対価であるといえる。」

 

 

 

 

「確かに、本件覚書合意では、原契約上の地位を原告からB社に移転させる旨が合意されている。しかし、協定に基づき原契約を同契約の期間満了解約日よりも早く解約することについて、C社が賃料を得られなくなることについての不安を訴え、各地権者の一部が原告に対し解約違約金を請求すべきである旨の意見を出したこと、にもかかわらず、結局、原告からC社に賃料相当損害金の趣旨の金員が支払われることなく、C社が原告に対し解約違約金を請求することのないまま、原告からB社への賃借人の地位の承継についてC社及び各地権者が同意したこと、覚書合意では、B社の営業開始日をもって本件不動産を対象とする原契約を合意解約し、同日を始期とする土地のみを対象とする事業用定期借地権を設定することとなっていたこと、元々、B社は、本件土地のみを希望しており、建物は不要であったこと、覚書合意後に建物は解体等され、B社所有の建物が新店舗として建築されたことが認められるが、これらの事実に鑑みると、覚書合意は、もっぱら、原告が不動産から撤退した(賃料を支払う理由がなくなった)後もB社が原契約の賃料を継続して支払うという法形式を採ることで、C社が賃料を得られない期間をなくすこと、及び、原告に対し原契約の早期解約に伴う解約違約金を請求しないことについて各地権者の納得を得ることを目的として、締結されたものであるといえ、B社が原契約上の地位に基づいて建物の使用収益をすることはおよそ予定されていなかったといえる。」

 

 

 

 

「本件覚書には、新たに賃借人となるB社が賃貸人のC社に支払う賃料に関する記載はあるが、賃借人の地位承継に伴いB社が原告に支払う金員に関する記載あるいは協定に基づき支払われる2億円を覚書合意に基づき支払われる2億円に振り替える等の記載はない。さらに、協定に基づき2億円が支払われたことを裏付ける証拠はあるのに対し、覚書合意に基づきB社が原告に何らかの金員を支払ったことを裏付ける証拠はない。そうすると、本件金銭を覚書合意に基づく原契約上の地位の譲渡に対する対価ということはできない。」

 

 

 

③ 結論

「以上より、本件金銭は、原契約上の地位という資産が消滅することに対する対価として支払われたものといえ、「資産の譲渡等」の対価とはいえない。」

 

 

 

 

この事案、驚いたことにこの地裁で確定だそうだ。つまり、国側は控訴しなかったこと。

 

 

 

振り返ってみてみると、裁決(R4.8.23)では、協定書の内容から

「請求人及びBは、協定書によって、請求人が行うべき各行為として、①賃貸人Aとの間で原契約の合意解除をすること、②AからBとの間の新たな賃貸借契約に係る同意を得ること及び③Aへの土地建物の引渡しを行うことを定めたものと認めるのが相当であり、これらは消費税法第2条第1項第8号に規定する役務の提供に該当する。」とした。

 

 

 

つまり、役務の提供だ。

 

 

 

だが、同じ協定書をみて、広島地裁は、「資産の譲渡等」の対価とはいえないとした。

 

 

 

いや、不思議。

 

 

 

それに裁決では、役務の提供というか「課税資産の譲渡等の対価の額に該当する」感がすごい圧のように押し寄せてきていたが、地裁では、「いや、だって協定書みれば、「資産の譲渡等」の対価じゃないでしょ。ちゃんと協定書読んでよ。」とあっさりしている。

 

 

 

 

いや、広島だから「「資産の譲渡等」の対価じゃないじゃろ。」か。

 

 

 

この事案を振り返ると、やはり消費税の解釈の難しさがあると思う。

裁決では、役務の提供とした。一方で、地裁は協定書より、消費税基本通達5-2-7に立ち返り、補償金で、内容からも注書きに該当しないと判断した。

 

5-2-7 建物等の賃借人が賃貸借の目的とされている建物等の契約の解除に伴い賃貸人から収受する立退料(不動産業者等の仲介を行う者を経由して収受する場合を含む。)は、賃貸借の権利が消滅することに対する補償、営業上の損失又は移転等に要する実費補償などに伴い授受されるものであり、資産の譲渡等の対価に該当しない。 

(注) 建物等の賃借人たる地位を賃貸人以外の第三者に譲渡し、その対価を立退料等として収受したとしても、これらは建物等の賃借権の譲渡に係る対価として受領されるものであり、資産の譲渡等の対価に該当することになるのであるから留意する。」

 

 

 

さて、この事案、もともと皆さん正しい消費税の申告をしていたということになる。

 

 

 

結果的に、B社が税務調査時に「本件金銭が賃借人としての地位の移転の対価である旨説明し」なければ、波風立たず、皆穏やかに過ごしていたはずだ。

 

 

 

B社が欲かくからさ・・・、こういうことになるんじゃん。

 

 

 

B社には、更正処分できるか。いや、一度認めていて仕入税額控除認めてるしね。それは無理か。

 

 

 

最後に、この裁判では、B社の管理本部長の乙さんが「本件覚書作成時に、B社が原告に対し本件原契約上の地位の移転に対する対価として2億円を支払う旨を合意した」と供述した旨書かれている。じゃあ、なぜあんた仕入税額控除してなかったのさ・・・と広島地裁もツッコミを入れる。

 

 

 

そして、最後に広島地裁はB社に対し、こう述べている。

「当初本件金銭を「課税仕入れ」として計上していなかったことについて、経理処理を誤ったためである旨供述しているが、B社のような企業が2億円もの大金の経理処理を誤るとは考えられない上、当初「課税仕入れ」として処理していなかった本件金銭を、その後の税務調査時になって「課税仕入れ」としたことについての合理的な説明も客観的資料もない。また、原契約上の地位の承継に対し2億円もの対価を発生させるのであれば、覚書にその旨を明記して合意することが一般的であり、明記することについて特段障害はなかったにもかかわらず、覚書にその旨が明記されていないことは不自然である。そのため、乙の供述を信用することはできない。」

 

 

 

 

NORIKUMAクマ