昆虫キャンプで、自信をつけた彼は、残す1個のキャンプをたいへんに心待ちにした。
なぜならこのキャンプは、昆虫館の館長さんたちが一緒に参加して、
【標本の作り方】
を教えてくれるというからだ。
夜中や朝早くに起きて森に入ること、
その際に注意すること、どんな餌があるのか。
が、捕獲しても、その命を大事にするべきであること.。。。
なぜなら、みんなが同じく生きるいのちであるから。。。
そんなことを、しっかりと先のキャンプで自身の心に刻み込んだ彼は、
最後のキャンプに大変に積極的だった。
キャンプ続きで決して体調は良くはなかった。
が、何が何でもこのキャンプだけは外せない。。。
彼が強くそう思う中、 またまた仕事中に私の携帯が鳴った。。。
「○○キャンプの、○○です。
今回お申込みありがとうございました。
現在予定通りに進めていくつもりで準備しておりますが、あいにく台風が近付いており、
丁度出発日に、台風が上陸の見込みです。
その場合、残念ですが、日程3日のところ、2日に短縮も致し方ないと考えております。
天候により、変更があったばあいは、変更のご連絡をします。
ご本人様へも、よろしく伝えください。」
出発日が近づき、やはり天気予報通り、出発日に台風上陸が重なった。
やむを得ず、日程を一日削ることになった。
翌日、さっそうとバスに乗り込み、出発。
今度はどんな経験をして、たくましくなってくるのか。。。
見送りは何度経験しても涙が出そうになるが、必至と笑顔で見送った。
彼のADHDについては、今回は、まったくと言っていいほど心配はなかった。
すでに昆虫採集に染まりきった彼の心と体は、何の迷いもなくキャンプに赴いたからだ。
みんなが同じく昆虫好きであること、それゆえ簡単にわかりあえることも
肌で感じ、その感覚が恋しいといわんばかりだった。
1泊2日の工程を終えて戻ってきた彼は、さらに昆虫に心を奪われていた。
これまで以上に彼が、「昆虫」に見えた
というか、彼の肉体も心もその血液までも、
ほんとに昆虫のことで隅々までいっぱいで、
そのことしっか、話さないんだもん
聞くと、キャンプの説明書には、採取した昆虫は、「リリース必至」
と記載があったが、実際捕まえたクワガタやカブトを、生きたまま、
あるいは標本にして持ち帰ってきた。
どこで何を見つけて、どこでこれを捕まえて、
でもだれだれのはもっと大きかった。
捕まえた昆虫を、観察して、こんな風に標本にして。。。。。
話は尽きない。
その標本を作る方法も、昔ながらの方法を教えてくれた。
手先の器用な彼にはもってこいの方法だ。
森に入ると、昆虫以外のこともたくさん教えてもらったそうだ。
肌で即覚えてしまう彼には、大変に有意義な2日間だったのがよくわかる。
そして彼が言い出した。。。
「ママ、おれな、山の中で、毎日昆虫を捕まえて暮らしたいわ」
うつろげながら、彼は自身が何をしたいのか、つかんだようだった。
まだ小学校6年生の子供に、将来の展望を思わせるには早いのかも知れなかった。
が、私には見えた。
彼の背中に、羽が生えて、今、羽ばたき始めたことを。。。。