NORIKUMAです。

 

 

 

18日にやっと裁決が公表された。いつもは12月に公表になるのだが、忙しかったのかそれともなにかトラブルでもあったのかは不明だ。余計な詮索はしないでおこう。

 

 

 

法人税の公表裁決から。

本件は、審査請求人が、売買により一括して取得した土地及び建物について、これらの売買代金の総額から路線価を基に算出した土地の売買代金相当額を差し引く方法によって算定した建物の売買代金相当額に基づき、法人税の減価償却費の額及び消費税の課税仕入れに係る支払対価の額を計算して確定申告をしたところ、原処分庁が、建物の売買代金相当額については、これらの売買代金の総額を土地及び建物の各々の固定資産税評価額の価額比で按分する方法によって算定すべきであるとして、これを基に更正処分等をしたのに対し、請求人が、更正処分等の一部の取消しを求めた事案である。

 

 

 

 

少し前に、リフォームして売却している会社の売買価額の按分の判決をご紹介した。今回は、取得価額の話。

取得の場合は、ほぼ固定資産税評価額の価額比で按分が多いのだが、この事案はどうなのか。

 

 

 

 

まず、この請求人だが、不動産の所有、賃貸及び管理業等を営んでいる。平成30年12月から令和元年5月にかけて簡易宿所の用に供する目的で3つの物件の不動産(土地建物)を購入している。そして、それぞれの売買金額並びに消費税等相当額は明らかではない。

 

 

 

納税者は、事案の概要にあるように差引法で計算している。ただ、差引法では建物の価額が大きくなる傾向にある。課税庁側もそのように主張し、固定資産税評価額比按分法が、合理的な算定方法とした。

 

 

 

納税者側は、申告時には差引法で計算していたのだが、裁決では予備的主張として、建物1については見積額等比按分法を、建物2及び建物3については積算価格比按分法を用いるべきであるとした。

 

 

 

なんだか、いろいろな方法があるが、見積額等比按分法とは、内装工事業等を営むL社が作成した工事見積書(請求人の税務代理人である税理士法人J所属のK税理士が示した)の見積額に5%を乗じて計算した額とN社が作成した査定報告書の査定価格(税理士法人J所属のM税理士が、土地1の時価を示すものとして提出した)との価額比で、物件1の売買代金で按分して土地1及び建物1の各々の売買代金相当額を算定する方法。

 

 

 

 

一方、積算価格比按分法とは、 請求人が、Q社所属の不動産鑑定士が作成した物件2と物件3の不動産鑑定評価書(建物2につき原価法による積算価格が、土地2につき取引事例比較法、建物3につき原価法による積算価格が、土地3につき取引事例比較法による比準価格に基づき算出した積算価格が記載されている)に書かれている比で売買代金を按分する方法だ。

 

 

 

 

ここまで、いろいろな方法が出てくると、なんだが通達とかで、きちんと決めた方がいいんじゃないの・・・と思うのは私だけか。えー

 

 

 

審判所は、下記判断をして、処分を一部取り消した(R5.6.21 公表裁決なので誰でも無料で読むことができます)。

 

① 差引法について

「一般に、路線価は、地価公示価格と同水準の価格の80%程度を目途として設定されている上、土地に係る売主の利益及び販売手数料等の諸経費が反映されないものであるから、これに基づき土地の売買代金相当額を算定した場合には、土地の客観的な時価に比して低額となるのが通例であるといえる。そうすると、差引法を用いて本件各物件の売買代金を各土地及び各建物の各々の売買代金相当額に区分した場合には、各土地の売買代金相当額に反映されるべき価額(路線価との差額部分に相当する価額や本件各土地に係る売主の利益及び販売手数料等の諸経費相当額)がこれに反映されないことから、各土地の売買代金相当額が客観的な時価に比して低額になる一方で、当該価額が各建物の売買代金相当額に転嫁され、各建物の売買代金相当額が客観的な時価に比して高額になる。
 したがって、請求人が主位的に主張する差引法は、各建物の売買代金相当額の算定方法として合理的とは認められない。」

 

 

 

② 見積額等比按分法について

「a県における平成30年度計分の建築着工統計調査の結果によれば、木造建築物の1平方メートル当たりの工事単価は約169,993円(=工事費予定額121,505,500,000円÷床面積の合計714,767平方メートル)にすぎず、これに建物1の延床面積108.39平方メートルを乗じた額(18,425,541円)は建物1の本件見積額(56,700,000円)を大幅に下回る。
 さらに、P(L社の取締役)が、改築見積書に記載された見積額35,750,000円について、「今ある建物を柱だけ残して全面的に改築し、宿として使えるような仕様に変える工事の金額であるから、今ある建物と同等の建物を新築した場合に要する費用よりも高い金額であり、知人の大工及び一級建築士と相談して概算の金額を算出したものである」旨申述していることも踏まえれば、請求人による取得時点における建物1の再建築価格は、少なくとも35,750,000円を下回ることが優にうかがわれる。
 そうすると、この金額を大幅に超過した本件見積額を建物1の再建築価格とみることはできないから、ほかの点を検討するまでもなく、見積額等比を用いることに合理性があるとは認められない。」

 

 

 

③ 積算価格比按分法について

「本件鑑定士が行った各鑑定は、不動産鑑定評価基準に沿って鑑定評価を実施したものと認められ、その実施過程に不適切ないし不合理な点は見当たらない。また、鑑定士への依頼は請求人自身が行っていることを考慮しても、鑑定士が公平な鑑定評価を実施したことに疑いを持たせるような事情も認められない。そうすると、土地2積算価格と建物2積算価格との価額比については、請求人による取得時点における土地2及び建物2の各々の時価の価額比を推認する手がかりとして、一定の合理性が認められるというべきであり、また、土地3積算価格と建物3積算価格との価額比についても同様である。」

 

 

 

④ 固定資産税評価額比按分法について

「建物1の売買代金相当額の算定方法としてみると、固定資産税評価額比按分法は一般的には合理的な方法であると認められる一方、請求人が主張する差引法及び見積額等比按分法はいずれも合理的な算定方法とはいえず、当審判所の調査及び審理の結果によっても、固定資産税評価額比按分法以外に合理的な方法は認められない。

 また、建物2及び建物3の各々の売買代金相当額の算定方法としてみると、建物2には平成30年10月頃から平成31年2月頃までの期間において改修工事が実施され、建物3にも平成28年12月頃から平成29年5月頃までの期間において改修工事が実施されているところ、当審判所の調査及び審理の結果によれば、いずれの工事も相応の規模のものであり、建物2及び建物3の各々の時価を増加させるものであったと認められる。しかし、物件2固定資産税評価額比及び物件3固定資産税評価額比には、建物2改修工事及び建物3改修工事による建物2及び建物3の各々の時価の増加が反映されていないと認められる。

 そうすると、建物2及び建物3の各々の売買代金相当額の算定方法としては、固定資産税評価額比按分法よりも積算価格比按分法によることがより合理的であるというべきである。」

 

 

 

いろいろな按分法のオンパレードだったが、結局は按分法としては、固定資産税評価額比按分法は合理性がある。ただ、大掛かりなリフォームをしていた場合は、固定資産税評価額比按分法ではリフォーム部分の価値がプラスされていないので、鑑定評価などでそれをプラスにして計算したものの価額比で按分する方法を採用した。

 

 

 

 

これは、先日ご紹介したリフォームして売却した法人の売却価額の按分にも通じるところだ。売却したケースでは、リフォーム代金が分かるので、それを加味した売上原価の比で按分と判断された。

取得する場合には、リフォームの状況が不明な場合もあるので、そういう時には、今回のようにそれを加味した鑑定評価ならば採用できるということ。

 

 

 

実務的には、不動産鑑定をわざわざするか・・・という声もあるが、固定資産税評価額の比との兼ね合いになるんだろう。金かけて鑑定評価してもらうか、それとも課税庁がお好きな固定資産税評価額の比で取得価額を按分するか。(取得価額に限る。売買価額の按分はまた別の論点アリ)

 

 

 

 

本当にこのテーマは永遠だ。えー

 

 

 

 

なお、リフォームした場合の売買代金の区分についての判決を読んでいない方は、こちらを。

 

 

 

 

 

 

NORIKUMAクマ