[本] 旅の目的 / 深夜特急1~6 | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

大きな挑戦なんてとてもとても。
夢や志がなくても
そっと挑む暮らしの中の小さな背伸び。
表紙の手ざわりていどの本の紹介も。

相互読者登録のご期待にはそいかねますのでご了承ください。

もしこの本を若い時分に読んでいたら、と考えるとぞっとします。
ぞっとするといっても、結果が悪かっただろうと予測しているのではなく、いまと比較した変化の大きさにです。

学生時代の旅はもっと長くなっていたことでしょう。
訪れる先もアメリカ大陸ではなく、アジアあるいはヨーロッパに変わったような気がします。
勤め先の選択も違ったかもしれません。
歩む道そのものが、今とはがらりと違ったものになっていたに違いありません。

実際にこの本に触発されて、荷を背負い世界を旅した若者は多かったそうです。
この本がバックパッカーのバイブルなんて呼ばれ方もしたほどです。

この本が世に出たのは1986年。著者が旅をしてから10年以上経っていました。
この頃、私はすでに社会にでて、妻のサマンサと結婚していました。
この本を手にとったのは30年後。もういい齢に届いた今となりました。
よし、オレも、と意気込む心配はありません。


   ◆      ◆      ◆

ノンフィクション作家沢木耕太郎が26歳の時に発った1年程の旅が文庫本6冊に収められています。
インドのデリーからロンドンまでのバスの旅です。
といっても、1900ドルの元手で4か月の予定だったのに、デリーに着くまでに1巻から3巻、半年を費やしています。

香港、マカオ、ベトナム、タイ、マレーシア、シンガポール、インド、ネパール、パキスタン、アフガニスタン、イラン、トルコ、ギリシャ、イタリア、スペイン、ポルトガル、フランス、イギリス。

計画とおりに旅程を進めることは旅の目的ではありません。
時間の制約や、資金の余力が旅程を必要としているだけです。

この場合、時間の制約はなかったようです。
であれば、金が続く限り旅が可能となります。
宿、食事、バスは安いものを選び、日本を出発する前に計画したよりずいぶんとゆっくりとした進み具合です。
何しろ、場所によるとはいえ、1ドルあれば1日暮らせるような旅です。


   ◆      ◆      ◆

では、沢木耕太郎の旅の目的は何たったのでしょう?
彼自身も出発前でもいまひとつはっきりしていませんでしたが、途中でこんなことを漏らしています。

 

 

多分、私は回避したかったのだ。決定的な局面に立たされ。選択することで、何かが固定してしまうことを恐れていたのだ。逃げたといってもいい。


なかなか勇気ある記述です。
では、旅を進めて何かをみつけたのでしょうか?

 

私はこのような美しい風景を見るために旅をしているのではない。だが、このような風景でないとしたら、いったい何だというか。

 

ギリシャまで旅を進めても、まだこんな自問を発しています。
ここまで旅を進めてなおさら、目的は?とあらためて自問してもがわからなくなったのかも。

それまでの旅の中でさまざまな刺激をうけ、それを自分の中でどう受け止めていいのか整理しきれないのでしょう。
なにかにつけ明確にしなくてもいいじゃありませんか。旅をしてよかったことに間違いないなら。


   ◆      ◆      ◆

バスが予定通りに行かないなんてざら。
何のために滞在しているのか不明な日々。
一夜だけ愛を育む宿に一人で居つき、
言葉の壁を越えて現地の若者と飲んで語り明かし、
旅先で知り合った女性に興味を抱き、
最果ての地にある高級ホテルに1泊まりさせてもらったり、
死が日常的な暮らしをかいま見る etc.

旅先でのエピソードは具体的で、話題に事欠きません。

それらの面白さもさることながら、私がもっとも印象に残ったのは、ヨーロッパに入りこれからは順調と思ったら著者がとりつかれた思わぬ悩みです。
思い切って無計画な長旅に身を投じる無鉄砲さは、私はもはや失ってしまったとは昔は持っていた若さとしてわかる気もします。

この本の元となる新聞の連載が始まったのは旅から6、7年後。
活動的とはいえ、一種のモラトリアムとなっているこの旅を終えた後、ノンフィクションライターとして身を立てる著者の将来に向かう、きっかけと再駆動したエネルギーは何だったのだろう、と旅の後が知りたくなる6冊です。

追記:この旅のスピンオフとなる本「旅する力」にはそのヒントが・・・・。

 

深夜特急〈1〉香港・マカオ (新潮文庫) 深夜特急〈1〉香港・マカオ / 沢木耕太郎 (新潮文庫)
1994年文庫化
お気に入りレベル ★★★★☆

 

深夜特急〈2〉マレー半島・シンガポール (新潮文庫) 深夜特急〈2〉マレー半島・シンガポール / 沢木耕太郎 (新潮文庫)
1994年文庫化
お気に入りレベル ★★★★☆

 

深夜特急〈3〉インド・ネパール (新潮文庫) 深夜特急〈3〉インド・ネパール / 沢木耕太郎 (新潮文庫)
1994年文庫化
お気に入りレベル ★★★★☆

 

深夜特急〈4〉シルクロード (新潮文庫) 深夜特急〈4〉シルクロード / 沢木耕太郎 (新潮文庫)
1994年文庫化
お気に入りレベル ★★★★☆

 

深夜特急〈5〉トルコ・ギリシャ・地中海 (新潮文庫) 深夜特急〈5〉トルコ・ギリシャ・地中海 / 沢木耕太郎 (新潮文庫)
1994年文庫化
お気に入りレベル ★★★★☆

 

深夜特急〈6〉南ヨーロッパ・ロンドン (新潮文庫) 深夜特急〈6〉南ヨーロッパ・ロンドン / 沢木耕太郎 (新潮文庫)
1994年文庫化
お気に入りレベル ★★★★☆

 

 


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