[本] 悪意 / 転落 | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

大きな挑戦なんてとてもとても。
夢や志がなくても
そっと挑む暮らしの中の小さな背伸び。
表紙の手ざわりていどの本の紹介も。

相互読者登録のご期待にはそいかねますのでご了承ください。


ホームレスになった「ボク」は、小学生麻由に弁当をもらい、徐々に餌付けされていきます。
「ボク」麻由に操られ、小さな罪を重ねていきます。

「転落」というタイトルに、すでに転落してホームレスになった「ボク」の更なる転落を期待しました。
おそらく複数登場する転落に、偶然による善意のすれ違いと悪意がどのように作用するのでしょう。
他にも転落に作用する要素が登場するかもしれません。


   ◆      ◆      ◆

 

転落 (講談社文庫) 転落 / 永嶋恵美 (講談社文庫)
2004年刊、2009年文庫化
お気にいりレベル★★★★☆

 

3つの章に仕掛けられた展開を迎える度に、いつのまにか植えつけられていた思い込みが倒壊しました。
なるほど「転落」のタイトルにふさわしい展開です。

不運、疑心暗鬼、陰口、嘘、罠、盗み、根拠のない優越感、弱さへのつけ込み、正義を装った被害者の落ち度への攻撃、依存、いじめ、殺意 etc.
転落の展開の周りに、さまざま登場人物にネガティブな要素が散りばめられています。
救いどころか救いの兆しすら見出すことができません。


   ◆      ◆      ◆

実際の暮らしにはさまざまな試練があります。

小説の登場人物の現状を受け入れることにより、まず今の自分を受け入れるのもひとつ。
読書で作品の中に、試練や苦悩のなかにも吉兆を見出して、これから先に向かう勇気を得るのもひとつ。
たとえ小説の中でも、とことん厭な面を正視して、そうしたものを避けられないという覚悟や耐性を得るのも、試練にたちむかう方法のひとつです。

その時の気持ちや体調次第で、こうした方策のどれからを選ぶにしても、ネガティブな面がきちっと書かれていないと、一時といえども作中の不幸の受けとめようがありません。

決して読後感に爽やかさを求めることはできませんが、悪意を身近に感じられる小説です。



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