NORIKUMAです。

 

 

 

さて、本日は消費税。消費税は相変わらず難しい。

 

 

 

事案の概要から。

本件は、審査請求人が、賃借した土地建物の引渡しに当たって賃貸人以外の第三者から受領した金員は、移転に伴う損失補償金であるとして課税標準額に含めずに消費税等の申告をしたところ、原処分庁が、当該金員は土地建物の賃借人たる地位の譲渡の対価であり課税資産の譲渡等の対価の額に該当するなどとして消費税等の更正処分等をしたのに対し、請求人が、当該金員は課税資産の譲渡等の対価の額に該当しないなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

 

 

 

請求人は、パチンコ店を経営している。そしてAから土地建物を15年間賃貸借する旨の賃貸借契約を締結していた。(その後更に10年延長する契約も締結している)

 

 

 

一方、平成31年4月19日、「物件移転等に関する協定書」と題する書面を請求人とBとの間で作成した。

その内容は、

①請求人及びBは、本件土地建物に関して、請求人が原契約の合意解除を行い、BがAとの間で新たな賃貸借契約を締結することについて、合意した。

②補償金額

Bは、請求人に対し、原契約の合意解除の日の確定に伴い通常生じる損失に対する補償として、下記金員を支払う。

本件協定書に基づく契約締結時 20,000,000円

請求人からBへの土地建物の引渡し時 180,000,000円

③その他条件

請求人は、原契約解除日までに、Aから、AとBとの間で土地建物の賃貸借の期間を30年とする新たな賃貸借契約を締結することの同意を得る。

④解除

請求人による原契約の合意解除が不可能な場合又は請求人がAから上記の同意を得られない場合、請求人又はBは、本件協定書による合意を解除できる。

 

 

結果的に、請求人、A及びBは、令和元年9月1日をもって、本件原契約について、Bが請求人の契約上の地位一切を承継すること、賃貸借の目的をパチンコ店から変更すること及び賃料を1か月2,750,000円とすることに合意し、3者は「契約上の地位承継に関する覚書」と題する書面を作成した。無事、請求人はAとの契約を合意解除でき、その後、BはAとの間で、賃貸借の期間を30年間とする事業用定期借地権を設定する事業用定期借地権の設定契約を締結した。

 

 

 

 

請求人は、Bから平成31年4月19日、20,000,000円、令和元年8月29日には180,000,000円を受領している。

 

 

 

で、今回この2億円は、課税資産の譲渡等の対価の額に該当するか否かが争われている。

 

 

 

請求人は、結果的に建物を解体させて立ち退いているので、立退料として消費税の課税の対象でないという主張だ。一方、課税庁側は、「消費税法基本通達5-2-7の注書に定める建物等の賃借人たる地位を賃貸人以外の第三者に譲渡し、その対価として受領したものといえるから、消費税法第2条第1項第8号に規定する資産の譲渡等の対価の額に該当する。」と主張している。

 

 

 

協定書には、「原契約の合意解除の日の確定に伴い通常生じる損失に対する補償として、下記金員を支払う。」という文言となっていた。そう考えると、形式的には、立退料のような気もしないでもないが、一方で協定書の内容からすると、請求人にAとの間で合意解除を成立させ、Bとの契約にきちんと移行させるように話をまとめさせるその手数料のような気もする。

 

 

裁決文には、裏事情についても記載されている。

それは、

「請求人は、平成31年2月頃、パチンコ業界の景気が下降気味であったことなどの理由から、本件土地建物で営業していたパチンコ店の撤退を決めた。

 そのため、請求人は、不動産仲介業者に対して、その撤退後に本件土地建物の使用を希望する業者を探すよう依頼した。その際、請求人は、本件土地建物からの撤退に当たって請求人が当該業者から300,000,000円程度の金員を受け取ることを条件とした。

その後、請求人は、不動産業者の仲介を受けて、交渉を行い、請求人の本件土地建物からの撤退に当たり、Bが請求人に、200,000,000円を支払うことで合意し、請求人及びBは、平成31年4月19日、本件協定書を作成した。」

 

 

 

 

こういう裏事情を読むと、これは、課税庁側のいうように「賃借人たる地位を賃貸人以外の第三者に譲渡した対価」なのか。

 

 

 

 

審判所は、下記判断をして、納税者の請求を棄却している(R4.8.23 TAINS:F0-5-381)。

 

① 判断に当たり

「本件各金員の法的性格を検討するに当たっては、課税の対象である経済活動ないし経済現象は、第一次的には私法によって規律されているところ、課税は、租税法律主義の目的である法的安定性を確保するという観点から、原則として私法上の法律関係に即して行われるべきである。

 そして、本件各金員が消費税法上の課税資産の譲渡等の対価の額に該当するか否かについては、請求人及びBの両者を規律している本件協定書や覚書の解釈を通じて定まるというべきであるが、その際には、本件協定書や覚書作成の前提とされている了解事項(共通認識)や作成に至る経緯等の事情をも総合的に考慮して判断する必要があるというべきである。」

 

 

 

 

② 本件への当てはめ

「請求人及びBは、本件協定書によって、請求人が行うべき各行為として、①Aとの間で原契約の合意解除をすること、②AからBとの間の新たな賃貸借契約に係る同意を得ること及び③Bへの本件土地建物の引渡しを行うことを定めたものと認めるのが相当であり、これらは消費税法第2条第1項第8号に規定する役務の提供に該当する。

また、本件協定書の後に作成された、覚書には、原契約をBの営業開始日をもって合意解除すること及び令和元年12月27日までに事業用定期借地権の設定契約書を作成することが記載されていたことからすると、本件覚書の作成によって、Bが本件土地で営業を行うことが可能となっている状態といえるのであるから、上記の請求人が行うべき各行為のうち、①Aとの間で原契約の合意解除をすること及び②AからBとの間の新たな賃貸借契約に係る同意を得ることは、本件覚書の作成により、完了したものと認めるのが相当である。

 そして、請求人は、令和元年8月末までに、Bに対して、本件土地建物を引き渡したのであるから、上記の請求人が行うべき各行為のうち、③Bへの本件土地建物の引渡しを行うことは、その頃に完了したものと認めるのが相当である。」

 

 

 

 

「したがって、上記の①から③までの請求人が行うべき各行為は、遅くとも令和元年8月末頃までに完了し、本件各金員は、Bが、本件協定書に基づき、その請求人が行うべき各行為という役務の提供に対する対価として支払ったものであるから、本件課税期間の消費税法第28条第1項に規定する課税資産の譲渡等の対価の額に該当する。」

 

 

 

 

で、課税庁側のいうとおり「建物等の賃借人たる地位を賃貸人以外の第三者に譲渡した対価」なのでしょうか。

 

 

 

審判所の答えはNO。

「請求人及びBとの間で、原契約による請求人の賃借人としての契約上の地位を移転することに対する代金額を約したことは明らかではなく、むしろ本件覚書は、上記のような経緯によって、Aが受け取る本件土地建物の賃貸収入に空白期間が生じないようにするために作成されたものであるから、原契約による請求人の賃借人としての契約上の地位を承継させるために作成されたものとは認められない。したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。」

 

 

 

 

課税庁も誤る判断。難しい。

協定書の形式上は立退料かと思うが、中身は役務の提供だ。「法的性格」と一言でいうが、実務ではその判断は一筋縄ではいかない。

 

 

 

特に、この事案で請求人の顧問税理士なら、中身から役務の提供で課税資産の譲渡等ではないですか・・・というと、社長から「何言ってるんだ、立退料だろう」と言われかねない。

いや、事前に相談されて、「立退料」ならば消費税は対象外と言ったがために、協定書にあのような文言が入ったのか。

 

 

 

妄想は続く。キョロキョロ

 

 

 

 

NORIKUMAクマ