[本] 小説のからくりを知りたくて / はじめての文学講義 | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

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大きな挑戦なんてとてもとても。
夢や志がなくても
そっと挑む暮らしの中の小さな背伸び。
表紙の手ざわりていどの本の紹介も。

相互読者登録のご期待にはそいかねますのでご了承ください。

私は小説を読むのが好きです。小説に芸術的な面があることを理解していながらも、どんな作品も単なる楽しみ、娯楽として読んでいます。
スピーディーな展開や、終盤に明かされる意外性、気の利いた対話、空間や時間を行き来する超現実を文字から状況を自分で作る楽しみは格別です。

でもさらに、何年も小説を読んでいるうちに、作者の経歴、舞台となる時代背景、登場する実在の人物の人生、科学技術など周辺知識を持っていると、連想や創造できる余地がふくらみ楽しめる要素が増えることに気づきました。少しずつですが、そうした小説の周辺がに触れながら読む機会も増えました。

それに加えて、このところ、もし芸術的視点から文学として小説を読んだら、今まで気づかなかった作者の仕込んだからくりに気づくことができ、もっと多様な楽しみ方ができるのではないか、と考えるようになりました。

大風呂敷を広げて文学論に取り組むのは荷が重そうなので、身勝手ながら手軽な入口を探していました。


   ◆      ◆      ◆

そうしたら、中高校生向けに催された講演が本になっていました。
若い時分にこんな講義に接することができるなんて、この講義の聴講生は幸せです。文学をもっと知りたくなります。小説をもっと読みたくなります。読んだことのある小説も読み返したくなります。

 

はじめての文学講義――読む・書く・味わう (岩波ジュニア新書)

はじめての文学講義 / 中村邦生 (岩波ジュニア新書)2015年刊
お気にいりレベル★★★★☆

文学がなぜあるかということに軽く触れた後、前半で「二つのことを結びつける力」を例に文学の楽しさを紹介しています。
太宰治の「富嶽百景」を引き合いに、登場する「富士」と「月見草」の無関係にありそうな二つのもの関係から小説の楽しみをわかりやすく教えてくれます。
「富嶽百景」は何度も読んだお気に入りの短篇なので、なおさら楽しむめました。

後半は事前に聴講生から受けていた質問に答える形で話が進められます。限られた時間なので、知りたいことを伝えてもらえる形式は生徒には大きなプレゼントです。

「文学のいとなみ」として読むことと書くことについて、必読書、自分だけの名作、書評の利用、深く読むこと、説明・比喩・書き出しなどをテーマに簡潔に話されています。


   ◆      ◆      ◆

歴史のなかでといっても現代でも、作家が為政者(特に独裁や一党独裁っぽいのに)から目をつけられることがあります。時には命まで奪われます。
冒頭部分で書かれている文学の特質に関するこの文を読んで、なぜ繰り返し同じようなことが起きるのか実感できました。

 

(文学は)世の中に流通している価値への疑念といってもよいかもしれません。(略)たとえば善と悪みたいなものでしょうか。


見方によって違ってみ全体主義のような考え方えるものごとの善悪がゆさぶられては、すべての国民に同じ価値観を求める全体主義のような体制は持ちませんものね。

この くだり につづいて、答えの出ない問いを考え続けることが創造力を生むと言っています。
これは、小説を書くことに限らず、きっと自分で考えて結論を出す力を培うトレーニングになります。


   ◆      ◆      ◆

歳を重ねてから学び始めるのも悪くありませんね。
その時は、私の場合、変に大人ぶって恰好をつけるより、額にもみじマークではなく若葉マークを貼って初心者として謙虚になる方が、すんなりとわかるようです。
同時に新たな興味が湧いてきます。
歳を重ねるとこのエネルギーを得られるのが貴重です。

もう少し、文学の入門書をさがしてみます。


[end]

<引き合いに出されている本の一部>
太宰治「富嶽百景」
林芙美子「放浪記」
村上春樹「海辺のカフカ」
川上弘美「センセイの鞄」
ジャンニ・ロダーニ「パパの電話を待ちながら」
矢野智司「大人が子どもにおくりとどける40の物語」(ミネルヴァ書房)
長嶋有「猛スピードで母は」
J・Dサリンジャー「キャッチャー・イン・ザ・ライ」(村上春樹訳)


 

 

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