心が折れた | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

大きな挑戦なんてとてもとても。
夢や志がなくても
そっと挑む暮らしの中の小さな背伸び。
表紙の手ざわりていどの本の紹介も。

相互読者登録のご期待にはそいかねますのでご了承ください。

「心が折れた」
妻のサマンサが目を潤ませて言いました。

ここ何ヶ月か、夫婦で老後のこれからの暮らしに備え、
持物を見なおして、さまざまなものを手放しています。


私が手放したのは、
通勤用スーツやコート、あまり着なくなったジャケット、コート
再読予定のない本、
ハードディスクに移して聴くときに不要になったCD、
オーディオ などなど
まだこれから手をつける予定のものがあります。

一方、サマンサはといえば、
バッグ、コート、着物
仕事で使っていた資料、
使っていない台所用品
写真、室内装飾品などなど


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サマンサの心が折れたのは、思い出が伴うものです。
娘たちが着た七五三の時の衣装や小物と浴衣、自分が節目で着た着物です。

手放すこと自体に寂しさを感じていることは確かです。
でもそれで心が折れたわけではありません。

 

これらのもらい手が周りに見つからず、
買い取り業者にみてもらっても引き取り不可と判定され、
リサイクルにまわすことなりました。

もうどうでもいいブランド品が買い取られたのに、
大切な思い出の品が、そのままの姿でこの世に受け容れられないことにやりきれないのです。


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それらの品は、ファッションに興味の薄い私がみても
七五三、成人式、結婚式、花火大会などでサマンサやサクラやモモが来ていた場面が思い浮かべられます。

ましてや、サマンサは着物の生地やそれに合わせた小物などを選ぶ段階から彼女の母親と幾度も相談を重ねてました。
私より遥か前から長いプロセスを経てそうしたイベントを迎えています。
私などより遥かに思い出に厚みが加わっています。

「私たちの『あの時』をそんなに粗末に扱わないで」

あえて言葉にすれば、こうでしょうか。
錯覚だとわかっていても、
自分たちの人生の大切な場面が世間から蔑ろにされたような気分になるのです。


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サマンサは、引き取り手の見つからなかったもののうち、どうしてもこの扱いにさらしたくない品をごく一部選んで手元に残すことにしました。
さらにそのうちの一部は、ただ保管するのではなく、その生地でリメイクして使うことを考えているようです。

使わないから手放すという理屈の世界とは別に
やりきれなくて手放せない気持ちは手放さずに残そうと思います。



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