NORIKUMAです。

 

 

 

確定申告時期だが、朗報がある。

 

 

 

上記の裁決を昨年末ご紹介したが、これ、今年の1月に広島地裁で納税者が勝ったそうだ。この事案で納税者が勝つということは、よほど、消費税法に精通し、いや、精通しつくした弁護士さんがついたんだろうね。すごい。えー

税理士が読んでも核心のもてない事例だったが・・・・。判決文がTAINSで収録されたら、後日ご紹介します。

 

 

 

さて、本日は、これまた今年の1月に納税者勝訴の一報が入ると、税理士業界騒然となった6項事案だ。

 

 

 

早速、事案の概要から。

本件は、被相続人Tの相続人である原告らが、本件被相続人の相続により取得した財産の価額を財産評価基本通達の定める方法により評価して本件相続に係る相続税の申告をしたところ、S税務署長から、本件相続に係る財産のうち株式の価額について評価通達の定めにより評価することが著しく不適当と認められるなどとして、本件相続税の各更正処分及びこれに伴う過少申告加算税の各賦課決定処分を受けたことから、これらを不服として、本件各更正処分等の取消しを求める事案である。

 

 

 

株式とは、相続開始日に被相続人が代表取締役を務めていた会社の株式。「取引相場のない株式」だ。

 

 

 

まず、判決文読む前に言っていい。取引相場のない株式は、そもそも一物二価と言われているよね。それにさらに6項適用するって・・どういうこと。えー

 

 

 

ま、経緯を見てみよう。

被相続人は、平成26年6月11日に死亡している。ただ、亡くなる前(平成26年5月29日)、被相続人は、V社との間で、O社株式の譲渡に向けて協議を行うことについての基本合意を締結している。

その基本合意において、被相続人は、O社株式の全部を取りまとめ又は買い集めた上でV社に譲渡するものとされ、その譲渡価格は63億0408万円(1株当たり10万5068円)とすることとされた。ただ、この基本合意は、上記の株式譲渡契約の締結及び譲渡予定価格について、被相続人及びV社を法的に拘束するものではないとしていた。

その後、V社は、平成25年9月30日を基準日とするO社の買収監査(デュー・デリジェンス)を行った。

 

 

 

その矢先の、被相続人の死亡。

 

 

 

被相続人死亡後、相続人らの間で遺産分割協議が行われ、O社株式については、被相続人の妻Mが1万0700株、被相続人の子原告Kが5350株、同原告Hが5350株をそれぞれ取得することを合意し、O社の取締役会において、M以外の全株主が所有するO社株式について平成26年7月14日を譲渡予定日としてMに譲渡すること及びこの株式譲渡が実行されることを前提にMがO社株式6万株について同日を譲渡予定日としてV社に譲渡することがそれぞれ承認されている。

 

 

 

こうして、

原告らは、それぞれが保有するO社株式8950株について、平成26年7月14日Mにそれぞれ9億4035万8600円(譲渡予定価格と同じ1株当たり10万5068円)で譲渡する契約を締結した。

また、MはV社に対し、平成26年7月14日にO社株式6万株を譲渡価格63億0408万円(譲渡予定価格と同じ1株当たり10万5068円)で譲渡した。

 

 

 

 

そして、相続人らは、相続税の申告において、上記株式の価額につき、評価通達180に定める類似業種比準価額によって1株当たり8186円と算定した。

 

 

 

ただ、課税庁は、評価通達6に基づき、株式会社〇〇が作成した株式価値算定報告書における報告額の平均値17億2000万円(1株当たり8万0373円)とすることが適当である旨上申し、処分行政庁は、平成30年8月7日付けで、原告らに対し、上記算定報告額により、各更正処分等をした。

 

 

 

通達だと 8186円、鑑定評価 8万373円、実際の売却額は、10万5068円。

金額だけみると、課税庁のおっしゃりたいことはなんとなくわかりますけどね。

 

 

 

裁判の争点としては、本件相続株式を評価通達6により評価することの適否や評価通達6に基づき評価した本件株式の価額の適否などである。

 

 

 

納税者の請求が認められているのだから、早速、東京地裁の判断をみてみよう(R6.1.18 TAINS:Z888-2556)。

 

① 最高裁令和4年判決の判断枠組み

「評価通達は相続財産の価額の評価の一般的な方法を定めたものであり、課税庁がこれに従って画一的に評価を行っていることは公知の事実であるから、課税庁が、特定の者の相続財産の価額についてのみ評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは、たとえ当該価額が客観的な交換価値としての時価を上回らないとしても、合理的な理由がない限り、平等原則に違反するものとして違法というべきである。もっとも、上記に述べたところに照らせば、相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることも平等原則に違反するものではないと解するのが相当である。ただし、通達評価額と算定報告額との間に大きなかい離があるということのみをもって直ちに上記事情があるということはできない。」

 

 

 

② 本件相続株式につき、「評価通達の定める方法(本件においては類似業種比準価額)による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」があるか

 

「本件においては、最高裁令和4年判決の事案とは異なり、本件被相続人及び相続人らが相続税その他の租税回避の目的でO社株式の売却を行った(又は行おうとした)とは認められない。そうすると、本件各更正処分等の適否は、相続開始日以前に通達評価額を大きく超える金額での売却予定があったO社株式について、実際に相続開始日直後に当該金額で予定どおりの売却ができ、その代金を相続人らが得たことをもって、この事実を評価しなければ、「(取引相場のない大会社の株式を相続しながら評価通達の定める方法による評価額を大幅に超えるこのような売却による利益を得ることができなかった)他の納税者と原告らとの間に看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反する」(最高裁令和4年判決)といえるかどうかによって判断すべきこととなる。」

 

 

 

「相続開始後に納税、遺産分割、事業承継のための親族間での株式等事業承継用資産の集約その他の理由により、相続財産の一部を売却して現金化することは格別稀有な事情ではないが、かかる際に評価通達の定める方法による評価額よりも相当高額で現金化することができたとしても、当該売却やそれに向けて交渉をすること自体は何ら不当ないし不公平なことではなく、仮にそのような売却を行うことができたとしても、売却価額ではなく評価通達の定める方法による評価額で当該財産を評価して相続税を申告することが問題視されることは一般的ではない。また、相続開始後に相続財産を評価通達の定める方法による評価額よりも著しく高い価格で売却することができたとしても、その売却価額が当該財産の(被相続人による)取得価額よりも高額であれば、当該売却による利益は譲渡所得税による納税対象とされることになるし、これによって相続時と売却時に二度納税することになる。こうした点をも考慮すれば、相続税を軽減するために被相続人の生前に多額の借金をした上であらかじめ不動産などを購入して評価通達の定める方法における現金と不動産など他の財産に係る評価額の差異を利用する相続税回避行為をしているような場合でない限り、当該相続対象財産を評価通達の定める方法による評価額を超える価格で評価して課税しなければ相続開始後に相続財産の売却をしなかった又はすることができなかった他の納税者と比較してその租税負担に看過し難い不均衡があるとまでいうことは困難である。」

 

 

 

「評価通達は、評価通達6が適用される場合を除き、公開株式のように個別性が低く客観的な価格が容易に算定され又は判明するような相続財産でない限り、不動産など個別の評価において、あらかじめ定められた一定の方法で算出された価格をもって当該相続財産の価格と評価することとしており、当該方法によって算定された価格ではなく、相続開始後に行われた当該財産の具体的な取引価格を参照したり、類似の取引事例を考慮して当該財産を評価したりする方法は採用していない。仮に、課税庁が相続開始後の取引といった個別事情を考慮するとなれば、相続開始日と売却時期がどの程度接近していれば当該売却の事実を考慮するのか、評価通達の定める方法による評価額と売却価額の間にどの程度の差があれば評価通達6に基づく個別評価をするか、個別評価をするとしてどのように評価するかといった点が問題になるところ、これらについての基準はなく、課税庁が個別的にその適否を判断することにならざるを得ない。しかしながら、そのようなこと自体、課税庁による恣意的判断が介入したり、他の事例との間で不合理な差異が生じたりする余地があって、評価通達の趣旨や平等原則の要請に反するというべきであり、適用の有無の別やその具体的方法の差異について、納税者間に不均衡又は不利益が生ずる可能性を否定することができない。」

 

 

 

 

「本件のように、相続財産となるべき株式売却に向けた交渉が相続開始前から進行しており、相続開始後に実際に相続開始前に合意されていた価格で売却することができ、かつ、当該価格が評価通達の定める方法による評価額を著しく超えていたという事実をもってしても、直ちに納税者側に不当ないし不公平な利得があるという評価をすることは相当ではなく、評価通達6を納税者の不利に適用するに当たっては、上記で説示したような不均衡や不利益等を納税者に甘受させるに足りる程度の一定の納税者側の事情が必要と解すベきである。」

 

 

 

③ 本件算定報告額による本件相続株式の評価の適否

 

「以上を踏まえて検討するに、本件ではO社株式の売却手続が進行中に被相続人が死亡しているところ、その手続が遅れたとか、本来は被相続人の生前に売却手続を完了することができたといった事情は認められない。本件相続において、被相続人が相続開始日以前に行った行為は、基本合意及びその後の買収監査への協力にとどまるところ、これらの行為は、相続開始日以降に行われた相続株式の売却の結果を含めて評価したとしても、それがなかった場合と比べて相続税の金額を軽減する効果を持つものではない。よって、本件において特段の事情はないものというほかはないから、本件相続株式の価額については通達評価額によって評価すべきであり、評価通達6を適用して算定報告額を用いて相続株式を評価した本件各更正処分等は、最高裁令和4年判決の示した判断枠組みに照らし、平等原則という観点から違法である。」

 

 

 

 

読んで、驚いた。非常に冷静な裁判官の判断。裁判長は、岡田幸人裁判官だ。

もう、読んでいて、うなずくしかない。

 

 

 

 

この事案は、令和4年の事案とは前提が違う。令和4年の最高裁は、「評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められる」とし、「通達評価額と鑑定評価額との間には大きなかい離は、上記事情があるということはできない」としている。そして、「購入・借入れのような行為をせず、又はすることのできない他の納税者との間に看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反するというべき」として、上記事情と判断し、6項の適用を認めていた。

 

 

 

 

今回は、この令和4年の最高裁を基に「不均衡や不利益等を納税者に甘受させるに足りる程度の一定の納税者側の事情が必要」とした。ただし、今回は、そのような事情はなく、むしろ、このような事案に6項を適用することは、令和4年最高裁判決に照らし、「平等原則という観点から違法である」と結論づけた。

 

 

 

 

あ、ちょっと感動。えー

 

 

 

今年の最優秀判決賞に決定。拍手

 

 

 

最後に、国側の

「最高裁令和4年判決は租税負担の軽減を意図して納税者側が行為をしたことを評価通達6の適用の必須の要素とはしていないとした上で、評価通達が、客観的な交換価値を端的に評価し得る場合にはそれらによることが最も望ましいという考えを前提にしていることからすれば、相続開始時において、売買当事者間の主観的事情を離れた当該株式の客観的な交換価値を反映した取引価格が明示されていることなどから当該株式の客観的な交換価値と評価し得る価格が明らかになっているという事情がある場合には、特段の事情があることになる」との主張に対しての東京地裁の判断で締めくくろう。

 

 

 

 

「しかしながら、評価通達は、財産の種類ごとに評価方法を定めているところ、不動産や取引相場のない株式など個別性の高い財産に関しても、それを前提に画一的な評価方法を定めており、直近に客観的な交換価値を反映した同種の取引事例があればそれを参照するなどとはしていない。-(中略)-個別事案における財産評価に当たり、評価通達6に該当する場合を除き、評価通達の定める方法による評価額ではなく、個別に取引事例を参照するなどして客観的な交換価値を評価すべき場合があることを評価通達が想定しているとはいえない。

 そもそも、個別性の高い財産に関しては、市中の不動産などのように一定の市場が形成され、比較的客観的価値が把握しやすいと思われるものや、競売入札などによる売買であったとしても、実際の売却価格の決定は大なり小なり売主側、買主側双方の資力、取引の必要性や緊急性、他の取引相手候補者の有無や動向などの事情によって左右されることに照らせば、客観的な交換価値と評価し得る価格が明らかになっている場合がいかなる場合を指すのか自体曖昧といわざるを得ず、そうであるからこそ、評価通達は、客観的な交換価値に近似する価格を比較的容易にかつ保守的に把握するため、路線価方式などの評価方法をあらかじめ定めているものと解される。

 もとより、被告(処分行政庁)自身、本件売却価格に個別事情が反映されていることは否定せず、本件相続株式の1株当たりの時価について、売却価格ではなくそれより低い算定報告額とする旨主張しているのであるが、そのことからみても、相続開始日において、売買当事者間の主観的事情を離れた本件相続株式の客観的な交換価値を反映した取引価格が明らかであったなどとはいうことは困難であり、本件算定報告額がこれに当たると断ずることも直ちにはできない。」

 

 

 

お見事。えー

 

 

 

 

控訴審でも同様の判決をお願いします。

 

 

 

 

NORIKUMAクマ