北欧に留学している間に、故郷の列島が沈んで消えたらしいと聞いたHirukoは、様々な背景をもつ5人の仲間とともに母国の現況をその目で確かめようとデンマークのコペンハーゲン港からバルト海を北上します。列島のあるはずの場所へのルートをどのように相談したか記憶が定かでないままでの出航です。
6人は郵便貨客船の客となり、バルト3国のラトビアとエストニアや、ロシアの飛び地カリーニングラードなどソ連時代の痕跡を残す地に寄港し、あとは船上という国境の外で揺られています。
ドイツ在住の十和田葉子による『地球にちりばめられて』『星に仄めかされて』に続く三部作の完結編『太陽諸島』です。
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太陽諸島 / 十和田葉子 (講談社)
2022年刊
お気にいりレベル★★★★☆
6人の共通語は英語ですが、あまり使われません。
Hirukoは北欧で移民として生き抜くための手段として編み出した「パンスカ語」(汎スカンジナビア語)で、デンマーク大言語学研究生のクヌートや、グリーンランド出身のデンマーク留学中のエスキモーのナヌークと話します。ドイツの博物館に勤めるノラはクヌートとはドイツ語で会話します。ドイツ留学中で性別引っ越し中(男性→女性)のインド人アカッシュは英語とうまくはないドイツ語。フランスのアルルで鮨職人をしていたHirukoの同郷人SusanooはHirukoとは母語(日本語)、他のメンバーとは英語ですが、失語症と間違えられるほど無口です。
背景がまちまちで母語や使用言語の異なる6人は、Hirukoの母国を目指すという全員に共通した意志を持ちながらも、話題や相手により言語を使いわけて意志疎通を図ります。人間関係がギクシャクしている部分もあるだけに、通じない言葉での会話は疑心暗鬼を生みます。
前二作同様、登場人物が代わるがわる各章の語り手となって物語は進みます。
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デンマークのコペンハーゲンから出港して東アジアに向かうするあれば、西に向かい大西洋に出た後に地中海を抜けスエズ運河を経由するルートもあります。他にも大西洋を南下してアフリカ大陸沿いに喜望峰を経由して目指すこともできます。
それをあえて北が閉ざされたバルト海を北上するのであれば、ロシアのサンクトペテルブルクからシベリア鉄道で東へ横断というルートが思い浮かびます。
さて、Hirukoたちはどのルートを目指すのでしょう。
Hirukoたち6人が旅する地球の状況は、いまの私たちの知る状況とはかなり緊張を強いられるようです。
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6人の個人を規定する要素だけでもバラバラなのに、寄港したドイツのリューゲン島から船に乗ったポーランド人のヴィトルドがこんな言い方をしていました。
国は紙でできているからと、移動できる人間ばかりか、陸に固定された「国」までその存在の
かと思えば、日常の暮らしの中に姿を消した国の痕跡を見つけたり。
ましてや、Hirokoの祖国の列島は沈んで姿を消したもしれないのです。Hirukoはこんな言葉を漏らします
国の誕生は神話で語られることがあります。『古事記』で祖国誕生とともにイザナキ=伊耶那岐命とイザナミ=伊耶那美命との間に生まれた神と同名のHiruko=水蛭子には、新たな国の誕生に立ち会う機会が秘められていそうです。
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Hirukoたち6人の船旅は意外な形で終わりを迎えようしています。
いまさらながら、読み終えてあらためて考えたことがあります。
背景がまちまちの5人がなぜHirukoの旅に相乗りするのでしょう?
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