オリンピック開催予定日まであとひと月。
コロナ禍の下でオリンピックの在り方自体やら、開催の是非やら、開催方法の選択やら、世間で語られています。
タイトルから二つの東京オリンピックを背景にした物語と推定して手にとりました。
この小説はオリンピックをポイントにしてその開催時期に向けて、文芸誌に2018年11月号から2020年4月号に掲載され、2020年12月に刊行されました。
2020年3月に東京オリンピック・パラリンピックの開催延期が決定。でも、この小説はコロナ禍はまったく触れられることはなく、しかもそれに違和感を感じることなく読んで愉しむことができました。
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2020年刊
お気にいりレベル★★★☆☆
大学までバレーボール選手だった佐藤泰介は58歳、有名スポーツ関連企業に勤めています。近ごろデータマネジメント部門に異動してから仕事も面白くなく職場で浮いている存在です。
妻由佳子とは大学時代バレーを通じて知りあい、高校2年生の娘萌子も有名校の有力バレーボール選手のバレーボール一家です。
弟と兄弟二人を女手ひとつで育てた母万津子は同居していますが、このところ痴ほうの症状がみられるようになってきました。
万津子は「私は・・・・・・東洋の魔女」と時おりつぶやいたり、水に対して異常なほどの警戒感を示しながらもその説明を「泰介には、秘密」と拒みます。母の過去と関係がありそうですが、もともと母は過去を語らなかったうえに最近の痴ほうが重なり過去は不明です。でも、たしか母は紡績工場に勤めていたはず。泰介は過去を明らかにするなら時間が限られていると気になってきました。「
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泰介の視点から語る職場・介護・娘の進路に関する不和、万津子の視点で描かれる1950~60年代の熊本からの集団就職・結婚・母子3人での上京といった苦難が交互に
父の死、状況の事情など、泰介は自分の過去をたどり始めます。
やがて、泰介の現在につながる、幼少期の出来事や母の子育ての苦悩や1964年東京オリンピックの親子に及ぼした影響が読者には明らかになっていきます。
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泰介と万津子ともに、理由は異なるものの周囲の人の理解を得ることに苦労しています。
読者はこの小説の語り手のおかがで、泰介より彼の半生の情報を得ます。万津子より現在の泰介一家の現状を知ることができます。
万津子が、夫との暮らしや泰介の子育てになめた苦悩は半端ではありません。
これまで、誰に言われるということもなく私は自分の人生は自分が一番知っていると思っていました。
ところがこの小説を読んで、人生のいつどこで誰のどんな行動で今の自分があるのか、まったくわからないと考えなおしました。
すべて知っている人などいない人生の分岐点をいくつも経た結果です。
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