[本] AIとの三角関係の結末は / 恋するアダム | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

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アダムはAIを搭載した人間にしか見えないロボット、アンドロイドです。
タイトルにあるように彼は恋をします。それも彼を買ったチャーリーの恋人ミランダに。いわゆる三角関係です。
でも、SFをまとったラブ・コメディではありません。

この小説を読み進むにつれ、アダムの存在を通じて際だつ、「愛」や「正義」といった原則的なことに関するふだん意識しない人間の特徴にあらためて気づき、AIとの共生を模索することになります。

アダムがチャーにミランダは「意図的な悪意ある嘘つきである可能性」があると警鐘をならします。
チャーリーはミランダが自分のこと、自分の過去のことを話さないことが気になっていました。
アダムとチャーリーやミランダとの原則的な部分での考えの違いが、いくつかの秘密を巡る謎の真相を明らかにします。


   ◆      ◆      ◆
 

 

 


恋するアダム / イアン・マキューアン (新潮クレスト・ブックス)
2019年原書刊、2021年和訳刊
お気にいりレベル★★★★☆

舞台は1982年のイギリス、そう過去です。しかし、現代より進んだAIを搭載したアンドロイドがいる仮想の過去です。その時期にはすでに亡くなっている高名な学者がAIの権威であり、ビートルズもまだ活動中、フォークランド戦争はイギリスの大敗、といったように実際の過去とは異なるパラレル・ワールドです。

チャーリーは32歳。以前税理士をしている時に違法行為をして資格を失い、今はロンドンの冴えないアパートでPCで投機して細々と暮らしをつないでいます。まとまった金を手にすると事業に投資しますが失敗続き。上の階に暮らす社会史の博士号をもつ10歳下のミランダに恋をしています。
母が亡くなったあと、実家を売却した金で、世界で25体作られた最新鋭アンドロイドの1体であるアダムを買いました。


   ◆      ◆      ◆

チャーリーとミランダに手分けして性格を初期設定されたアダムは、様々な世の中の資料やデータと実体験から学び、AIを駆使して最適解を求め行動にうつします。

ミランダに思いを寄せる人間とアンドロイドの男性二人は、ミランダの過去に関する秘密が明らかになるにつれ、それに対する考えと反応の違いが出てきます。
かと言って、アダムが機械的で冷たい存在として描かれておらず、充電など物理的な仕組みは機械的に記述され、思考回路の記述ではむしろ成長途中の人間として悩んでいるような、肩入れしたくなるようなかわいらしさを感じました。

また、未来を舞台にしないことにより、読み手の視線が未来の描き方巧拙・適否にいくことをさけ、過去の書き換えにより社会批評を感じさせながらも、あくまでも理性・知識・体力・感情などの基本的な部分における人間とロボトミーの相違と共生の可能性に、読み手は視線の焦点を合わせやすくなっています。
たとえば、アダムが理解できない、あるいは非合理的な誤りと考える人の行動は、どうやら人間の目にはアダムの嫉妬に映る描写など、作者イアン・マキューアンの腕の冴えが光る設定、表現・描写でした。


   ◆      ◆      ◆

、1954年に亡くなったコンピュータで使う計, 算から哲学まで研究していたvarnaチューリングを1982年では生かし、AIやアンドロイドをはじめとする科学技術や哲学と社会への影響について説明役を与えています。
アダム以外のアンドロイドが、次々と思わぬ行動をとる状況をこんな風に表現させています。

だから、アダムやイヴたちはじきに絶望してしまう。


チューリングの説明は長くて難しくてわかりにくい面もありますが、私がストーリーを追うだけでは考えが及ばない部分、特にアダムの「愛」の定義と広さを理解しやすく助けてくれました。



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