[本] 大衆芸術こそ言葉の土壌 / ことばと創造 | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

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 この本の著者鶴見俊輔は20代から90代まで考え続け、書き続けてきました。哲学を起点にした思索・批評活動は、哲学にとどまらず映画や漫画にも興味の対象が及び、類いまれな深さと広さと言われています。

 この本は1946年から2013年までに発表された原稿を、「ことばと創造」というテーマの下に選ばれ編まれ、初期のものを中心に、言葉が文字でばかりでなく、映画・漫才・落語・漫画など大衆文化を土壌に、話ことば、身ぶり手ぶり、時代背景などとともにたくましく育っててきた実例を紹介しています。

 

 

ことばと創造 / 鶴見俊輔 著、黒川創 編
2013年文庫化
お気にいりレベル★★★★☆


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 はたして日本の庶民が体験してきた大衆芸術が西洋の近代文化のものより「低い」のだろうかという問いが、著者の根底にあるテーマです。

 文章化された噺家円朝の落語が大衆文学の源となったと論じ、文壇が批判的だった時代小説に時代の批判精神を見出すなど、具体例を引きながら独自の見解を展開しています。

、また、映画表現に関わる文章をとても愉しく読みました。たとえば大佛 おさらぎ 次郎の原作を元に映画化された『鞍馬天狗』については、第1回(1924年)から戦後までのシリーズにおける、鞍馬天狗が掲げる正義の内容の変遷や、変遷しながらもヒーローでありつづけられた要因の分析を通し、鞍馬天狗の進化論になっています。

 

生物全体の立場にたって考えるということが、私にできるのだろうか。 『漫画から受けとる』(1996年)


 ある漫画を読んで、自らをこう問い質しています。著者はこのとき70代なかばです。

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 著者が20代なかばにメジャー・デビューした原稿『言葉のお守り的使用法について 』(1946年)は、敗戦直後ならでは生なましさがあります。「お守り」は自分の身を護ってもらうためのもの。言葉にもお守りと同等の期待だけなく効果までもつ用法を紹介しています。

 「国体」「日本的」「皇道」といった敗戦まえの実例を出してわかりやすく機能を説明されると、言葉を変えて現在でも使うことができる用法であることがわかってきます。


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トクメイの批評には、あとでとりけしの必要がないからとうぜんに、誤解する権利を十分に行使する場合が多いが、トクメイでなく筆者名のある論文でも、多くは誤解する権利を行使して、論争の相手方の言説を自分があつかいやすいワラ人形にすりかえて、打倒してみせている。 『誤解権』(1958年)

 なんだか You Tube で起きていることのようですが、今から60年以上前の原稿です。論争に使われる戦法にはあまり進歩がないのかもしれません。

 それだけに、この文に限らず、現在にあてても十分に納得できる考え方をたくさん発見できる一冊です。



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